Neuromyelitis optica(NMO)は,球後視神経炎と急性横断性脊髄炎がほぼ同時か,1~2週間の間隔で生じる疾患である.NMO-IgGがNMOの診断に有用な抗体として報告され(2004年12月7日の記事参照),さらにその標的抗原がアクアポリン4(AQP4)であることも報告された.これは2つの意味でインパクトがあった.ひとつは「水チャネルに対する自己抗体により発症する疾患がある」ということであり,もうひとつは,NMO-IgGの標的がミエリンやオリゴデンドロサイト由来の蛋白ではなかったということである.AQP4は,アストロサイトのfoot process膜に豊富に存在し,BBBにおける水のやりとりに重要な役目を果たしているが,もしNMO-IgGそのものが神経障害を引き起こす病因であるとしたら,アストロサイトを主座とした免疫異常が中枢神経脱髄疾患を引き起こすことになり,今までの常識を覆す(2006年4月11日の記事参照).よって免疫学を専門とする者の中には,NMO-IgGはNMOの診断マーカーとしては有用であるものの,病態機序に直接関わっていないと考えている者も少なくない.
さて,NMOのMRI所見に関して興味深い論文が2題,Mayo Clinicから報告されている.ひとつ目はretrospective studyで,対象は1999年に報告されたNMOのWingerchukら(Mayo clinic)による診断基準を満たす症例で,いずれの症例も脊髄MRIで3椎体以上の長さの病変を示す.ただし,診断基準のなかの,「視神経や脊髄以外に由来する症候を認めない」という項目は除外してある.方法としては,頭部MRIにて,正常,異常(non-specific,MS-like,atypical abnormality)に分類している.
結果として60例が基準を満たし,うち53例(88%)が女性,年齢は37.2±18.4歳で,罹病期間は6.0±5.6年であった.NMO-IgGは41例(60%)で陽性.問題のMRI所見は,多くの症例がnon-specificな変化のみであったが,6例(10%)でMS-likeの病変を認め,5例(8%)で間脳,脳幹,大脳においてMSとしてはatypicalな病変を認めた.その5例中3例が13歳以下(13歳,5歳,13歳)で,1例では意識障害を呈する重症例であった.
もうひとつの論文は,MRI病変の部位とAQP4の分布を比較したものだ.対象はNMO-IgG陽性の120例の患者のうち,頭部MRIを撮影し,異常を認めた8例である(8例中3例は18歳未満;18歳,5歳,13歳).病変部位は視床下部,第3脳室・第4脳室周囲,脳幹であった.この病変分布はAQP4の脳内発現分布とよく一致するものであった(注;AQP4は,視神経や脊髄にも豊富に存在する).
これらの報告から言えることは以下のとおり.
1. NMO-IgGは診断に有用であるだけでなく,標的抗原部位と病変部位一致したことから,病態に関与し,神経障害に関与している可能性がある.
2. NMO-IgG陽性NMOは小児でも発症し,脳内病変を伴うことがある
3. 間脳が病変となることから,オレキシンニューロンの存在部位が病変の主座になりうる.つまり過眠症状を呈することがある.
4. 視神経,脊髄以外の病変を認めるNMOが存在する.よって診断基準から脳病変が存在しないという項目は除外すべきである.
そして最近のNeurologyに,Wingerchuk自身が改訂診断基準を提唱した.この論文では96例のNMOと33例のMSを用いて,改訂診断基準のsensitivity,specificityを算出している.基準としては以下の3項目中2項目を満たすというもので,結論としてsensitivity 99%, specificity 90%という良好な結果を得た.
1. longitudinally extensive cord lesion(3椎体以上)
2. onset brain MRI nondiagnostic for MS
3. NMO-IgG seropositivity.
またNMOで視神経,脊髄以外の病変を合併する割合は14.6%と報告した.
考察には述べられていないが個人的に興味を持ったのはrecurrent ADEMと呼ばれる症例の中にNMO-IgG陽性NMOが紛れ込んでいなかったのだろうかということである.また小児MSにおいてもNMO-IgG陽性NMOが紛れ込んでいる可能性は今後,チェックすべきであろう.いずれにしてもNMOの病態解明についての研究の進歩は,臨床的にもインパクトがきわめて大きいと言えよう.
Arch Neurol 63; 390-396, 2006
Arch Neurol 63; 964-968, 2006
Neurology 66; 1485-1489, 2006
さて,NMOのMRI所見に関して興味深い論文が2題,Mayo Clinicから報告されている.ひとつ目はretrospective studyで,対象は1999年に報告されたNMOのWingerchukら(Mayo clinic)による診断基準を満たす症例で,いずれの症例も脊髄MRIで3椎体以上の長さの病変を示す.ただし,診断基準のなかの,「視神経や脊髄以外に由来する症候を認めない」という項目は除外してある.方法としては,頭部MRIにて,正常,異常(non-specific,MS-like,atypical abnormality)に分類している.
結果として60例が基準を満たし,うち53例(88%)が女性,年齢は37.2±18.4歳で,罹病期間は6.0±5.6年であった.NMO-IgGは41例(60%)で陽性.問題のMRI所見は,多くの症例がnon-specificな変化のみであったが,6例(10%)でMS-likeの病変を認め,5例(8%)で間脳,脳幹,大脳においてMSとしてはatypicalな病変を認めた.その5例中3例が13歳以下(13歳,5歳,13歳)で,1例では意識障害を呈する重症例であった.
もうひとつの論文は,MRI病変の部位とAQP4の分布を比較したものだ.対象はNMO-IgG陽性の120例の患者のうち,頭部MRIを撮影し,異常を認めた8例である(8例中3例は18歳未満;18歳,5歳,13歳).病変部位は視床下部,第3脳室・第4脳室周囲,脳幹であった.この病変分布はAQP4の脳内発現分布とよく一致するものであった(注;AQP4は,視神経や脊髄にも豊富に存在する).
これらの報告から言えることは以下のとおり.
1. NMO-IgGは診断に有用であるだけでなく,標的抗原部位と病変部位一致したことから,病態に関与し,神経障害に関与している可能性がある.
2. NMO-IgG陽性NMOは小児でも発症し,脳内病変を伴うことがある
3. 間脳が病変となることから,オレキシンニューロンの存在部位が病変の主座になりうる.つまり過眠症状を呈することがある.
4. 視神経,脊髄以外の病変を認めるNMOが存在する.よって診断基準から脳病変が存在しないという項目は除外すべきである.
そして最近のNeurologyに,Wingerchuk自身が改訂診断基準を提唱した.この論文では96例のNMOと33例のMSを用いて,改訂診断基準のsensitivity,specificityを算出している.基準としては以下の3項目中2項目を満たすというもので,結論としてsensitivity 99%, specificity 90%という良好な結果を得た.
1. longitudinally extensive cord lesion(3椎体以上)
2. onset brain MRI nondiagnostic for MS
3. NMO-IgG seropositivity.
またNMOで視神経,脊髄以外の病変を合併する割合は14.6%と報告した.
考察には述べられていないが個人的に興味を持ったのはrecurrent ADEMと呼ばれる症例の中にNMO-IgG陽性NMOが紛れ込んでいなかったのだろうかということである.また小児MSにおいてもNMO-IgG陽性NMOが紛れ込んでいる可能性は今後,チェックすべきであろう.いずれにしてもNMOの病態解明についての研究の進歩は,臨床的にもインパクトがきわめて大きいと言えよう.
Arch Neurol 63; 390-396, 2006
Arch Neurol 63; 964-968, 2006
Neurology 66; 1485-1489, 2006