□ Sting / "If on a Winter's Night..."
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Christmas at Sea
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Cold Song
Release Date; 27/10/2009
Label; Deutche Grammophon
Cat.No.; UCCH-9008
Format: 1xCD + 1xDVD
Note: Japanese Edition includes Bonus Tracks
>>
http://stingwintersnight.com/
>> tracklisting.
CD - "If on a Winter's Night"
01. Gabriel's Message
02. Soul Cake
03. There Is No Rose Of Such Virtue
04. The Snow It Melts The Soonest
05. Christmas at Sea
06. Lo How A Rose E'er Blooming
07. Cold Song
08. The Burning Babe
09. Now Winter Come Slowly
10. The Hounds Of Winter
11. Balulalow
12. Cherry Tree Carol
13. Lullaby For An Anxious Child
14. Hurdy Gurdy Man
15. You Only Cross My Mind In Winter
16. Bethlehem Down
17. Blake's Cradle Songs
18. Coventry Carol
DVD - The genesis of "If on a Winter's Night"
1. Mystery And Storytelling
2. A Primal Memory
3. Shaping The Repertoire
4. Inviting Chaos
5. Outside Their Comfort Zone
6. Slowly Coalescing
All songs arranged by Sting and Robert Sadin
Sting - Vocals, Guitar, Lute
Dominic Miller - Guitar
Kathryne Tickell - Violin
Vincent Ségal - Cello
Julian Sutton - Melodeon
Mary Macmaster - Harp
Ibrahim Maalouf - Trumpet
Ira Coleman - Bass
Strings of the Musica Aeterna Ocrhestra
『
ホワイト・クリスマス?勘弁してくれ。』
『
クリスマスには深い孤独と疎外感を覚える人も多いだろう。この音楽がそんな人たちの慰めになればいいが。』
スティングがドイツ・グラモフォンから送り出す2作目のClassical Album。『冬』に纏わる神話や伝承歌を扱った、古風でありながらトラッド・フォーク・クラシック、その何れにも属さない斬新な息吹が吹き込まれた作品です。また、寒い季節に生まれた音楽を更に深められるよう、主だった録音のほとんどは冬のトスカーナに演奏家が介して行いました。
前作、"Songs from the Labyrinth"が、全編に渡ってJohn Dowland (1563-1626)のリュート舞曲のカヴァーであったことについて、彼のバックグラウンドを知る者にとってはもちろん、元々彼の音楽性に中世舞曲に通じるようなエスプリを感じ取っていた私のようなリスナーには、意外というよりも寧ろようやくといった味わい深い出来事だったのだけど、今回カヴァーされているPPMの"Soul Cake"において、紀元前に端を発する原曲のアイデアに基づいて正に「エスタンピ(中世の輪舞曲)」の如き一時の華やかさを添えて以降は、何処か暗闇によって立つ粛々とした安らぎや寂寥感を伴う楽曲に彩られていて、彼が語り部となる「クリスマスの暗い側面」をより深く深く掘り下げて行く内容となっています。
アルバムに付属しているSting自身のライナーは、この作品の動機や扱われた題材も含め、「冬」に基づく文化的な創作や精神世界について、彼自身の鋭い洞察や思索が盛り込まれたものとなっています。中でも印象的なのは、彼が産まれてから青年期までを過ごしたニューカッスルの厳しい冬の生活の情景です。
『
ずっと暗いわけではないけれど、太陽を目にすることはほとんどなかった。時おり、黄色の冷たい光が、葉の落ちた木々や雪におおわれた屋根の上に浮かんでいた。』
冬の厳しさは、人間の精神に新たなエネルギーを齎す為に必要だと説くStingは、まるで『死』のような冬の静謐な美しさを、キリストの復活に代表される神話の元型に準えています。Henry Purcellの"Cold Song"を引用した楽曲では、凍えながら死を請う「希い」にこそ感じられる怨念めいた強烈な生命の力を、不安を募らせていく上昇音階に乗せながら絞り出すように歌っているようで、絶望もまた人の『力』の形であることに思い至ります。
