漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

死都ブリュージュ

2012年03月28日 | 読書録

「死都ブリュージュ」 G.ローデンバック著 窪田般彌訳
岩波文庫 岩波書店刊

を読む。

 二百ページにも満たない、中編といっていいほどの短い小説なのに、なんて長く積読していたのだろう、と思う。初めて「死都ブリュージュ」を知った、高校生の頃から考えると、四半世紀で、本当に長い。これには理由があって、当時、読んでしまうのがもったいないような気がして、後回しにしたのだ。それ以来、今に至っていた。
 もったいないような気がしたのは、当時が多感な時期であったのと、ゆっくりと物語を味わうように読むというやり方をしていた時期であったせいだ。国書刊行会の「フランス世紀末文学叢書」の一冊として刊行された「死都ブリュージュ・霧の紡車」を神戸市の中央図書館から借りてきて、最初に「霧の紡車」を読んだのだが、とても美しいと思った。それで、その同じ作者の長編はもっとすばらしいのだろうと思い、今度買って読もうと決めたのだ。ところが、その後で色々と欲しい本が出てきて、どんどんと後回しになり、やがて岩波文庫から窪田般彌訳のこの本が出たので買ったのだが、その頃はちょうどほとんど本を読まない時期だったので、書架にしまったままになってしまっていた。結果として、読む時期を逃してしまった一冊になってしまったわけだった。
 今回、ふと久々に手にとって、通勤の間にさらりと読んでしまった。感動したというより、やっと読んだなという気持ちだった。よい小説だとは思うが、物語世界にどっぷりと耽溺できる頃に読むべき本だったとも思った。
 この一作で、ブリュージュという町を「殺して」しまったローデンバック。町の人びとにしてみれば、そんな形で町が有名になるのはいい迷惑だろうが、考えてみれば、そんなことはなかなかできることではないから、すごいことだと思った。ローデンバックの想像力の勝利だ。一人の詩人のイメージが、現実を侵食し、町をまるごと包み込んでしまったのだから。