非国民通信

ノーモア・コイズミ

日本的雇用を象徴するユニクロ

2012-06-10 11:17:45 | 雇用・経済

大学1・2年生に内々定 ユニクロ、約10人に(朝日新聞)

 衣料大手「ユニクロ」の柳井正社長は8日、朝日新聞のインタビューで、今月までに大学1、2年生約10人に入社の内々定を出したことを明らかにした。一方、今年3月を目標にしていた「英語公用語化」は、進行が遅れ気味だという。

 ユニクロは昨年末から学年にこだわらない採用を始めている。これまでに大学1、2年生約1千人から応募があり、インターンシップや面接をへて、約10人を選んだ。大学卒業後に入社する予定だ。柳井社長は「大学が休みの時に店舗で仕事を経験し、卒業と同時に店長になることを目指してほしい」と話した。

 外国人社員が参加する会議は英語を使う「英語公用語化」は、今年3月からの実施が目標だった。しかし店長ら正社員全員に課している「TOEIC700点」に到達できた人は25%程度。柳井社長は「海外の店が増え、尻に火がついてきた。あと1年で(700点到達者は)半分くらいになると思う」と述べた。

 

 この辺は前にも取り上げたところですが、端的に言ってユニクロは考え方が古すぎます。まぁ、それは日本において「改革」を標榜する人には概ね共通することなのかも知れません。行政なり経営者なりの特別な意図がなくとも時代とともに世界は自ずと変わっていくものですが、それを「変えない」ために積極的に介入しようとする人もいて、こうした振る舞いがしばしば日本では「改革」と受け止められてきたのではないでしょうかね。例えば新興国の台頭で日本の製造業の国際競争力に陰りが見えてきたときに、先進国型の高付加価値産業へシフトするのではなく、あくまで製造業中心の新興国型の経済モデルを「変えない」ために労働/雇用の規制を緩和して賃金抑制を支援するような「改革」等々。

 ユニクロが際立って保守的と言えるのは、これがあくまで「大学卒業後に入社」を想定した仕組みになっているからです。結局、ユニクロモデルでは「大学卒業→即就職」という近代日本の慣習から一歩たりとも抜け出していません。ただ単に、採用を決める時期を大きく前倒ししただけ、他社に抜け駆けする形で青田買いを進めているだけの話です。本当に「今までとは違う」ことをやりたいのなら、「卒業→就職」という構図を変えなければならないでしょう。「いつ卒業しても良いし、いつ入社しても良い」のであれば、それは間違いなく日本的な就職モデルを変えるものと言えます。しかしユニクロ採用は、決してそのようなものではありません。あくまで大卒と新卒に拘ったやり方です。

 そんなユニクロですが、伝えられるところに寄れば「大学1、2年生約1千人から応募」があったそうです。そして採用は10人、まぁ昨今の雇用情勢で有名企業ともなれば、それくらいの競争倍率は普通なのかも知れませんね。私の勤務先の中小企業ですら、従来は本社で開催していた就職説明会を「応募者が多すぎて人が入れない」との理由で別に会場を借りて行うようになったりしているくらいですし。私より年代が上の社員に言わせれば「何でウチの会社に入りたがるのか分からない」とのことでしたけれど、それより理解しがたいのは、まだ夢も希望もあるはずの大学1、2年生の段階でユニクロに入りたがる人の方ですね。そりゃ卒業を目前に控えて他に行き場がなければ、一応は有名企業としてユニクロを選ぶ人が出るのも不思議ではありませんが……

 別に大学は4年で出なければいけないようなものではない、勉強する気があれば何年だっていても良いと思いますし、就職するのは卒業したときではなく収入が必要になったときで十分でしょう。「いつまでの学生気分じゃダメだ」とは日本の職場の決まり文句のようなものですが、その前提となっているのは「卒業→就職」という、学校を離れてから会社に入るという固定観念です。別に大学に在籍したまま正規に就職したっていい、学生であることと会社で正規に働くことは本来なら対立するものではないはずです。まぁ、日本特有の「社会人」とは身分であって「学生」とは両立し得ないものなのでしょう。そんな日本の因習とでも言うべきものを、「大学卒業後に入社」を自明とするユニクロは忠実に守っていると言えます。

 ちなみに、英語公用語化云々はどうなんでしょうね。髪の無くなった社長が会社から紙を無くすとか宣言して話題を呼んだこともありましたけれど、このペーパーレス化と似たような類と思えないでもありません。要するに、「社長の思いつき」で「話題性を呼びそうな」かつ「流行ってる感じ」のことをやってみただけで、従業員はほぼ全員が迷惑していると。実際、ただの店長クラスが外国人とダイレクトに会議をする必要性に迫られるような場面がどれだけあるのか、それによってどのようなメリットがあるのか甚だ微妙です。海外店舗の店長とやりとりするのはマネージャークラスであって、国内の店長止まりには必要性がなさそうですが、まぁ日本の伝統的な雇用ですと(男性)正社員は基本的に幹部候補であって、いずれは海外事業にも関与するレベルを求められる、そこに到達できなかった人は「無能な中高年」などと呼ばれてリストラの対象になる、みたいなところがあるのかも知れません。ゆえに、幹部クラスまで出世しないと必要にならないはずの英語で会議に参加する能力もまた社員全員に要求されるのでしょうか。

