Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

パーキンソン病における慢性腰痛の特徴と増悪因子

2015年10月11日 | パーキンソン病
パーキンソン病(PD)では,難治性の慢性腰痛をきたす.しかし,その特徴や増悪因子については十分明らかにされておらず,明確な治療指針もない状況である.このため新潟大学脳研究所神経内科と新潟大学医歯学総合病院整形外科では共同研究を行い,それらの検討を行ったのでご紹介したい.

対象は腰痛を有するPD患者,連続44名(男24/女20例)である.平均年齢は68.7歳(55-85歳),罹病期間は11.0±10.1年,パーキンソン病統一スケールは17.1±11.6点であった.

【神経内科的観点から】
まず腰痛の特徴について神経内科的観点から検討した.腰痛の出現時期については,PDの発症と比較すると,腰痛が先が20名,PDが先が20名,同時が4名であった.これらの結果から,持病の腰痛がPDにより悪化したケース,PD発症後に腰痛が出現したケースのほか,さらに腰痛にて発症するPDが存在することが分かる.

腰痛の強い時間帯は「常に痛い」とする症例が23名(53%),次が「起床時」であった.「常に痛い」という訴えは通常の腰痛では多くないそうで,PDの腰痛の特徴かもしれないとの整形外科医との意見であった.

腰痛の誘因としては,同じ姿勢,動作時,歩行時に続き,オフ時,便秘時が見られた.オフ時,便秘時はPDにおける腰痛に特徴的で,これらの改善が腰痛の緩和に繋がる可能性がある.またパーキンソン症状との関連で,wearing off現象を認めた21名中9名(43%)がoffを腰痛の増悪因子と考え,dyskinesiaを認めた8名中2名(25%)がdyskinesiaを腰痛の増悪因子と考えていた.逆に抗パーキンソン剤の内服により11名(26%)で腰痛の改善が認められた.抗パーキンソン剤のL-DOPA当量は498±230 mgで,300 mgまでの症例は少なかった.L-DOPAのハネムーン期では腰痛が少ない可能性がある.

【整形外科的観点から】
つぎに腰痛の特徴について整形外科的観点から検討した.骨密度は軽度低下し,血中・尿中NTX(I 型コラーゲン架橋N-テロペプチド)は軽度上昇,Intact PTHは正常範囲で,ucOC(低カルボキシル化オステオカルシン)は増加,25(OH)Dは低下していた.以上よりビタミンD,Kの欠乏と,高代謝回転型の骨量低下が示唆された.X線全脊椎アライメント検討では,体幹の前傾が強いこと,腰椎の前弯は減少していること,胸腰椎の後弯が増加していること,脊柱の可動域が低下していることが分かった.VAS(10点法)の評価では,腰痛>下肢痛>下肢しびれの順に強かった.PS-39や日本整形外科学会腰痛疾患質問票(JOABPEQ)によるQOLの検討では,歩行機能障害や運動能が特に低かった.

【腰痛とQOLの増悪因子の検討】
VASによる腰痛と,PD-39による患者QOLに影響を及ぼす因子について検討したところ,改訂H & Yステージ,腰痛前弯,体幹の前傾,腰椎可動域が増悪因子であった.つまりパーキンソン病の運動障害が高度であること,腰椎前弯と可動域の減少を伴う体幹の前傾は腰痛を悪化させることが明らかになった.また上記のように運動合併症(wearing off現象,dyskinesia)も腰痛を増悪させた.

【PDにおける腰痛治療で重要なこと】
上記の検討から以下の4点が重要であると考えた.
1.PDの腰痛の治療には,整形外科医と神経内科医の連携が必要で,早期からの介入が望ましい.
2.PDの腰痛は,PDの病期や運動合併症により増悪することから,神経内科医による適切なPDの治療が必要である.
3.PD患者は骨粗しょう症になりやすいことが既報からも示されており,積極的な治療が必要である.
4.体幹の姿勢や可動域を維持するリハビリが有効である可能性があり,積極的に行う必要がある.

Watanabe K , Hirano T, Katsumi K, Ohashi M, Ishikawa A, Koike R, Endo N, Nishizawa M, Shimohata T. Characteristics of low back pain and trunk balance in Parkinson’s disease. International Orthopaedics (in press)

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 米国のトランスレーショナル... | TOP | 第9回パーキンソン病・運動障... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | パーキンソン病