非国民通信

ノーモア・コイズミ

自立の鬼・ニッポン

2009-04-04 11:49:27 | ニュース

“憂国青年”日本が最多 日韓米英仏調査、「政治に関心」58%(産経新聞)

 内閣府が27日に発表した世界青年意識調査結果によると、日本の青年は調査対象となった5カ国の中で政治への関心が最も高いことが分かった。前回(平成15年)調査と比べても政治に関心があるとの回答は11・3ポイント増え、現状を憂い政治の動向に注目する若者が増えていることをうかがわせた。

(中略)

 家族観の項目では、日本は「子供は親から経済的に早く独立すべきだ」が88・6%で最も高く、「わが子に老後の面倒をみてもらいたいと思わない」も韓国の55・4%に次いで2番目に高い50・0%。逆に「どんなことをしても親を養う」は最も少ない28・3%。韓国は日本と同じ傾向で、欧米3カ国は逆の傾向がみられた。

 調査の詳細はこれですかね。時間のあるときに全体を眺めてみようとも思いますが、今日は産経新聞も着目したポイントに絞って考えてみましょう。なんでも日本は「子供は親から経済的に早く独立すべきだ」が88・6%で最も高いそうで……

 ふむ、他の国を大きく引き離す、と言うわけではないにせよ納得のいく数値ですね。日本人はまさしく自立の鬼、とにかく子供は親から離れるもの「自立」しなければならないものという意識が何の疑いも持たれぬまま共有されている社会ですから。何事も自分一人でやれることで、初めて「一人前」と認められる、「自立」というものが過剰に評価され、必須のものと位置づけられている、ゆえに「自立」を強要するような風潮も強いわけです。当人が必ずしも「自立」を望んでいるとは限らないのですが、誰もが「自立」の必要性を信じて疑いません。

 この辺の自立至上主義は個人の生き方だけではなく、社会の在り方をも規定します。つまり、自立至上主義であるがゆえに一国主義、孤立主義的な考え方に染まりやすいところもあるのではないでしょうか。互いの不足を補い合って生きるよりも、日本単独で行動できる「自立」を良しとする傾向が目に付きます。人によってそれは軍事であったり食料生産であったりするわけですが、ともあれ「自分一人で出来ること」への渇望が見て取れます。それができない人/国は、人間/国として半人前だ!と。「自立」していない人間を不適格者として矯正の対象と見なす我々の社会は必然的に、他国との協調無しには生きられない国家ではなく、一国のみで完結できる国家を「あるべき姿」と見なすのでしょう。

 ただ、本当にあらゆる意味で「自立」出来ている人なんていないとも思います。誰だってどこかしら他人の助けに頼って生きているわけで、自分一人の力で生きていると思っている人は単に自覚がないだけです。人を養っているつもりの会社にしたところで、低賃金で働いてくれる非正規労働者や名ばかり正社員のおかげで経営が成り立っているところが多い、見方次第では企業がアルバイトのスネを囓っているようなものですから。自立しているつもりが、実は依存しているだけ、ただ気付いていないだけだとしたら???

 少し話が逸れ気味になりましたが「経済的な独立」に話を絞るとしても、この何が何でも「子供は親から経済的に早く独立すべきだ」という強迫観念が、若年層に自身の「安売り」を強いてはいないでしょうか。中高年になると、また別の要因で安売りを迫られるわけですが、ともあれ親からの経済的な支援があれば余裕を持って仕事を探せる、雇用主に対して多少なりとも「強い」立場で望めるわけです。すぐに仕事が見つからなくとも、親の庇護があるわけですから。反対に親の庇護がないなら、セーフティネットもない日本ですから求職者に猶予などありません。仕事があるだけでありがたい、そう自分に言い聞かせて条件の悪い仕事でも飛びつかざるを得ない、そういう状況になってしまうわけです。独立志向は労働者の立場を弱体化させます。

