非国民通信

ノーモア・コイズミ

一度チャレンジしてみてはいかがでしょう、じゃねぇよ

2013-01-02 23:11:19 | 雇用・経済

月給12万!「人間カカシ」の仕事(R25)

「QOL(Quality Of Life)」を高める生き方が注目されています。趣味や家族との時間を犠牲にするぐらいなら、給与やキャリアはそこそこでいい。生活のトータルバランスを最重要視したいという願望とともに転職活動をされている方も多いと思います。

ただ、こういうことを言うと、「このご時世、そんなに甘いこと言ってられないよ」「生活重視といっても、お金がなけりゃ生活できないだろう」という現実的な方もいます。たしかに人生甘いものではありません。しかし、そんなに捨てたものでもありません。

今回は仕事を通じて得られる充実感・充足感を理由に仕事を選び、周囲から羨望の対象となっている方をご紹介します。ちょっと変わったお仕事ですけどね。

イギリス南部ノーフォーク州の農家で働いているフォックスさん(22歳)の仕事は「人間カカシ」です。そう、鳥や動物から畑の農作物を守る、あのカカシです。

大学で音楽と英語の各位を取得した彼は、卒業後すぐにこの仕事に就きました。晴れの日も雨の日も嵐の日も、派手なオレンジ色のコートを着て手にしたカウベルを打ち鳴らしながら、アブラナの畑にやってくるヤマウズラを追い払います。

「農場で人を探しているというので連絡してみると、『好きな本とデッキチェアを持っておいで』と言うんです。ヤマウズラが畑に現れたとき以外は、音楽を聴きながら自分の研究に打ち込むことができます。私よりもいい給料をもらっている友人たちは大勢いますが、『好きなことをやっていてうらやましい』とみんなうらやましがりますよ」

このように語るフォックスさん。気になる給料はというと、担当するエリアによって異なるようですが、4ヘクタール(およそ東京ドーム1個分)の担当エリアで週給250ポンド(約3万1000円)です。

月給に換算しても12万円ちょっとですね。高給取りとはいえませんが、とかく時間に追われがちな都会の仕事にくらべ、自由な時間を自分の意思で手に入れているフォックスさんのQOLは高そうです。

皆さんは地位や収入のためではなく、社会や生活の質を重視して自分自身が望む仕事に就いていますか? 転職を視野に入れている方、もしも転職サイトや人材紹介で「カカシ」の仕事を目にしたら、一度チャレンジしてみてはいかがでしょう。

 

 ……ということなのですが、何とも無責任な記事ですよね。コンサルタントに限らず、他人のキャリアに上から目線でアドバイスしてくる人というのは決まってこんな感じなのは単なる偶然なのでしょうか。まぁQOL云々は結構なのですが、その「結果」を負うのは就職する人であって、助言する側の人ではないわけです。周囲の人間は気軽に「○○も考えてみれば~」みたいなことを言うものですけれど、その結果に付き合わなくて済む人は楽で良いなと思います。

 引用元では「人間カカシ」の例が挙げられています。何とも牧歌的な話です。まぁ余暇も多そうですし、収入は少ないにせよ若く健康で扶養家族もいないなら、そこまで困窮する額ではないとも考えられます。むしろ仕事に縛り付けられないで自由な時間を手にできることの方が、お金に換えられない価値があると言えるでしょう。一見すると、魅力的に映ると言えないこともなさそうです。

 しかし「人間カカシ」として働くフォックスさんの10年後、20年後はどうなっているのでしょうか。イギリスの雇用慣習では違うのかも知れませんけれど、日本であれば待ち構えているのは絶望的な未来です。この牧歌的な仕事でも続けていれば給料が上がる、健康を害して仕事ができなくなっても困らないだけの貯蓄を築ける、家族を養えるだけの収入を得られるようになるかと言えば、流石にイギリスでも難しいはずです。いずれ週給250ポンドでは生活が成り立たない日が来る、そうなったときのことを考えてみましょう。

 何らかの事情で――例えば子供が生まれた、親が重い病気にかかったなど――もっと高給の仕事に就く必要に迫られたとき、「元・人間カカシ」を待っているのは何なのか、イギリスはともかく日本では卒業してからのキャリアがその後の就業機会をも規定します。安定した収入を求めて「人間カカシ」からの転身を図っても、採用の口はどれほどあるのやら。マトモな就職口は、より若く、より名の知れた企業での勤務歴を持った人に持って行かれてしまうのが常です。就職機会の集中する若い時期を「人間カカシ」として過ごした人が中高年になっても就職先に困らないと、そう考えられる人は日本にはいないでしょう。

 そもそも「地位や収入のためではなく、社会や生活の質を重視して自分自身が望む仕事」云々とは、随分と昔から言われてきたことであるように思います。フリーターとかだって、元々はそういう触れ込みで好意的に持ち上げられてきた、近年でも派遣社員として働くメリットと称して似たようなアピールが性懲りもなく繰り返されているわけです。確かに、若い時期を仕事(会社)に縛り付けられて過ごすのは人生の損失ではあります。だから一見するともっともなところはあるのですが……

 「若くなくなってから」の就職先に不自由しない社会であるなら、上述の「人間カカシ」のように牧歌的な生き方をするのも良いでしょうし、それを奨めるのもアリだと思います。しかし日本では専ら「若い内の」就職機会偏重で、逆に「若くなくなってから(=中高年以降)」の雇用機会を軽視どころか敵視しているフシすらあるわけです。無能な中高年と呼ばれ、若者の雇用機会のためとリストラ対象にされることを避けるには、若い内から社内での地位を築くべく粉骨砕身しなければなりません。若くとも牧歌的には生きられない、そういう仕組みを強めようとしているのが日本的改革と言えます。こんな日本で「カカシの仕事を目にしたら、一度チャレンジしてみてはいかがでしょう」などと宣える、その無責任さはどこから来るのでしょうね。

 

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3 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-01-03 01:32:32
日本で言えば、フリーター、フリーランス(SOHO?)ときてノマドみたいな感じでしょうかね
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Unknown (凸凹)
2013-01-03 02:06:10
好きな仕事をしたいからその入り口を下げてフリーターとして始めたとしても、その先にあるものって結局その仕事である程度浮き沈みはあれど、長期的に食いつないでいけたらと言うのが必ずあると思います。
今のフリーターは好きな仕事はおろか、真っ当な仕事に「若いうちに」付く事が出来なかったのでそこに甘んじる他ないという半強制の状態ではないでしょうか。
バブル期や高度経済成長期のような忙しすぎる状態ならば「人間カカシ」のような仕事も良いでしょうけどね・・・。
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Unknown (非国民通信管理人)
2013-01-03 15:16:16
>凸凹さん

 とにもかくにも「今」だけではなく「将来」の問題がありますからね。「将来」がない仕事を進めるのは無責任ですし、そういう仕事に就いている人の多くは望んだ結果ではなく他に選択の余地がなかったために将来性のない仕事に甘んじている、そういった状況を省みることなく美談化しているのが今回引用した類の記述と言えます。
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