『子守唄』が子供をあやすと同時に、怖がらせる為の役割も担っていると考えるスティングは、器楽やバックコーラスにも定型演奏を脱却させ、あえて不安定な要素を取り込むようディレクション。詩歌の描写する感情と情景という、光と影の輪郭をより際立たせた印象を喚起するものとしています。
ジャズやフォーク、クラシックなど様々なバックグラウンドを持つ粒ぞろいの演奏家たちを招集した今回のプロジェクトは、スティングとプロデュサーのボブ・サディンが指揮を執りながらも、一個の作曲家による楽譜に沿ったものではなく、それぞれの持ち味と即興的なアイデアを加味しながら、レコーディング過程で成長を遂げたもの。はじめは混沌としていたスタジオも、ボブの潤滑剤的な働きによって徐々にまとまりを得たのだとか。
商業主義的な賑わいを見せるクリスマスの側面とは切り離してみても、その時期は人々にとってまた「感謝と施し」の意味合いを持つ祭典でもあり、スティングによるライナー冒頭では、今回の録音に参加したそれぞれのメンバーへの真摯かつユニークな謝辞が飾られ、皮肉にも(?)温かで親しみに溢れたクリスマスの世間的なイメージに似合わしい装いが感じられます。
何より、この20年来Stingの「右腕となり左腕として」彼を支え続けて来たギターパートナー、Dominic Millerの存在感がより際立っているのも感慨深い事象として挙げられるでしょう。
フィドルが疲れ果てたように掠れた音色を奏でる"Now Winter Comes Slowly"のような、あからさまに荒涼とした楽曲だけではなく、"The Burning Babe"(イエズス会士による)といった曲調の陽気さに残酷さを内包したもの、セルフ・カヴァーにあたる"The Hounds of Winter"のように染み入るように冬の情景を迎えるものなど、それらの曲自体にクリスマスと共通する関連を見出すことは苦しいですが、アルバム全体では「冬」を別として聖書やキリスト伝承に着想を得た引用が多く為され、やはり本作品が一貫して「クリスマスの訪れる冬」をテーマとしていることが窺えます。
その代表としては、バスク地方の聖歌による"Gabriel's Message"や、処女懐胎に向き合うマリアとヨゼフの複雑な感情の擦れ違いを描いた"Cherry Tree Carol"が挙げられます。
一方、イザヤ書に基づくドイツ聖歌で、プレトリウスに編曲された「一輪のばらが咲いて」及び英国聖歌「かほどの美徳あるバラはなからん」の引用は、いずれも中世、あるいは紀元前における自然とシンボリズムの融合という普遍的な精神活動が、未だキリスト教を通して受け継がれていることを示したものであり、スティングが論じる、人間を取り巻く四季という環境変化と精神性の関わり、そして温暖化が及ぼす影響は人間の感情にさえ影を落とすのだという憂いにさえ至る配剤となっているのです。
また、「冬」と「人の心」の関わりを情感豊かに描き出す曲想として挙げられる"Christmas at Sea"。ゲール語による女性の労働歌が、祝福の日の朝に厳しい寒苦に晒される船員の心境を詠ったスティーブンソンの詩とハーモニーを為していて、アルバムで最もトラッド的な要素を前面に出した曲と言えます。
最後2曲をしめくくるシューベルト、バッハそれぞれの楽曲における詞も、センチメンタルな情景の中に突き放した冷たさを帯びて、だけど失われようとしている時を、冬に訪れるとされる「霊魂」という元型意識の象徴に委ねて思慕を通わせる、そんな切なさと一抹のぬくもりを匂わせているようです。
※...ボーナストラックは何れも、上述した「子守唄」の解釈に拠る、より接近的なアプローチを試みた三曲が引用されています。「ヘロデ王の幼児虐殺」の物語を聴かせるというコヴェントリー・キャロル(聖史劇『刈り込み男と仕立て屋』から)を筆頭に、ピーター・ワーロックの"Bethlehem Down"もまた、作者自身の悲惨な末期に照らして、その旋律とともに不穏な含みを持たせた子守唄として演奏しています。
William Blakeの「ゆりかごの歌」(ヴォーン・ウィリアムズ作曲)が、穏やかな心境に綴られたアルバム唯一の子守唄なんだとか。
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"
Cold Song"
Lyrics by John Dryden
What power art thou who from below
Hast made me rise unwillingly and slow
From beds of everlasting snow?
See'st thou not how stiff, how stiff and wondrous old,
Far, far unfit to bear the bitter cold?
I can scarcely move or draw my breath:
Let me, let me, let me freeze again to death.
いかなる力が下からもたらされて
永遠に降り続く雪のしとねから
ゆっくり渋々と私は起き上がろうとするのだろう?
この身はすっかり固くなり 驚くほど老いてしまい
厳しい寒さにはとても耐えられず
動くことや息を継ぐことさえできないのが
お分かりにならないのですか?
どうかお願いです 再び凍えさせて
死を迎えさせてください
(翻訳:野村伸昭)