 むしろこの一片の疑念すら持たれていない強すぎる独立志向、自立至上主義を克服することが、日本社会が変化するためには必要になってくるような気がします。主として経済的に独立/自立していないかに見える人であっても、矯正されるべきものとされるのではなく、その人なりの生き方として尊重されること、自立しているかに見える人であっても、色々なところで助けられながら生きている、そういう方向に意識を切り替えていくべきでしょうね。何か欠けているもの、出来ないものがあったとして、それを一人/一国でどうにかしなければならない、他人/他国に頼ってはならないとするのではなく、他者とお互いに補い合う関係を築こうとする、そういう志向へと転換されるべきです。

 

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19 コメント

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批判を恐れず書けば (ベースケ)
2009-04-04 15:15:27
「経済的な自立」イコール「一人前の消費者」イコール「日本の大人」ってことでしょう?まさに“働かざる者・・・”ってやつですね。

参考:「ラブベリ不買運動」[http://phantom666.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/post_4fe4.html](旧ブログ)

まったく、どうしてこうみんな“真面目”なのかなぁ、「大して働かなくても買わなくても、みんなが食っていける」社会の方がいいのにね・・・。
まぁつまりなんだ、あえて「青年が自立すべきなのはむしろ精神」だと、言っておきましょう。親からも、国からも。
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Unknown (ポール)
2009-04-04 18:06:02
そして"自立志向"の具体的な現れ方の一つが"自己責任狂"であるとも言えるでしょう。
例えば湯浅誠氏らに向かって得意気に投げ付けた悪罵の行き着く先が実は社会の存在そのものの
否定に繋がっている、そのことにどうやら気付いていないらしいところが何とも切ないです。
そんなにロビンソン・クルーソーになりたいのかな、と。
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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2009-04-04 18:38:08
「反社会学講座」で今回のエントリと相当にかぶる主張を見かけた記憶がありますが、私も同意します。

ただ分からないのは、「自立」を強いる一方で浮いた意見を許さない空気があることと「コミュニティ」の復活を願う意見があることですね。
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障害者自立支援法ほか (焚火派GALゲー戦線)
2009-04-04 20:53:59
 特に近年は「福祉」という言葉は嫌われ、「自立」が絶対善とされるので、保護や福祉という言葉は嫌われ、「自立」という言葉が「社会的弱者」に対する政策などで多用されるように思うのは気のせいでしょうか?(タイトルは典型ですが、障害者関連でなくとも昔の教護院は今は「児童自立支援施設」と言うのだそうで。 教護院がいい名前だとは思わないが、今の名前もずれているような気がします。)
 こうした雰囲気がじゃあ「社会的弱者」に現実にやさしいかというと必ずしもそうではないと思います。 「自立」という言葉の裏に、「社会的弱者は多数派に迷惑をかけるな」という隠し味がかいまみられます。
 他の例で言えば「母子家庭の自立支援政策」などというのも一例かと。 「就労支援それ自体」は必要でしょうが、日本の母子家庭の就労率は高く(80%とか。 どうしても、子持ちだと働きに出にくいこと及び「一般の人」でも失業率は5%くらいはあるわけですから、決して低いとは思いません。)、仕事がない(自立論者がいう意味で自立できない)ことより、就職しても低賃金でワーキングプアだという方がはるかに重大だと思うのですが。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-04-04 23:17:50
>ベースケさん

 むしろ経済的な後ろ盾があった方が個人消費が増えて内需も拡大する……というのは福祉国家の例からもわかることですが、それでもまぁ、奇妙な「自立」への拘りがあるんですよね。

>ポールさん

 国民のために国家が存在するという意識がないのでしょう。富国強兵、殖産興業の発想から抜け出せていない、そこに貢献しないものは切り捨てようという思いがあるような気もします。

>ノエルザブレイヴさん

 ことによると「コミュニティ」は、政府や自治体といった「公」に頼らせない、個人の責任に落とし込めなかった場合の受け皿として求められているのかも知れません。個人を守るためのコミュニティではなく、政治の責任を押しつける先として……

