さうぽんの拳闘見物日記

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その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

阿部麗也、際どい間合いでの「斬り合い」制す 前田稔輝、健闘も初黒星

2022-12-07 08:40:15 | 関東ボクシング



土日の試合、感想文続き。
関西ボクシングの貴重なホープ、日本拳法出身のサウスポー前田稔輝の日本タイトル初挑戦は、後楽園ホール。
G+生中継がありまして、しっかりと見られました。


しかし挑む相手が、自称、と頭につくものの、実際は自他共に認める、と言って良さそうな、センス溢れる「天才」阿部麗也。
前田は、悪いのが王者のときに挑むことになったものだなぁ、と思いつつ、一打の威力、タイミングに秀でた前田なら、阿部を捉えて倒す可能性ありか、と思ってもいました。

初回、サウスポー同士の優劣は右リードの応酬で決まる、とは言い尽くされたセオリーですが、互いに下げ気味のガードから、右リード。
前田の右ジャブを、阿部が敏捷に躱す。前田は振りの小さいジャブを2、3発。外されると少し前に伸ばした右を打つが、これも阿部が躱す。

2回、阿部が出る。左ボディから右ショートフックの返し。
前田も攻めて、左ストレートから右フック返し。これに阿部が右フック合わせ、相打ち。
阿部左ストレートをカウンター。

3回、両者右ジャブ当て合う。前田がダイレクトで左のクロス。
しかし阿部がダブルジャブから左、そして右返し。前田のパンチを外して右フックのヒット追加。
前田も左ストレート当て返す。


両者ともにシャープで、好調そう。しかし全体的に、阿部の方が攻防のバリエーションに富み、多彩。
際どい打ち合い、というより斬り合い、外し合いという展開は、前田にすれば力を出せる展開のはずだが、相手のレベルがこれまでの試合とは、全然違う。


中盤以降、両者足使ったり、圧したりと、目まぐるしく展開が変わる。
前田が足を使うと阿部がファイター風に頭を動かして迫り、阿部がステップを踏むと前田がジャブから切り込んで行く。

5回、前田の左ストレートを外した阿部の右フックがヒット。
6回は詰めた間合いに立った両者。阿部の左クロスが入るが、前田の左アッパーもかすめている。
しかし前田も左ストレートを当てる。スリルある攻防続く。


インターバル中、ふと見ると、前田がうがいして吐いた水が真っ赤。
口からの出血は少し前から始まっていたが、ただ切れただけでこうなるものか、それとも...過去の事例がいくつか、頭に浮かんでくる。


7回、阿部が身体を少し沈めた姿勢から左。前田も左ストレート。この後、阿部も瞼をカット。側頭部からも出血あった。
8回以降も互いに際どく外し、当て合う。間合いはけっこう詰まっている時間が長い。
互いにリスク承知、しかし安易に打たせない。レベルの高い打ち合いというより「斬り合い」という風情。

9回、前田の小さいワンツー決まる。直後もつれ、阿部が前田をリフト。余裕あり?
しかし阿部、やや疲れ?前田が右ジャブ、阿部の左外して右フック。出鼻に左のショート。
クリンチの際、阿部がもつれたまま打ち続ける。ラフと言えばそうだが、不思議と「闘志の現れ」と見えるのは、ここまでの試合展開がクリーンだったせい、か。

この回取られた阿部だが、10回立て直し。右リードを正確に当てる。
前田左ヒット。さらに阿部の左右を外す。しかし阿部、さらに三発目を返して左ヒット。
終盤に来て、闘志失わず動きも落とさず、センスの片鱗を見せる。この辺りはさすが阿部。

しかし11回、前田苦しいながらも左を鋭く突き立てるヒット。
最終回も劣勢を意識して、鋭い右リードから前に出て、左クロスのヒットに繋げる。
阿部も左をヒットし返す。前田が手数を出して攻めるが、阿部は大半を躱して、試合終了。

判定はドローがひとり、あとは二者が阿部。
僅差という見方はあるか、と思うがドローはないかな、という印象でした。



WBOアジアパシフィックのタイトルがかかっていたので、12回戦となりましたが、王者阿部、挑戦者前田ともども、終始質の高い...というのみならず、スリル溢れる攻防を見せてくれました。
両者ともに積極的で、間合いも詰め気味、際どいタイミングで狙い合い、その上で外し合う。
おそらく国内のレベルにおいて、これ以上中身の濃い、目の離せない12ラウンズを見られるカード、組み合わせは、そんなにはないと思います。


その上で、やはりキャリアにまさる阿部麗也が、多くの局面で、ヒットの深さ、正確さ、そして試合運びの巧みさにおいて、前田稔輝の上を行っていた、と見えました。
時に前田の鋭い左、右返しを受けても、その都度立て直し、かと思えば即座に「相殺」の手を打ち、という具合で、終始試合の展開をリードしていて、若干ピンチと見える時間帯があっても、それを長引かせることがなかった。
数字を言えば小差、中差のいずれにしても、クリアな勝利だったと見ました。


前田稔輝はどうやらアゴを折っていたらしい、という話もあるようです。
はっきり報じた記事などは見ませんので、真偽の程は不明ですが、それがなくても、阿部麗也のような一級品の王者...元々天才的なセンスを秘め、挫折を経てその生かし方も身に付けた王者相手に、最後まで脅威を与え続ける、手強い挑戦者だった。
その闘いぶりは見事でした。
敗れたとはいえ、恥じることのない試合だったと思います。


一打の強打を秘めた挑戦者を迎える王者、一級品のセンスを持つ王者に挑む挑戦者、振り返ればどちらから見ても「冒険カード」の趣あり、な一戦でしたが、そういう試合だからこそ、やはり組んで、やって見せると、やっぱり、良い試合になる。
そういう「好例」として残った試合でした。両者に拍手、両陣営にも拍手を送りたいと思います。




コメント (3)
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