 

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9 コメント

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髪は長い友 (雑民子)
2012-06-10 18:28:34
この程度の話題を新聞が扱うのは、偏にマスコミ自体が新卒至上主義だからじゃないでしょうか。
中途採用があってもキャリア採用のみだったりするし。
新卒が当たり前のマスコミからすれば、「地域限定正社員制度」や1・2年時の内々定を打ち出すユニクロが珍しくて仕方がないのかもしれません。

国会中継や衆参の予算委員会をたまに録画して視聴するのですが、新卒一括採用の見直しといった話はまず出てこない。
「新卒・既卒の採用区分をなくす」政策を盛り込んでいるのはたちあがれ日本ぐらいで、雇用にうるさい社民党や共産党、自称“ワカモノのミカタ”の公明党でさえ、「大卒後3年以内は新卒扱いに」などという付け焼き刃の政策しか打ち出せないのですから、「未来なんてあるわけがない」ですよ。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-06-10 22:09:04
>雑民子さん

 はて、記事本文はお読みになられたのでしょうか? ユニクロこそガチガチの新卒至上主義なのですが。新卒至上主義に批判的な「つもり」でいらっしゃるようですけれど、単に採用時期を前倒ししただけで「卒業したら」採用することが新卒採用とは異なるように見えるとしたら、それこそ改革を気取りつつ従来の枠組みにしがみつく昨今のトレンドから抜け出せていないように思います。
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補足 (雑民子)
2012-06-10 22:32:50
>管理人様

私は雇用問題を“分かったつもり”のユニクロなど相手にする必要が無いという事を言いたかったのですが、少々言葉足らずだったみたいですね。失礼しました。
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Unknown (princessmia)
2012-06-11 18:02:39
卒業時期の自由の実現に際しては学費無料化も同時稼働させねばなりません。

日本の大学の学費は世界的にも高く、デフレの中で貸与奨学金という名の借金を背負うことにもなりえます。

無料化かつ卒業時期自由化の二つが必要だと思われます。
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Unknown (kei)
2012-06-11 19:22:59
はじめまして、大変面白く読ませて頂きました。
>大学に在籍したまま正規に就職したっていい
という記述に関して、少し情報を提供させてください。

 昨年、社会人しながら大学院に通おうとしていましたが、某トップ大では合格後「退職証明」(もしくは「学業専念書」)の提出を求められました。
 学費のため、最初の1タームくらいは会社に通いながら、月一くらいで学校へ通おうとしたのですが・・・(実際学生はほとんど授業なんて出ていないんですよね)
 どうにもならず、あきらめた経験があります。他国ではもっと一般的なのでしょうか?私も社会人学生は相反しない立場だと思います!
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-06-11 23:00:42
>princessmiaさん

 デフレ下では出世払いも難しいだけに、学費の負担は大きいですよね。ますますもって、親の経済状況で子供の有利不利が分かれてしまうところもありますし。しかるに我らが政府の目指しているのはどっちなのか、どうにも我々の社会は新たな世代が高等教育を受けることを快く思っていないフシがあるような……

>keiさん

 「いつまでも学生気分ではダメだ」の裏返しでしょうか。大学側までも会社勤めと大学に通うことを相容れないものと取られているところもあるのかも知れません。ただ実際問題として社会人学生は「勉強しない」傾向が見られるような気もします。仕事が忙しくて勉強は疎かになりがち、そして教授側も仕事の方に配慮して社会人学生には厳しく言わないみたいなケースも学生時代には何度となく見てきました。正規雇用で働いた場合に仕事で拘束される時間が長すぎることや、どうしても仕事の方が大切にされがちで仕事が「本業」、勉強は「余暇の活動」扱いになる場合が多い、その辺が会社勤めと大学通いの相性を悪くしているようにも思います。会社の拘束を弱め、仕事の負担を軽くしていかないと、なかなか両立は難しそうですけれど、残念ながら我々の社会が向かっているのは逆の方かなとも。
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Unknown (Unknown)
2012-06-11 23:40:03
>それより理解しがたいのは、まだ夢も希望もあるはずの大学1、2年生の段階でユニクロに入りたがる人の方ですね。

まあ実際はだれも入りたくないと思いますよ。
ただ、安全のために受けただけでしょう。
内定の出た10人のうち、卒業後に実際に何人入社するか見ものです。
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Unknown (ここ)
2012-06-12 14:31:24
社会人博士はわりといますよね。研究機関などに勤務している人は取得しやすいかもしれませんが、企業人としてそれなりの責任を負っている人が大学通いするのは難しいように思います。

企業の人の社会人博士は、教授陣とのパイプづくりの面が強いような気もしますし。

社会人ではないのですが、(イギリス人で)イギリスの名門大の理工系のドクターを取得して、卒業後は大道芸人として1~2年様々な土地に行ってから就職した人がいるという話を聞いたことがあります。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-06-12 23:22:57
>ここさん

 そうですね、何せ私は文学部なので縁の遠い世界ですが、理系の研究者に関しては在学と会社勤務が両立できている場合もあるのかも知れません。ただ、就職中の人が新たに、仕事のためではなく純粋な向学心から大学に通うとなると、やっぱりハードルが高いんですよね……
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