非国民通信

ノーモア・コイズミ

雇用流動化における「プッシュ型」と「プル型」

2024-01-28 21:57:24 | 雇用・経済

 今回の北陸の地震で、岸田総理が「プッシュ型の支援」云々と語っていました。その支援が十分なものであるかどうかは議論の余地を残すものですが、「プッシュ型」があるからには「プル型」もあるのでしょう。この「プッシュ型」と「プル型」、使われる場面次第で指し示すところは一定でもなさそうですけれど、雇用の流動化を巡っても対照的な分類が当てはまりそうに思いました。

 一般論として日本国内の若年層における雇用流動化は「プル型」と呼ぶことが出来ます。若年層を対象とした求人は充実しており、労働市場から「プル」されている、求人環境に牽引される形で若年層の雇用が流動化しているわけです。新卒で採用しても3年以内に3割が辞めてしまうと雇用側の嘆きも聞かれるところですが、若者には転職先も十分にある以上、そこは企業側が引き留めに努力するほかないと言えます。

 もっとも政財界からは雇用の流動化は経済成長に繋がると、肯定的に発信されてきたわけです。ならば新卒で採用された若者がすぐに会社を辞めて別の職場に移ってしまうことは、もっとポジティブに受け止められなければ整合性がとれません。全年代で雇用の流動化を促進したいのか、それとも若年層は職場に定着させつつ、「若くなくなった人」の雇用を流動化させたいだけなのか、この辺を具体的に語る論者を私は見たことがないです。

 若年層の雇用流動化が「プル型」であるのとは対照的に、若くなくなった人──すなわち中高年は「プッシュ型」であると言えます。中高年向けの求人は至って限定されており、基本的には市場からの需要は乏しい、一方で雇用側は中高年の追い出しを望む傾向にあり、それは即ち退職へと背中を押す「プッシュ型」で雇用流動化を図っているわけです。若年層は他社からの「プル型」で、若くなくなった人は勤務先からの「プッシュ型」で、雇用流動化が進んでいるといえますが、それは全く別のものでしょう。

 政財界が推し進めているのは後者の「若くなくなった人」を対象とした「プッシュ型」の雇用流動化であり、若年層の「プル型」の雇用流動化はむしろ嘆いているのが実態です。プル型の方こそ健全な市場競争の結果と考えられますが、必ずしも我が国は市場原理に肯定的ではない、むしろ人為的に競争を抑制して雇用側優位の環境維持に腐心しているところもあるでしょう。それもまた、(一部の人にとって)理想の世界を作るための努力ではありますが……

 一口に「雇用流動化」が必要である云々と説かれるとき、その内容が「プル型」であるのか「プッシュ型」であるのかは問われるべきです。「プル型」の雇用流動化は健全な市場競争の結果であり、私は良いと思います。一方で「プッシュ型」の雇用流動化は若くなくなった人=中高年=子供を育てている最中の世代の収入を不安定化させるものでしかなく、日本社会全体の経済活動を停滞させるものです。この30年間の世界でも類を見ない日本経済の凋落の要因の一つには、「プッシュ型」に偏りすぎた雇用流動化があるのではないでしょうかね。

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