Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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近未来の脳神経内科 ―神経疾患を発症前から治療する―

2022年04月18日 | パーキンソン病
今朝のカンファレンスで「ニューロフィラメント軽鎖(Nf-L)は近い将来,血液検査の炎症の指標であるC反応性タンパク(CRP)のように使用されるだろう」という最新のNeurology誌に掲載されたコメントを紹介しました.ニューロフィラメントは神経細胞に特異的なタンパク質で,軸索や樹状突起の主要な細胞骨格成分として中枢神経系(脊髄を含む)の神経細胞,末梢神経系の神経節に広く分布しています.4種類のサブユニット,すなわちNf-H,Nf-M,Nf-L,α-interenexinから構成されています.神経細胞が軸索の変性や炎症により破壊されると,Nf-Lは軸索から放出され,血液中にも移行します.超高感度免疫測定法(従来のELISAの約1000倍の感度)を用いることでこれを測定できます.つまり神経変性や炎症,脱髄の程度を客観的に血液検査で評価できることになります(血液バイオマーカーと呼びます).神経変性疾患の発症前から検診などで測定していれば症状が出現する前に,予防療法を開始することができます.

論文を紹介します.米国シカゴから高齢者1254人を16年間追跡して,血清Nf-L濃度とパーキンソン病(PD)の発症の関連を検討した研究です.77人(6.1%)がPDを発症しました.血清Nf-L濃度が2倍高いと,PD発症のオッズ比は2.54倍となり,その相関は診断前の5年間において有意でした.また血清Nf-L濃度が高いほど,身体機能の低下速度が速いことが分かりました.つまり血清Nf-L値は,PDの発症および身体機能の低下と関連していました.

図はこのNf-Lが近未来の脳神経内科の臨床においてどのように使用されるか示したものです.健康診断などで発症前の段階から,血清Nf-L濃度を測定します.この結果,異常な濃度上昇を認めた場合,疾患ごとに特異的な脳脊髄液ないし血液バイオマーカーを用いて早期診断を行います.そして疾患のもっとも初期の段階で疾患修飾薬による治療を開始し,その発症や進行を遅らせます.治療効果の判定は血清Nf-L値を定期的に測定することでモニターできます.つまりNf-Lは神経疾患におけるCRPのような指標になるわけです.



これからの神経疾患はこのような治療が可能になるわけです.カンファレンスで指摘があったように解決すべき倫理的問題も生じはしますが,いずれにしても治療研究は加速し,ますます脳神経内科の領域はエキサイティングなものになると思います.ぜひ多くの若い人にこの領域に参入していただきたいと思います.
Neurology April 13, 2022(doi.org/10.1212/WNL.0000000000200752)
Neurology April 13, 2022(doi.org/10.1212/WNL.0000000000200338)

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