さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

なりふり構わぬ「挑戦者」を、最後は粉砕 井上尚弥、比類無き王者の証明

2022-12-14 21:22:03 | 井上尚弥



ということで昨日は有明アリーナで観戦してきました。
なかなかタイトなスケジュールで、というのは毎度のことではあるんですが、今回は本当に色々と...まあその辺は後回しにして、メインの感想文から。



席番号も足元の表示も見えない、真っ暗な客席の状況とは相反する、メイン入場時の派手な照明演出で場内盛り上がりましたが、試合が始まると、WBOチャンピオンのポール・バトラーは、高く締まったガードとフットワークを主体に、引いた立ち上がり。
よく言えば彼我の力量差を認めた上での待機戦法、相手が焦れるのを待ってカウンター狙い、ということになるが、悪く言えば、これほど露骨に「イモ引き」でええの、仮にも王者同士の統一戦でしょう...と。
まあ、言えば遅れてきたタイトルホルダー、というか、実際は技巧派だが地味な上位挑戦者、という選手でしかない、とは、誰もが思うところではあるんですが。


対するWBA、WBC、IBFチャンピオン井上尚弥ですが、昨日紹介した森合正範記者の記事にもあったとおり、「こうなる」ことは推察済みだったようで、驚きも苛立ちもほぼ皆無。
バトラーのジャブ、その間合いのぎりぎり外に立ち、プレスかけながら、ガードの上を狙って叩く。
パンチの威力をしっかり伝え、バトラーの守勢を「意図したもの」ではなく「やむなきもの」に固定してしまう。

2回、バトラーがフェイント見せるが、井上全く動じず。ワンツー、右ストレート、右ボディから左へと、断続的に攻める。
バトラー、左フック一発。しかし井上が左から入ってダブル。バトラー、ワンツーも外される。
バトラー、スローで見るとボディも巧くエルボーブロックしているが、さりとていつまでも防ぎ切れるものでもなさそう。
3回、井上がコーナーに詰め、バトラーのブロック承知で右フック、4発。バトラーもコンビ返すが、続かない。


ここまでは、ひとしきり普通に攻めて、出てくるかどうかを見ていたのだろうなあ、と思いました。
しかし「これは来んな」と見たか、少しずつパフォーマンスによる誘いが出始めます。


4回、井上が両手広げて回す。少しテンポ落としつつ?左ジャブ繰り出す。これも誘いか。
その上で右左右左右と5連打。4発目の左だけボディへ。ガード叩いてリズム取っている。
5回以降も断続的にコンビを出しつつ、ガードを下げ、低い姿勢で顔を正面にさらし、止まり加減で構える。
こんなん、昔、古いボクシング漫画で読んだなぁ...。


しかしバトラーなかなか来ない。7回も両手を下げ、敢えて手打ちのパンチを打つが、それでも来ない。
バトラーの「方針」は強固。左ダブルを一度見せるが、あえなく外される。
そいで、また足使う。毎日、ちゃんと走ってるんやろうなあ、と感心。今、そこ感心するポイントか、という疑問はあれど。


冗談抜きで、まがりなりにもタイトルホルダーになる選手が、これだけ引いて下がって、という構えに徹すると、そうそう打ち崩せるものではない。
場内、若干弛緩、苛立ちも少々、野次も軽く飛ぶが、それも「今日は仕方ないか」という理解を込めたものだったかな、という印象。
もっとも、リングサイド15万円でしたっけ、もっと高い?何しろ高額のチケットを身銭切って買って、見に来ている方々にすれば、何か一言、言いたくもなろう、ということはわかりますが。
そうではないこちらとしては(笑)今日は120-108の日かな、ダビ・カルモナ戦以来、久し振りの判定か...という感じでありました(ドネア初戦は11回KO、と見なして)。


8回、バトラー少しコンビ出すが、ヒットは少なく、井上にガードされ、外される。
9回はステップ踏んでリズムを刻み、ワンツー。バトラー、スリーパンチを二度出す。それ以外はしかし、やっぱり足使うのみ。

井上の攻めは断続的に出るが、誘う狙いとは別に、どこか抑え気味な印象も。
前日計量の30グラムオーバーというのはご愛敬としても、やはりバンタム級のコンディション作りは限界があったものか、或いは伏せられている何ごとかがあるのか。
もっとも、これだけ長きに渡り世界のトップクラスで闘っていれば、何かしら悪いところもあって当然。
相手が引きっぱなしというやりにくさを割り引いても、やはりベストのシャープネスには欠ける、とも見えました。


