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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Thomas Bergersen / "SUN"

2014-11-04 22:43:13 | music14
Thomasjbergersensun




□ Thomas Bergersen / "Sun"

♪ New Life

Two Hearts

Creation of Earth

Release Date; 30/09/2014
Label; None
Cat.No.; None
Format: iTunes, 1xCD.

>> http://www.thomasbergersen.com/


>> tracklisting.

01. Before Time

02. Creation of Earth
feat. T-Rex
The Choir of Sofia


03. Sun
feat. Merethe Soltvedt

04. Cry
feat. Molly Conole

05. Our Destiny

06. New Life
feat. the Choir of Sofia
Irish Whistle by Chris Bleth


07. Final Frontier
feat. 18 French Horns

08. Starchild

09. Colors of Love
feat. the Choir of Sofia

10. Cassandra

11. Always Mine
feat. Merethe Soltvedt

12. Dragonland

13. Fearless
feat. The Choir of Sofia

14. Empire of Angels
feat. Merethe Soltvedt

15. Two Hearts
feat. Merethe Soltvedt

16. In Paradisum
Choir by Capellen Choir

All Music Compsed, Orchestrated, Produced, Mixed and Mastered by Thomas Bergersen
Violin by Thomas Bergersen
Artwork by Thomas Bergersen


Score Copyist, Transcriber and Conductor - Petr Pololanik
Orchestra - Capellen Orchestra
Bulgarian Choir and Additional Strings - George Strezov







Thomas Bergersen’s follow up album to his extremely successful debut album “Illusions”, released in 2011. “Sun” took him almost 4 years to complete and features his best, most heartfelt, virtuosic and powerful music to date. It features a giant orchestra (over 200 musicians contributed), choir, bulgarian choir, famous world class instrumentalists and a wide range of styles, emotions and colors.



ノルウェー出身の作曲家、Thomas J. Bergersenによる4年ぶりの2nd Artist Album。Hans ZimmerやEnigma世代を直撃する、混声合唱、民族音楽、オーケストラ、エレクトロニカを総動員した、今日における最もエモーショナルな音楽書法を突き詰めている。


今作は前例のない規模の大編成オーケストラ、歌唱隊、ブルガリアン・クワイア、ゲストミュージシャンを含め、200名を超える演奏家を迎え、録音はチェコ、ブルガリア、ルーマニアを始め、アメリカ、ドイツ、イタリア、メキシコ、ブラジルなど、地球上の至る地点を股にかけて行われた。

とりわけ近年の活躍が目覚ましいチェコの新鋭クワイア、Capellen Choirによるパフォーマンスが冴え渡っている。



昨今、主にハリウッド・トレーラーのBGMとして消費される楽曲プロダクションの粗製濫造ぶりと陳腐化は著しく、この手の音楽はファンによって"EPIC EMOTIONAL MUSIC"として定義され、草の根に渡ってコミュニティを築き、Youtubeでも膨大な再生数を稼ぎ出している。


安価なソフトシンセの開発と普及によって、末端のプロダクションからインディーズ、個人製作に至るまで、誰もが仰々しい斯様な作品を発表できる情勢にあって、然し2000年代初期のオリジネイターたちに並ぶ風格を纏った作曲家は埋没しがちであった。ここに至って、Thomas Bergersenが"The God of Epic Music"として掲揚されるのは、ある意味、当然の結果であり時代の要求であった。

BergersenとNick Phoenixとのプロジェクト、"Two Steps From Hell"の最新アルバム"Miracles"が、従来のサウンドトラック然とした作風から一歩踏み出して、ソング・アルバムとしての色を強調していたのも、そういう時勢を意識して頃合いを見計らった結果なのかもしれない。



"SUN"は、どちらかというと、未だトレーラー・ミュージックとしての枠組みで捉えられるべき作品という印象が強い。それは当作品の収録曲”Final Frontier"が、今や若き巨匠となった映像作家Chrisopher Nolanの最新作"Interstellar"のイメージ楽曲として広報されていることからも窺える。

しかし、Thomas Bergersenの音楽が紡ぎ出す世界観は、具体的な発話とプロットを軸とする物語よりも曖昧で観念的で、その面で汎用的である。何よりそれは、映画音楽という書法の制約から解き放たれて、人々が物語の向こうに希求する情熱や体験に通じている。



