Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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神経変性疾患研究を変えるかもしれない1枚の写真  ―パーキンソン病に立ち向かうミクログリアたち―

2021年09月28日 | パーキンソン病
最新号のCell誌に驚くべき写真がありました.パーキンソン病はαシヌクレイン(αSyn)というタンパク質が凝集することで発症すると考えられています.脳内に常駐する免疫細胞ミクログリアは,このαSynを分解しようとしますが,今回,その仕組みが報告されました.まずミクログリアはαSynを迅速に取り込みます.しかし取り組むにつれ分解能力は低下するだけでなく,炎症性サイトカインや活性酸素種を放出し,自身の細胞死につながります.これを防ぐため,瀕死のミクログリアの周りに元気なミクログリアが集まり,トンネル状の連絡路(ナノチューブ)によって繋がります.図の緑がαSyn,青がミクログリアの核,赤がミクログリアの細胞骨格のFアクチンを示しますが,αSynを取り込んだ中央下のミクログリアの周囲に元気なミクログリアが複数集まって,連絡路でつながっています.



ミクログリアたちの協力など見るのは初めてですが,驚くのはその連絡路を使って,瀕死のミクログリアは元気なミクログリアにαSynを送り込み,分解の手助けをしてもらっているというのです.その結果,αSynが減少すると,瀕死のミクログリアの炎症性変化は軽減し,細胞死が起きにくくなります.さらに,元気なミクログリアは,その連絡路を使って,瀕死のミクログリアにミトコンドリアを送り込むのだそうです(ミトコンドリアは細胞にエネルギーを供給します).

一方,家族性パーキンソン病(PARK8)を引き起こす遺伝子変異LRRK2 G2019Sでは,αSynの分解能が低下していることが知られていましたが,この変異を持つミクログリアでは,上記の連絡路を介するαSynの分解が損なわれていることが示されました.孤発性パーキンソン病でもミクログリアの分解能の個人差が影響しているのかもしれません.本研究はパーキンソン病のみならず神経変性疾患全体にも影響を与える重大な発見です.今後,神経変性疾患研究はミクログリアを標的とした神経炎症の研究,つまり免疫学的アプローチによる病態・治療研究に移行していく可能性があります.



Microglia jointly degrade fibrillar alpha-synuclein cargo by distribution through tunneling nanotubes. Cell. 2021 Sep 21:S0092-8674(21)01054-0.(doi.org/10.1016/j.cell.2021.09.007)
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