>焚火派GALゲー戦線さん

 現に「自立支援」の名で行われていることの大半が保護の打ち切りだったりしますからね。「自立」を称揚することで、既存の社会保障を別のものに置き換える、その流れの負の部分を覆い隠しているような印象を受けますね。
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Unknown (おおいけ)
2009-04-05 00:45:10
自立とは相対的で幅広い概念なのに、どうも一定のカタにはまった「自立」のスタイルのみが奨励されるのが奇妙ですよね。
さらにいえば、その固定化された「自立」の姿が、いつの間にか当然の前提視されて、
それから外れる人や行為が「出来損ない」として非難される。
(ベースケさんの言う「一人前の消費者」というのが「自立」イメージにちかいかもしれません)
前提としての「自立」の中で現実の「強者・弱者」という立場の違いが切り捨てられるのが怖いことだと思います。
「行政に保育所の増設を求めるなんて、市民の金を何だと思ってるんだ。子供じゃないんだから引っ越せばいいじゃないか」
「労働組合なんて徒党を組んで経営者をいじめているだけだ。お互いが対等に自立した個人として、
一対一で話し合い、納得して契約し、ダメなら雇用契約を解除するというのが大人の関係というものだ」
などなど、2ちゃんねるだけでなくネット上のどこでもこんなめまいのする意見が出てきます。
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憂国青年(笑) (ポール)
2009-04-05 04:36:33
「派遣村」の例で言いますと、その活動の趣旨はまさに「自立」を促すためのもので
あり、「富国強兵、殖産興業」の観点からですら長い目で見ればプラスになること
なのに、ネット国士様はお構いなしに叩いてました。全く訳がわかりません。

その根源にあるのは自分が経済的に余裕があれば「自立できてる俺様サイコー」という
優越感、そうでなければ"不幸自慢"に負けた腹いせ?
良くわかりませんが、予想が違ってたとしてもどうせロクなものではないでしょう(笑)。

ただ「自立」に反する者への蔑視・嫉妬が国士様の自己肯定のエネルギーの一つであると
考えるならば、「浮いた意見を許さない空気がある」のもある程度納得できる気はします。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-04-05 14:28:51
>おおいけさん

 用語で言えば「サムライ」辺りと似たような進化をしているのかも知れませんね。「とにかくそうであるべきもの」として「自立」が掲げられているようです。

>ポールさん

 その「長い目」がないんですよね、民間だけでなく政治家にも、財界人にも。たとえ一時でも、他人なり社会保障なりに頼ることを悪とする考え方がある。自分が「(何かに)頼りたくても頼れない」から、その自分が得られないものを得ているかに見える人が許せないというのもあるかも知れませんが。
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Unknown (GX)
2009-04-05 16:03:05
 まあ、私も「してくれる人がいなくなったら・・・。」と不安に思い、なんでも1人でやってしようとする傾向があるのですが(といっても、実際は結構世話になっているかもしれませんが。(苦笑))、少し反省しなくてはなりませんね・・・。
 さて、自立についてですが、仮に自立したとしても、何かしら政府の援助がないと昨今は難しいと思います。住居を持つには資金が必要ですし、不況により就職も厳しい。これでは、野垂れ死にしろと言っているようなものです。せめて雇用条件のいい職場が増えてくれればいいのですがね。
 そして、自立せずに「健康的で文化的な生活」を送っている者は施設に入れて矯正する。この方法で社会へ出て行ったとしても、労働条件の悪い仕事しか残されておらず、低賃金はもちろん職場いじめ等の被害を被ってしまうと、十分転落と言えるのではないでしょうか。それを感じさせず、上に絶対忠誠を誓うようにすることこそが矯正なんでしょうけど。
 同じことの繰り返しですが、本当に「自立」を願っているのなら、その人に合った職業を提供したり、企業にそういう職場環境を作るよう要請する、または自分たちでそういう場を作り上げることこそ大切だと思うのですが、なんでも「自己責任」の社会ではそういう発想は生まれないのかと、落胆してしまいます。
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ミイラとりがミイラに (観潮楼)
2009-04-05 19:04:43
さたか氏(辛口評論家)
「自立といえば、昨日の毎日新聞で岩見隆夫が
『独自の情報機関を持たない日本は平和ボケだ!』と息巻いていた。
しかし、管理人氏がこのエントリで訴える貧困の問題より、そんな安保風味の問題意識しかない岩見こそ、
永田町ムラの論理に浸かった平和ボケと言わざるを得ない。」
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