非国民通信

ノーモア・コイズミ

打つべき手は明らかなのだが

2023-12-10 21:30:40 | 雇用・経済

介護現場、働き始める人を離職が初めて上回る 担い手不足が危機的(朝日新聞)

 介護職から離職する人が働き始める人を上回る「離職超過」が昨年、初めて起きていたことが厚生労働省の調査でわかった。この傾向が続けば人手不足はいっそう深刻化する。高齢者数がほぼピークとなる2040年度までに介護職を69万人増やす必要があるとされるが、先行きは厳しい。

 厚労省の雇用動向調査によると、入職率から離職率を引いた「入職超過率」は22年に介護分野でマイナス1・6%に。マイナスは「離職超過」を意味する。慢性的な人手不足が続いてきた分野だが、離職超過となったのは今の方法で調査を始めた09年以来、初めて。

 

 いわゆる団塊ベビー世代が要介護者になる2040年度までには69万人の増が必要との目論みと伝えられていますが、早くも介護職員は離職超過に転じてしまったそうです。これまでは曲がりなりにも就業者を増やしてきた分野であったものの、その必然的な綻びは誤魔化し続けられるはずもなく、(まぁ介護に限らず日本の就業環境全般に言えることですが)根本的なところからの方針転換が求められていると言えます。

 日本国政府の経済対策の一環としては介護職の賃上げも含まれており、その額はなんと「月額6000円!」と一部で話題にもなりました。物価上昇に追いつくことが出来ていないとは言え、2023年の全産業平均では3.6%の賃上げが行われたとも報じられており、月6000円の賃上げですと他業種の賃上げには遠く及ばない、今まで以上に介護職員が経済的に厳しい状況に置かれることは避けられません。

 「賃金水準は何によって決まるのか」と考えたとき、比例関係にあるものの一つには「就職難易度」が挙げられます。就職が難しい仕事は給料が高く、就職が容易な仕事は給料が低い、もちろん例外はあるにせよ当てはまるケースは多く、介護職はまさに典型でしょう。(仕事を続けることは難しくとも)人手不足で就職することが容易な業界は、往々にして給料が低く抑えられている、それが当たり前のこととして社会に受け入れられている傾向があると言えます。

 もし仮に「社会的な必要性が高い」ことと給与水準が比例するのであれば、介護職は高級取りになる、逆にコンサルタントなどは最低賃金が当たり前になると考えられます。ところが往々にして社会的な必要性と給与水準は反比例する、世の中に欠かせない職種ほど低い賃金で募られているのが現状で、そこで志のある人々がより報われる仕事を目指せば目指すほど、介護職の従事者は不足し、社会を支えるインフラが維持できなくなるわけです。

 もし世の中に介護職がいなかったなら──年老いた両親は「現役世代」が自らの手で世話をしなければなりません。高齢者向けの福祉の縮小は、その子世代すなわち現役世代の自己負担増に繋がります。ただ現役世代のなかには「たまたま」親が元気でいるから何もしなくて済んでいる人、あるいは親の介護を別の兄弟や配偶者に押しつけている人も少なからずいるわけです。そうした人からすれば親の介護は他人事、介護職のありがたみなど理解できないのでしょう。

 高額報酬が約束されれば、性産業にだって人は集まります。周りが羨むような高給が保証されれば、介護職だっていくらでも人は集まるはずです。しかし現実は賃金抑制が続いています。単純な市場原理が働くならば需要が供給を上回るときは価格が上がる、不足する介護人員を獲得するべく給与水準は上がらねばなりません。しかるに「そうさせない」力が働いているのが現状と考えられます。

 公共性の高い分野に独立採算制の発想を当てはめようとすると、何が起こるでしょうか。どれほど社会的な必要性が高くても採算が合わないのであれば、人件費を筆頭にしたコストカットか値上げが選択肢になる、介護の場合は前者が選択されていると言えます。しかし、消防や警察、自衛隊はどうなのでしょう。彼らは、何の収益も上げていません。それでも世の中に必要と見なされているからこそ相応の賃金が設定されているわけです。では介護は? 世のため人のために働いているのならば採算性とは別の観点から給与水準が定められるべきと言えますが──我が国では一部の聖域を除けば公共サービスにも独立採算を求めたがるわけです。

 また人材確保の手段も給与水準による健全な市場競争によってではなく、「選択肢を奪う」ことが主流になっている節も見受けられます。もちろん志を持って介護職を主体的に選択する人もいるところですが、そんな奇特な人だけで必要数をまかなえるはずもありません。しかし給料は上げたくない、そこで「介護士か就職先がない」状況が作り出されれば、薄給のままでも「他に選択肢がないので仕方なく」介護職に応募してくる人も出てくる、それが現状ではないでしょうか。

 実際のところ、年齢を重ねるほど転職先や再就職先は限られる、ホワイトカラーでの就職は困難になります。シニア向けの求人は肉体労働ばかり、しかも低賃金のものばかりです。若い間であれば(少なくとも介護よりは)楽で給与水準の高い就職先が選択肢として普通に存在します。しかし世間の経営者が欲しがるのは若い人材ばかり、敢えて中高年を採用しようとする会社は多くありません。中高年でも採用してくれるような職種となると低賃金の職ばかりで、その一つが介護職になっているところは否定できないはずです。

 介護職の低賃金には様々な要因がありますけれど、それは意図して作られたものでもあるようにも思います。中高年は会社のお荷物と政財界がキャンペーンを繰り広げ、そうしてホワイトカラーの世界から追い出すことで介護職へ人を誘導しようとしている、これが政府や経済誌の言う雇用の流動化でありリスキリングなのではないでしょうか。介護職は一種の流刑地をも兼ねており、そうなると志のある若い介護士の賃金も巻き添えで抑制される、誰もが不幸になるような手口が国策として続いている印象です。

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