過眠症とは,日中に過剰な眠気または実際に眠り込むことが毎日繰り返して認められる状態で,少なくとも1ケ月間は持続し,社会生活や職業的機能が妨げられ,あるいは自らが苦痛と感じる状態を指す.原因は多岐にわたり,不眠症や薬剤に伴うもの,睡眠時無呼吸症候群,睡眠相後退症候群,特発性過眠症などを鑑別する必要がある.なかでも特徴的な症状を示すものはナルコレプシーで,強い眠気のほかに,笑い・喜び・怒りなどの感情が誘因となる情動脱力発作(カタプレキシー)を伴ったり,入眠時もしくは起床時の金縛り・幻覚・幻聴が生じることもある.病態機序については今なお不明であるが,情動脱力発作を伴う症例では髄液中の神経ペプチド オレキシン(ヒポクレチン)が測定感度以下に低下している.
さて新潟大学からステロイドによる治療が可能な過眠症の症例が報告された.症例は43歳女性で,体幹と四肢のしびれ、歩行障害に加え,過眠症を認めた.眠気は強く,食事・入浴以外はほとんど眠っていた.眠気のスケールであるEpworth Sleepiness Scoreは24点中19点(11点以上で病的)と高度の眠気を呈した.脊髄MRIでは,第2頸椎レベル,および,第5頸椎から第6胸椎レベルに長大な病変を認め,頭部MRIでは視床下部から視床前内側部にかけて,対称性の病変を認めた.髄液中オレキシン(ヒポクレチン)が低下し,血清抗アクアポリン4抗体が陽性であった. ステロイドパルスを計3クール施行し,プレドニゾロン内服に移行した.これらの治療により過眠症,感覚障害は改善した.
抗アクアポリン4抗体はneuromyelitis optica(NMO)あるいは視神経脊髄型MS(OSMS)に特異的に出現する抗体で,本抗体陽性例の画像所見として,①間脳・視床下部周辺の左右対称性の病変,②第四脳室周囲を中心とした脳幹・小脳病変,③びまん性の大脳白質病変,の3パターンがみられることが報告されている.このうち,間脳・視床下部と第四脳室周囲の病変の分布は,水チャネルであるアクアポリン4の高発現部位に一致する.また間脳・視床下部はオレキシン(ヒポクレチン)ニューロンが局在しているため,同部位の病変はオレキシン(ヒポクレチン)の低下を介して過眠症を呈する可能性はありうるものと考えられる.
本例は過眠症を呈した症例の鑑別診断として,左右対称性の視床下部病変や長大な脊髄病変を認めた場合には,まず抗アクアポリン4抗体を測定する必要があること,さらにステロイドによる治療が可能であることを示した点で貴重な症例と考えられる.今後の症例の蓄積が待たれるとともに,神経内科以外の睡眠医学にかかわるドクターにも本症を広く知っていただく必要性が考えられた.
A patient with anti-aquaporin 4 antibody who presented with recurrent hypersomnia, reduced orexin (hypocretin) level, and symmetrical hypothalamic lesions. Sleep Med. 2008 Jan 26; [Epub ahead of print]
さて新潟大学からステロイドによる治療が可能な過眠症の症例が報告された.症例は43歳女性で,体幹と四肢のしびれ、歩行障害に加え,過眠症を認めた.眠気は強く,食事・入浴以外はほとんど眠っていた.眠気のスケールであるEpworth Sleepiness Scoreは24点中19点(11点以上で病的)と高度の眠気を呈した.脊髄MRIでは,第2頸椎レベル,および,第5頸椎から第6胸椎レベルに長大な病変を認め,頭部MRIでは視床下部から視床前内側部にかけて,対称性の病変を認めた.髄液中オレキシン(ヒポクレチン)が低下し,血清抗アクアポリン4抗体が陽性であった. ステロイドパルスを計3クール施行し,プレドニゾロン内服に移行した.これらの治療により過眠症,感覚障害は改善した.
抗アクアポリン4抗体はneuromyelitis optica(NMO)あるいは視神経脊髄型MS(OSMS)に特異的に出現する抗体で,本抗体陽性例の画像所見として,①間脳・視床下部周辺の左右対称性の病変,②第四脳室周囲を中心とした脳幹・小脳病変,③びまん性の大脳白質病変,の3パターンがみられることが報告されている.このうち,間脳・視床下部と第四脳室周囲の病変の分布は,水チャネルであるアクアポリン4の高発現部位に一致する.また間脳・視床下部はオレキシン(ヒポクレチン)ニューロンが局在しているため,同部位の病変はオレキシン(ヒポクレチン)の低下を介して過眠症を呈する可能性はありうるものと考えられる.
本例は過眠症を呈した症例の鑑別診断として,左右対称性の視床下部病変や長大な脊髄病変を認めた場合には,まず抗アクアポリン4抗体を測定する必要があること,さらにステロイドによる治療が可能であることを示した点で貴重な症例と考えられる.今後の症例の蓄積が待たれるとともに,神経内科以外の睡眠医学にかかわるドクターにも本症を広く知っていただく必要性が考えられた.
A patient with anti-aquaporin 4 antibody who presented with recurrent hypersomnia, reduced orexin (hypocretin) level, and symmetrical hypothalamic lesions. Sleep Med. 2008 Jan 26; [Epub ahead of print]
いずれにしても、とても興味深く読ませていただきました。
難しい質問なのですが,抗体の特異度の高さを考慮すると,視神経障害がないものの,LCL(長大脊髄病変)を伴ったOSMSと捉えるのが良いのではないでしょうか.