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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Hans Zimmer/ "Pirates Of The Caribbean: At World's End"

2007-06-29 11:27:49 | music5
At_worlds_end


□ Hans Zimmer/ "Pirates Of The Caribbean: At World's End"

Calypso
I Don't Think Now Is The Best Time
One Day

Release Date; 22/05/2007
Label; Walt Disney Records
Cat.No.; 000037102
Format: 1xCD

>> tracklisting.

01. HOIST THE COLOURS
02. SINGAPORE
03. AT WIT'S END
04. MULTIPLE JACKS
05. UP IS DOWN
06. I SEE DEAD PEOPLE IN BOATS
07. THE BRETHREN COURT
08. PARLAY
09. CALYPSO
10. WHAT SHALL WE DIE FOR
11. I DON'T THINK NOW IS THE BEST TIME
12. ONE DAY
13. DRINK UP ME HEARTIES


見たことのない刺激的な幻想世界。
映画本編は既に2回観てきました。創造力、想像力の枯渇が叫ばれて久しいアメリカ映画に、未だこれだけの豊穣なファンタジーを作り上げる底力があったことに乾杯。おそらく賛否両論あるであろう内容ですが、三部作の完結編としてはこの上なく上等なものであったと感じます。脚本は裏設定を説明無しに盛り込んでいたりするので、翻弄された方も多いでしょう。。それでなくてもストーリーにおけるキャラのポジションが落ち着かない。

次々と反古にされ、上書きされていく『約束』。状況と事情によって目紛しく展開し、変化していくキャラ同士の相関、敵味方の関係性。前作まではトリックスター的な立ち振る舞いをするのはジャックだけでしたが、今作では主要キャラ皆が策士となってストーリーを掻き回すのが痛快です。しかし最後には、あえて語られなかった『絆』が、感動的な結末を手繰り寄せるーーー。


スコアの方も映画の雰囲気に併せて、ストイックかつ荘厳なスケールで、これまでになくシリアスなカラーを纏っているのが印象的です。メインテーマをはじめ、一作目のKlaus Badeltのフレーズや、Hans Zimmerの書き下ろした各種フレーズを、Remote Control社の精鋭7人のコンポーザー(Geoff Zanelli , Tom Gire , John Sponsler, Henry Jackman, Atli Örvarsson, Blake Neely, Matt Dunkley, Martin Tillman) が総掛かりでスコア・アレンジメントしています。お約束のワーグナーやホルストのフレーズや、どこかで聴いたようなメロディもご愛嬌。昨年の"The Da Vinci Code"に次いで、混声合唱系スコアマニアにも堪らない一品となっています。

エスニックでアジアンな味付けは、正に『World's End:世界の果て』に相応しいモチーフで、ここにもHans Zimmerのこれまでのキャリアとノウハウが存分に活かされています。終盤、クライマックスチューンで様々なテーマが絡み合い、打ち込みのエレクトロビートやシンセベースを従えながら、大きなうねりの中で収束していく様は(このシークエンスはJames Newton Howardの"Waterworld"を彷彿とさせます。)、今までにも手掛けて来た組曲形式の長編曲の集大成と言えるし、胸に響き渡る重厚で力強いラブテーマは、天才的なメロディメーカーとしての資質を圧倒的に見せつけてくれます。Hans Zimmer以外には、この作品のスコアを書き上げることは不可能だったでしょう。彼は男臭くて喧しい音楽だけが特徴的なのではなく、現代作曲家としてこれ以上はありえないほどのマルチプルな才能を有する人物なのです。




□ TUNES OF THE DAY

□ Hans Zimmer - The Best Works.

Hans Zimmerの作品はほぼ網羅していますが、その中から個人的に紹介したいものを選曲したシリーズです。John Williamsと並行して不定期に紹介予定。


Lion_king


□ "Lion King"

Circle of Life
King of Pride Rock

Hans Zimmerのルーツの一つでもあり、最も得意とするエスノ・アンビエント、アフリカン系スコアの集大成。Tim RiceとLebo Mとのコラボレーションが生み出した生命力に溢れる力強いサウンド、重厚かつロマンティックで神秘的なメロディ(一部は"Millenium"からの流用、アレンジは"Power of One"を引き継いでいます。)と打ち込み系のアクション・シークエンス、そしてゴキゲンなミュージカル・トラックといった多彩な表情を併せ持つ、初のオスカー受賞楽曲。同時期のアクションスコアでも顕著なパーカッションと、硬質なキックがフックとして効いています。私が最も好きな作品。



Gladiator


□ "Gladiator"

The Might of Rome
Am I Not Merciful?

元Dead Can DanceのLisa Gerrardとの共作であり、Hans Zimmerにとってもある意味ターニング・ポイントとなった作品。"Millenium"や"Power of One"、"Lion King"などで用いていたエスニック・コーラスを、シンセを控えめにして、純正オーケストラのメロディの中にプロット。また、ワーグナーやグレツキなど、クラシック音楽のあからさまな引用、オマージュが目立つようになったのもこの頃から。他には、一部にRandy Edelmanの"Anaconda"(←これも良く聴きました。。)のフレーズが隠されています。



The_rock


□ "The Rock"

Rocket Away
Fort Walton - Kansas

『アクション映画』と『アクションスコア』の作り方の双方において、映画界の定石を一変させてしまったエポック・メイキングな作品。マイケル・ベイ監督の演出とジマーの感情的なスコアのマッチングは、少なくとも以降の10年間に渡って、大作系(Trevor RavinやGraeme Revell、Paul Haslinger)からインディペンデント系に至るまで追随されるようになりました。しかし全く新しい方向の呈示だったかといえばそうでもなくて、Hans Zimmer自身も"Backdraft"、や"Drop Zone"、そしてこの系統のスコアを初めて完成させたと思える"Crimson Tide"において既に同様のスコアを奏でていたし、先に同監督の作品を手掛けていたMark Mancinaなどの影響も感じられます。

"The Rock"はアクションスコア以外にも、"Rain Man"や"Days of Thunder"、"Thelma & Louise"の郷愁のメロディや、Mark Mancinaと共作した"Lion King"と"True Romance"などで見られた、トロピカルなコメディタッチの作風も同時に聴かれるのが特徴。また、彼らのキャリアはもともとポップ畑で培われたこともあって、Robbie Williamsをフィーチャーした"A Man For All Seasons"といった、時折手掛けるヴォーカルトラックのメロディセンスは、80年代の扇情的なSynth-Popを彷彿とさせて聴き応えたっぷりです。

"The King Arthor"では、Trevor HornのプロデュースでMoya Brennanに主題歌を歌わせたり、Harry Gregson Williamsに至っては、自身の担当した"The Chronicles of Narnia"において、enya風のファンタジックなメインタイトルを書いたりと、多岐に渡る引き出しを備えているのも、彼らへのオファーが尽きない魅力の理由の一つなのでしょう。


Hans Zimmerは、Jay Rifkinと共に自身のプロダクション創設以前、ノン・クレジットでハリウッド系映画のメインテーマを書き下ろすこともありましたが(ex."Air Force One")、"The Rock"についても手掛けたのはメインテーマやいくつかのモチーフで、多くの部分はNick Glennie-SmithとHarry Gregson Williams他2名のコンポーザーがアレンジしています。デジタル打ち込み系のロールビートが目立つのはNickの仕事の特色と言えるかもしれませんね。彼はSteve Jablonskyと、スピルバーグ監督の"Transformers"を手掛けているので非常に楽しみです。


いつかまた機会があれば、次回はHans Zimmerのキーボーディストとしての特徴が顕著な初期の作品を紹介したいと思います。