Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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「エビデンスに基づいた認知症予防2024」を学ぼう!広めよう!

2024年08月06日 | 認知症
Lancet認知症委員会は定期的にエビデンスに基づいた認知症予防についての情報を報告していますが,前回の2020年の報告に最近の4年間の系統的レビューやメタ解析論文を追加した2004年度版が発表されました(認知症に対する聴力障害とうつ病のリスクに関するメタ解析が完了されています).以下,2024年報告の要点です.

◆ 2つの新しい修正可能なリスク因子が追加され,リスク因子は14個になった.
2020年版の12のリスク因子(教育の不足,頭部外傷,身体活動の欠如,喫煙,過度の飲酒,高血圧,肥満,糖尿病,聴覚喪失,うつ病,社会的接触の欠如,大気汚染)に,視力低下と高LDLコレステロール血症が追加されました.ちなみに図は年代別のリスク因子と,修正によるリスク減少の程度を示しています.中年期では難聴と高LDLコレステロール血症がともに7%と最大,高齢期では社会的接触の欠如が5%と最大です.

◆ 14のリスク因子の修正は認知症患者のほぼ半数を予防または遅延させる可能性がある.
このため積極的な認知症予防を行う必要があります.これには国家的・国際的なレベルでの政策変更と個人の介入が含まれます.認知症リスクを減少させる行動は早期から開始し,生涯を通じて続けるべきと考えられます.各人が抱えるリスク因子は単一とは限らないため,予防は複数の因子に対して行う必要があります.

◆ リスク因子の修正はApoE遺伝子型に関係なく有効である.
アルツハイマー病の遺伝的要因としてApoE遺伝子e4アレルが知られていますが,その遺伝子型に関係なく,上述の14のリスク因子の修正は認知症予防に有用と考えられます.

◆ 生涯を通じて認知症リスクを減少させるための具体的な14の行動.
①教育の不足:すべての人に質の高い教育を提供し,認知機能を刺激する活動を奨励する.
②難聴:聴力障害のある人に補聴器の利用を可能にし,また聴力障害を減少させるために有害な騒音曝露を減少させる(例:ヘッドフォン難聴).
③うつ病:うつ病を効果的に治療する.
④頭部外傷:スポーツや自転車でヘルメットや頭部保護具の着用を奨励する.
⑤身体活動の欠如:スポーツや運動を推奨する.
⑥喫煙:教育,価格管理,公共の場での喫煙防止を通じて喫煙を減少させる.
⑦高血圧:高血圧を予防または軽減し,40歳から収縮期血圧を130 mmHg以下に維持する.
⑧高LDLコレステロール血症:中年期から検診を行い治療する.
⑨⑩肥満,糖尿病:健康的な体重を維持し,肥満があれば早期に治療する(糖尿病の予防にも役立つ).
⑪過度の飲酒:価格管理と過剰消費のリスクの理解を通してアルコール消費を減少させる.
⑫社会的接触の欠如:高齢者に優しいサポート環境と住居の提供.他者との共同生活を促進することにより社会的孤立を減少させる.
⑬視力低下:すべての人に視力低下のスクリーニングと治療を利用可能にする.
⑭大気汚染:大気汚染への曝露を減少させる.

◆難聴については,2020年版より大きく改訂されているので要点をまとめます.
・世界的に20%の人に難聴を認め,職業や騒音,未治療の中耳炎等が原因である.うち62%は50歳以上であり,しばしば難聴は治療されていない.
・難聴を認める場合,認めない人に比べて認知症のリスクが約37%高い.
・聴力が10 dB悪化するごとに認知症リスクが16%増加する.
・メカニズムとしては,社会的孤立,抑うつ,聴覚からの刺激の減少,聴覚のために多くの認知資源を必要とすることが挙げられている.
・米国の多施設で行われたACHIEVE研究では,特に認知症リスクが高い集団(高齢,喫煙率,教育水準,一人暮らし,糖尿病,高血圧等)にて,補聴器の使用が認知機能の低下を大幅に減少させることが示された.
・補聴器を使用する人は認知機能の低下リスクが約19%低い(ハザード比0.81)ことがメタ解析で示されている.

※この問題に関して「日本医学会連合TEAM事業セミナー 多領域の専門家が挑む加齢性難聴とその社会的課題 ― Healthy aging と認知症対策における聴こえの役割 ―」(主催:日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会,共催:日本神経学会,日本言語聴覚士協会)を9月2日に東京で開催します(マスメデア向けです).私も「加齢性難聴と認知症」というテーマで講演します.みんなで啓発活動を行ってまいります.プレスリリースはこちらです.

まとめ:認知症はアルツハイマー病だけが原因ではありません.上述のリスク因子の修正はアルツハイマー病以外の認知症にも有効と考えられます.高額な予防薬も選択肢の1つですが,その効果の程度や安全性,費用対効果を考えると,まずは個人でも国家レベルでも14のリスク因子に対する取り組みを始めることが大切だと思います.

Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024 Jul 30:S0140-6736(24)01296-0.



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