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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(8月8日)  

2024年08月08日 | COVID-19
今回のキーワードは,3年間の追跡調査で死亡率と後遺症発症リスクは低下したが,入院した重症患者では依然高値である,感染後1年間のPASC発生率は経過的に減少しているが,オミクロン期のワクチン接種者においても依然として高い,long COVIDを発症しやすく,回復しにくい9つの要因,long COVIDでは持続感染により,腸管や脊髄におけるT細胞の活性化が生じている,long COVIDに伴う認知機能低下と関連する要因は,急性期重症,6ヵ月時の認知機能障害,高血圧である,COVID-19は若年成人の難聴および突発性感音難聴のリスク因子である,です.

long COVIDに関する長期的な疫学データが複数報告されました.オミクロン期のワクチン接種者においても依然として高く,またよりlong COVIDを呈しやすい9つの要因も総説にまとめられています(3つ目の項目です).また高齢者のCOVID-19入院患者における認知症の発生率は2.5年後の時点で20%弱(!)とありますので,感染予防・重症化予防を心がける必要があります.

◆3年間の追跡調査で死亡率と後遺症発症リスクは低下したが,入院した重症患者では依然高値である.
PASC(=long COVID)の感染後2年を超える追跡データは限られている.米国から退役軍人省の健康記録を用いて,感染者13万5161人と対照520万6835人を3年間追跡したコホート研究である(オリジナルの武漢株が優位で,抗ウイルス薬やワクチンが開発されていなかった期間の感染者が登録された).非入院感染者では,死亡リスクの増加は感染1年後以降認めなくなった.PASC発症リスクも3年間で減少したが,それでも3年目には1,000人あたり9.6障害調整生存年(DALY*)に寄与した(*DALYは特定の疾病によって失われた健康な人生の年数を表す).DALYのうち,神経学的後遺症が非常に高い割合を占めていた(図1).
一方,入院した患者では死亡リスクは低下したものの,3年目においても有意に高いままであった(罹患率比:1.29).PASC発症リスクは3年間で低下したものの依然高く,1,000人当たり90.0 DALYであった.以上より感染後3年間の追跡調査において,死亡率およびPASC発症リスクは低下したものの,入院を要した重症患者では依然有意なままであった.おそらく体内の様々な部位でウイルスの複製が生じ,その結果,炎症と免疫反応が繰り返し活性化され,PASCの原因となる可能性があると推測している.
Cai M, et al. Three-year outcomes of post-acute sequelae of COVID-19. Nat Med. 2024 Jun;30(6):1564-1573.(doi.org/10.1038/s41591-024-02987-8)



◆感染後1年間のPASC発生率は経過的に減少しているが,オミクロン期のワクチン接種者においても依然として高い.
PASCの発生率がパンデミックの過程で変化したかを検討した研究が米国から報告された.退役軍人省の健康記録を用いて,感染者44万1583人と非感染者474万8504人において,プレデルタ期,デルタ期,オミクロン期における感染1年後のPASC累積発生率を推定した.結果としてワクチン未接種の感染者の累積発生率は,プレデルタ期で100人当たり10.42イベント,デルタ期で9.51イベント,オミクロン期で7.76イベントであった.ワクチン接種者の累積発生率は,デルタ期で100人当たり5.34イベント,オミクロン期で3.50イベントであった.ワクチン接種者はワクチン未接種者よりも1年後のPASCの累積発生率が低かった(デルタ期の差,-4.18イベント,オミクロン期の差,-4.26イベント)(図2). PASC発生数は,プレデルタ期とデルタ期を合わせたものより,オミクロン期の方が5.23減少していたが,その28.11%は時期に関連し(ウイルスの変化やその他の時間的影響)に起因し,71.89%はワクチンに起因していた.以上より,感染後1年間のPASCの累積発生率は,パンデミックの経過とともに減少したが,オミクロン期のワクチン接種者においても依然として高いことが分かった.
Xie Y, et al. Postacute Sequelae of SARS-CoV-2 Infection in the Pre-Delta, Delta, and Omicron Eras. N Engl J Med. 2024 Jul 17.(doi.org/10.1056/NEJMoa2403211)



◆long COVIDを発症しやすく,回復しにくい9つの要因.
long COVIDの臨床に関する総説がLancet誌に報告された.疫学に関して興味深い2つのFigureを紹介したい.Figure 1は英国における自己申告によるlong COVIDの推定有病率を示したもので,全体の有病率は1.8%.最も罹患が多い年齢層は35〜65歳.女性に多く,貧困の場合,より有病率が高くなる(5段階で1が最も貧困).「非労働力人口」と自己分類した人における有病率は5.7%で,就業能力に大きな影響を与えていることが分かる(図3).症状の持続期間については少なくとも1年間が71%,少なくとも2年間が51%,少なくとも3年間が31%であった.