前にも述べたが、映画予告編音楽で混声合唱を用いた書法が普及し始めたのは、1990年代の末頃からCarl Orff、Enigma、James Horner、Craig Armstrong、James Newton Howardの同様の合唱曲が単発的に用いられ、対象となった映画作品の成否とは別に、予告編自体がその都度強烈なインパクトを観衆に残し続けたことを受けたものである。

2000年には、トレーラー音楽制作を請け負うプロダクションとは別に、e.s.Posthumusという、それまでの同様の書法を昇華したアーティスト色の強い特異なユニットが現れ、世界中のサウンドトラックファンの支持を得た。

彼らの獲得した功績と作品発表の形は、音楽プロダクション側にも逆輸入され、Globus (Trailerhead)に代表されるEpic Cinematic Popの定着と成功を促した。


(現在、e.s.Posthumusは主要メンバーの死去を受けて、Les Friction名義ではロック・オペラ風の作品、VonLichten名義ではEpic Musicの作風を継承、ソロプロジェクトを発表し続けている。)



映像プロダクションのデモシーン製作スタッフから、今や予告編用音楽の大家となったThomas Bergersenだが、実は彼自身、2008年に発表された世界各国の民族・紛争問題を描いたドキュメンタリー映画、"The Human Experience"の劇伴音楽を担当。今作に通じるエスニックかつ典型的なハリウッド系スコアを確立している。



開幕曲"Before Time"から"Creation of Earth"の導入は、まさにBergersenのスコアが映画音楽の書法を象りながら、あらゆるサウンドトラックを凌駕したと印象付けるに相応しい、仰々しいオーケストレーションとクワイアによる主題の呈示でハイライトを迎える。


表題曲"Sun"は、静謐なボーイズ・クワイアから、Enigma的なエスノシャント~90年代のHans Zimmerに特徴的だった叙情的な展開へとリレー。しかしシンセのピチカートと、お抱えボーカリストMerethe Soltvedtのコーラスによる終曲部が柔和な印象を与えている。



"Cry"や”Colors of Love"、"Fearless"では、ハリウッド風アクションスコアの書法に擬えたオーケストラに、The Choir of Sofiaによるブルガリアン・チャント風のコーラスが、90年代中期のAdiemusに代表される民族音楽風ミニマル・ニューエイジの形式を強く喚起する。

今や広く用いられてる手法ではあるものの、"Colors of Love"の曲中における転調の繰り返しは正にアディエマスのそれを意識したものに違いない。


New Age音楽との強い関連でいえば、"New Life"はとりわけ特徴的な楽曲であり、こちらでは同じブルガリアン・クワイアを使用しながらも、より土着的な歌唱法を用いて、Deep Forestのコーラス・パフォーマンスを思い出させる仕上がりとなっている。

アフリカン・コーラスから教会合唱の旋律へのシームレスな展開と、壮大なカタルシスを迎える演奏は、Thomas Bergersenの思い描く汎地球的な物語のディレクションの象徴なのかもしれない。

余談だが、2000年代に至って、Deep ForestやEnigmaのようなNew Age音楽の書法が、ありとあらゆるメディアにおいて消費し尽くされ、枯渇した運命に近いものを、このEpic Musicに擬えた向きがあると捉えるのは邪推だろうか。




"Two Hearts"は、従来のThomas Bergersenのソロ・アーティスト色の最も濃い歌曲。Merethe Soltvedtのヴォカリーズと、天を衝き抜けていくように高揚していくストリングスとホーン、そして大迫力の混声合唱が絶頂を迎え、静かに幕を引く。


アルバムを締めくくる静謐な合唱曲"In Paradisum"は、Górecki或いはAndrew Lloyd Webberのそれを思わせる優しさと哀愁に満ちているが、終盤の旋律の反復部は、アルバム中のどんな激しいパートよりも胸を衝く。




あらゆるメディアにおいて、人々の感動の仕方は時間的・形式的に決まりきったフレームにはめられ、ウンザリするほどの表現情報の反復と洪水の中に晒されている。果たして、それらの形而の先にある、心を動かす推力の原動、私たちがこの躯を与えられ、この骸を遺して過ぎ去っていくことの意味、そこに刻まれた光模様と想いの証。

空想と体験のミッシングリンクを埋め、万人の心を突き動かす音楽というのは、そういった生命と万物流転の源泉であるところの光、"SUN"の形象を模るものなのだ。