ということで月曜日の今頃感想文、続きです。
那須川天心はメキシコのバンタム級王者というルイス・グスマンに判定勝ちで、デビュー2戦目も勝利しました。
那須川、試合前のコールで、顔を押さえて笑うパフォーマンス。
自分に懐疑的、冷笑的な目を向ける人々への皮肉と反撥でしょうか。
試合が始まると、構図としてはデビュー戦の与那覇勇気戦と同じだ、と一見してわかる。
一回り小さい相手で、なおかつスピードも落ちる。言えば「楽」な設定の試合。
もちろん、デビュー二戦目で、新人同士の試合でもないのに、相手とはっきり差があること自体が凄い、と言えばそうですが。
初回から那須川、相手の出鼻に余裕を持って右フック合わせ。
続いてグスマンの右を外して左カウンター、良いタイミングで入って、早々にグスマン、ダウン。
立ったグスマンに同じパターンの左。ボディアッパー、右フック返しも飛ばす。ステップ刻んで余裕を見せる。
2回、グスマンが前にのめるたびに左ストレート、ボディアッパーを打ち分ける。
3回は引き寄せておいて右フックでチェック。なおも打ってくるグスマンの顔を見ながら左ボディアッパー。グスマン効いたか、止まる。
4回も左アッパーを出鼻に叩き、右フック引っかけ。プッシュしてグスマンをロープへよろめかせ、肩を怒らせて歩くパフォーマンス。
5回、足を踏まれて尻餅をつきかけるが、それ以外は事無く、合わせの技を繰り返し披露。
技巧派サウスポーとしての手練れぶりがまざまざと見える。こなれた巧さは新人ボクサーの水準を大きく超えたもので、いちいち見事。
しかしこのあたりで、見ていて「あ、この試合、6回戦やなくて、8回戦なんや...」と気づき、なんというか「ふー」と思わず息をついてしまいました。
序盤からやりたいことをやれている。鮮やかに奪ったダウンのみならず、相手を見て、常に適切な対応を見せている。
相手は新人ではなく、打たれる耐性が無いような「あまり強くない」外国人選手でもない。
しかし同時に、スピードもパワーも、一流選手のそれではなく、怖さの無い選手でもある。実質、一階級下の選手でもあり。
那須川のスピードとテクニック、その現状からして、まず間違いは起こりそうにない。
それがはっきりわかるだけに、序盤から那須川のボクシングが、相手のやることに対応する型のものばかりで、自分から出て相手を崩し、展開を作って行く、という部分がほぼ見えないことに、がっかりしていました。
また、こうして対応オンリーのボクシングで勝ち切ろうというのは...このような危険の少ない相手ならともかく、今後さらに上の相手と当たったら、という想定はないのだろうか、という疑問も浮かんできました。
6回、左ボディアッパーからの連打でグスマンを追い立てる。右アッパーのカウンターでぐらつかせ、また連打。
しかしグスマン倒れない。迎え撃ちきっかけで再三、ピンチに立っているが、攻める流れを奪われてはいないので、何とか保っている。
この回終了後、那須川がコーナーで本田明彦会長に「どうやったら決まりますか」と問い、それをマイクが拾う。
そりゃ、能動的に攻めて崩す組み立てがないまま、人ひとり簡単に倒せるかいな、諦めさせられるかいな...と、素人ながら思うところ。
グスマンの実力が那須川を脅かすものではないのは事実だが、さりとて「きつくなったら、座って帰ろ」というような、俗に言う「噛ませさん」でもないのだし。
しかし、こういう問いを試合中にしているあたりも、普通では無い。
普通なら、一生懸命やって勝てるかどうか、倒せるかどうか、という話なのに、そういうところには立っていない。
良くも悪くも余裕がある。しかし、その余裕と、否めないボクサーとしての経験不足ゆえに、根本的に食い違っているところが見える。
7回、展開変わらず。しかし終盤、右フックカウンターでグスマン、ダウン。
これが一旦、スリップの裁定に変更。ところがインターバルでもう一度、ダウンに戻す、というアナウンス。
これ、誰が、どの立場の裁量で、ルールを運用して、レフェリーの裁定を変更したのか、そしてまだ戻したのか、いずれ詳らかにしてもらいたいものです。
こんな好き勝手が通るなら、それこそ何でもやりたい放題になってしまいますんで、ね。
それはさておき、8回も那須川はヒットで明らかに上回るも、グスマンの前進止まず。
ラストで左を伸ばしてダウンさせたように見えたが、判定はスリップ。まあこの辺は勝敗に関係なし。判定は大差でした。
試合としては、やはり並外れた能力を持ち、しかしプロボクサーとしては新人、という那須川天心の特殊性が存分に見えたものでした。
何しろ速いし、合わせ技が巧い。際どいタイミングでも打てる。精神的にも落ち着いている、というのを通り越し、「要らんこと」をする部分も含め、余裕がある。
しかし、試合運びにおいて、自分の技術や能力をどう使うか、という面では、まだ経験不足。
何しろ基本「合わせ」ばかり。相手の出方に対応することで、試合を作っている。
それは言えば、粟生隆寛から教わったことを一生懸命やっている、ということなのかもしれません。
ただ、今後上を目指すなら、最初から最後まで、一定の間を取り、自分から相手を崩しに行かず、打ち込む姿勢を取らず、合わせる姿勢「だけ」で闘っていけるものではない。
それを那須川天心のスタイルとして固める、というのなら、それこそ粟生隆寛二世の道を極めねばならない。
それでもなお、行く道は険しいものがありましょう。
果たして、その現状を、那須川や周囲がどう考えているものか。
本田明彦会長のコメントは、いかにも、良い意味で帝拳ジムらしいなあ、と安心しました。
足りないものがあり、それを身に付けるための試合数が必要だ、ということなら、それは極めて正しい認識だと思います。
しかし他方、KO出来なかった、という結果について巻き起こっている議論?賛否の声?の大きさは、実際にリングの上で那須川が残した、試合内容という「現実」から、何か大きくかけ離れたものだ、と感じます。
言ってしまえば「そりゃ、倒せませんよ」と一言で済む、そんな試合だったというのに。
デビュー二戦目にして、すでにAmazonPrimeVideoのボクシング興行において、対世間のメインコンテンツを担う存在であることと、新人ボクサーであるというギャップは、まあ仕方ないことかもしれません。
今後勝ち続けて、タイトルを手にするようになれば、解決する話ではあります。
ボクサー那須川天心は「強い相手をそうそう倒せはしないが、速くて巧いサウスポー」としての大成を目指す、という方向性で作られている、と見えました。
しかし、どうもそれで良いとは思われていないし、そう見てもらえる状況に、彼がいないのも、確かなことのようです。
その辺のギャップが、歪みが、この特殊な状況にある、速くて巧いルーキーの今後を、どう左右するものか。
ある意味では、実に興味深い存在です。しかし、いろいろつまらん話になるんではないか、と心配でもあります。
とりあえず、拳の負傷が癒えた後、次あたり、体重の合った相手との試合を見てみたいものですね。