秋田から酒田へ向かい、一泊した。
日本海に面した街である。
かつてNHKで放送されていた「おしん」の奉公先がこの酒田だった。
僕は知らなかったのだが、妻に言われて知った。
「本間様には及びはせぬが せめてなりたや 大尽に」
とまで唄われた豪商がいた市。
だが、その面影はもはやないという印象。
この市で泊まった宿は最上屋旅館という、大正時代からあるという宿。
しかし、宿泊費は安く、手ごろ。
この旅館はネットで捜したのだが、「ただ古いだけの旅館です」というキャッチフレーズに、どうだろうかと思ったのだが、なかなか良い旅館だった。
何より、僕は神戸の出身なのだが、東京に中学校の時に修学旅行に来た際泊まった、本郷の森川別館と似た印象だったのがとても懐かしかった。各部屋に行くのにそれぞれの階段があるという、複雑な造りの宿。出来た頃が同じなのだろう。実際、僕たちが泊まった日も新潟の方の高校から運動部の子たちが試合のために宿泊していた。
宿の食堂にアルバムがあって、開くと、まるで戦争の後のような荒廃した町の写真が沢山収められていた。しかし、終戦後の写真にしてはちょっと変だ。それで宿の主人に聞いてみると、1976年に起こった「酒田大火」の写真だという。強風に煽られて、火は街の22.5ヘクタールを焼き尽くしたらしい。
「それからはすっかりさびれてしまって」と旅館の女将さんは寂しそうだった。
写真は山居倉庫。酒田の代表的な観光場所である。