終わりは始まり

　「東京でオリンピックが決まったね」
　貴方は、不自然に止まった会話にアクセントを放とうとして、そう切り出しましたよね。御蕎麦を食べながら、俺はその言葉の続きを待った。
　「それでさ、何か研究でも話題になりそうなことをやったら良いと思うんだよね」
　何を言っているのか分からない俺は、きっと虚な目をしながら「はあ」と言ったと思う。
　「たとえばさ、細胞を集合化させて、五輪のマークにするとか」

　その言葉を聴いた瞬間、俺にははっきりと２つの岐路が見えた。
　この意見にアグリーして政治の世界に身を任せ、このくだらない世界をしがみつくように生きていく道。この意見をディスることで、この環境を卒業し、シンプルな現実を直視し続ける道。

　無表情をベースに笑いながら頷く隣の貴女を見つめて、直観的に「こうなってはいけない」と思ってしまった俺が出した答えは、いつものようにシンプルだった。

　「...笑。それってなんの意味があるんすかw」

　東京五輪の閉会式を見終えた今、その回答は適切だったと思うし、もしタイムマシンがあれば、あの頃の自分を心から褒めると思う。
　当然のこと乍ら、このやりとりだけが決別を生んだわけではないし、今の状況を創発しているわけではないだろう。だけど、確かな自分自身の選択であったとも思うし、このような否定の連続が、現在を創造しているとは思う。
　すっかり切り離れた関係性の中で、貴方の出した回答を囲うようにして新しい仲間たちが集まっていく。それはそれで素晴らしいことなんじゃないかな、と俺は新しい仲間たちと知的交流を楽しむことにしようと思う。

　その本当の目的は、、まだまだ明かせないけど、ね？

　「たかはしくんは、こういったことをすぐに思いつくわけ？」
　そうなるまでに、どれほどのクロニクルを通過しなければならなかったか。むしろ、わかってしまうからこそ難しかった日々を、見抜いてしまうからこそ泣いたり泣かせたりしてしまった日々を、お互いに共有していけたらと思う。きっと同じような想いを通過しているはずだから。

　その先には、とびっきりの真実を掌握できるだけの準備が整えられていることを信じて。