それこそオマール・ナルバエス戦の頃なら、相手の頭の硬いトコでも委細構わず打ちかかっていたでしょう。
そういう意味では若干不満を感じつつ、大人になった、真の王者となった井上の成熟を感じもしました。
控え、抑えねばならない部分があったとしても、それを踏まえた上でバトラーを誘いつつも封じている。
引きっぱなしの相手に焦れたり苛立ったりもせず、バランスを乱すこともない。当然のこと、ポイントは完全に抑えている。
そういう意味では、これはこれで大したものだなあ、と思い、ちょっと安心もして、試合を見ていました。


ところが10回、やはりというか、井上は倒すシフトに入ったか、その前段か?という動きを見せる。
丁寧に間を取りつつ、プレスに傾いたように見える。ワンツーから右ボディ、左ボディ。
パフォーマンスぽい動きは消え、じわじわと「城攻め」に出た感じ。

そして11回、ゴング前に両足を踏みならし「進軍」を宣言した?
もう残り2ラウンズ、内なる不安が仮にあったとて何とかなる、行くぞ!ということか?
そんな風に思っていたら、コンビネーションを続けて繰り出し、攻め込む。








右ボディを思い切り叩きつけ、場内に怖い音が響いたのち、猛ラッシュ。
ガードを絞って耐えようとしたバトラーですが、姿勢が崩れかけたところに?左ボディが入ったのが致命傷。
崩れ落ちてカウントアウトされ、その後は精根尽きたか、コーナー下に横たわってしまいました。








KO宣告直後の井上尚弥は、キャンバスを踏みならしたのち、両手を上げて飛び上がり、喜びを表していました。
ことボクシングに関しては極めて聡明で、この試合展開も事前に想定していたとおりだったのでしょうが、それでもこの相手がこの闘い方をしてくると、なかなか倒すと言っても簡単ではない。
しかしその難しさを誰よりも分かっている本人だからこそ、ある意味ドネアを倒すのとは違った喜び、そして安堵があったのでしょう。
そして、すでに誰もが認めていた階級最強の実力を、形式上においても証明することになる、4団体統一の喜びもまた、同様に。



改めて、とうの昔に、というか3年前くらいに達成されていてもおかしくない偉業ですが、ゾラニ・テテのWBSSトーナメント離脱に始まる、各方面でのトラブルや好き勝手が積み重なって、そこにコロナ過という災厄もあって、随分と遠回りになってしまったものです。
井上尚弥のキャリアを考えれば、今頃Sバンタムも全部終わって、さてフェザー級どうしよか、と言っていなければいかん頃なのに...と苛立つ声も聞くくらいです。

確かにそうかもしれません。しかし、とりあえず遠回りの末に、形式上きちんと、4つのベルトを腰に巻く、という形で治められたのは、まずは良かった、と終わってみて思います。
それは井上尚弥の試合後の様子から思いましたし、また、ある意味非常に難しい闘い方をする相手をきっちり攻略、というより「粉砕」した試合自体もまた、これはこれで、色々と象徴的というか...良いものだったなあ、と。



それにしても、と思います。
井上尚弥、最初の世界王座戴冠からもう8年が過ぎ、その実力に見合う評価を得るのも、思った以上に年月を要しました。
その圧倒的な才能と努力が、本来あるべきレベルの名声になかなか繋がらない、周辺事情の貧しさは、WBSS開催という「他力」によってかなりの挽回を見ましたが、それでも上記の通り、見方によってはかなりの足踏みだったかもしれません。
そして、本来ならばもう無理だったかもしれない、バンタム級での最後の試合は、難敵攻略のためのみならず、どこか自重の匂いがした闘いぶりでもあったように思います。


しかし、普通なら判定でも仕方ない、と思っていたところ、やはりそれを肯んじない井上尚弥の、王者としての誇り、スターボクサーとしての使命感を、最後は強烈に見せつけられました。
単に強い、巧い、というだけでは収まらない。ボクシングとは、チャンピオンとはかくあれかし。
それを身を以て体現する意志。それを実現する実力。


そしてそれを裏付ける、この偉大な才能の、長きに渡るボクシングに対する偽りなき献身の前には、ひたすら尊敬の念を抱きます。
長きに渡ってボクシングを見てきましたが、今、井上尚弥の闘いを見続けていられることにこそ、その甲斐があったのだなぁ、と改めて、思わせてもらえました。



アンダーカードがどうとか、配信が大変な...というか、馬鹿なことになったらしいとか、あの会場如何なものか、とか、それ以外にもあれやこれやと色々ありましたが、それはまた後日。
基本、良いものが見られたという喜びが先に来たのは確かなんですが、それはそれとして...(笑)。



※写真提供はいつもの通り「ミラーレス機とタブレットと」管理人さんです。
いつもありがとうございます。



コメント (4)
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