Figure 2はlong COVIDのリスク因子をまとめたもので,発症しやすく,回復しにくい要因としては以下の9項目が記載されている.
①既往症あり,②女性,③貧困,④初期に多くの症状を呈した,⑤COVID-19感染時に重症(入院した),⑥ワクチン未接種または接種が不十分,⑦初期の感染時に休息がとれなかった,⑧初期の感染時に抗ウイルス薬が未投与,⑨再感染
Greenhalgh T, et al. Long COVID: a clinical update. Lancet. 2024 Jul 31:S0140-6736(24)01136-X.(doi.org/10.1016/S0140-6736(24)01136-X)

◆long COVIDでは持続感染により,腸管や脊髄におけるT細胞の活性化が生じている.
米国UCSFより,急性感染の27日後から910日後までの24人の患者において,活性化T細胞を選択的に標識するトレーサー [18F]F-AraGを用いたPETを施行した研究が報告された.結果として,これらの患者では症状の持続の有無にかかわらず,脳幹,脊髄,骨髄,鼻咽頭および肺門リンパ組織,心肺組織,腸壁などの多くの部位で,対照群と比較してトレーサーの取り込みが高かった.脊髄と腸壁におけるT細胞の活性化は,long COVID症状と関連していた(図4).さらに肺組織におけるトレーサー取り込みは,特に呼吸器症状が持続する患者で高かった.これらの組織におけるT細胞活性化の亢進は,long COVID症状を認めない参加者にも観察された.5人のlong Covid患者の大腸組織を入手し,SARS-CoV-2 RNAのin situハイブリダイゼーションと免疫組織化学的検索を行った.5人全員の直腸S状結腸固有層組織で細胞内にSARS-CoV-2一本鎖スパイク蛋白コードRNAが同定され,3人では初回感染から676日後まで二本鎖スパイク蛋白コードRNAが同定された.以上よりウイルスの持続感染が長期にわたる免疫学的障害と関連している可能性が示唆された.
Peluso MJ, et al. Tissue-based T cell activation and viral RNA persist for up to 2 years after SARS-CoV-2 infection. Sci Transl Med. 2024 Jul 3;16(754):eadk3295.(doi.org/10.1126/scitranslmed.adk3295)



◆long COVIDに伴う認知機能低下と関連する要因は,急性期重症,6ヵ月時の認知機能障害,高血圧である.
中国武漢でSARS-CoV-2オリジナル株に感染して生存した60歳以上の1245人と,感染していない配偶者358人を対象に,2年半にわたる認知機能の変化を調査した.高齢のCOVID-19生存者における認知機能障害の全発生率は,感染・入院後2.5年の時点で19.1%であった(Telephone Interview for Cognitive Status-40を用いて評価)(図5).認知機能の低下は,主に重症患者の感染後1年間で出現し,その後,低下率は軽減した.長期的な認知機能低下と関連する要因は,重症COVID-19,6ヵ月時の認知機能障害,高血圧であった.以上より,COVID-19サバイバーに対する感染後の認知機能のケアの重要性が示唆された.
Liu YH, et al. Tracking cognitive trajectories in older survivors of COVID-19 up to 2.5 years post-infection. Nat Aging (2024).(doi.org/10.1038/s43587-024-00667-3)



◆COVID-19は若年成人の難聴および突発性感音難聴のリスク因子である.
韓国から若年成人におけるCOVID-19と難聴/突発性感音難聴との関連を検討した全国住民ベースのコホート研究が報告された.合計671万6879人の若年成人が対象となった.4026万757人・月の追跡期間中に,3万8269例の難聴と5908例の突発性感音難聴を認めた.難聴のリスク(発生率:11.9対3.4/10,000人・月;調整サブ分布ハザード比(aSHR),3.44;P<0.0001)および突発性感音難聴のリスク(発生率:1.8対0.5/10,000PM;aSHR,3.52;P<0.0001)は,COVID-19群でより高かった.以上より,若年成人におけるCOVID-19後の難聴および突発性感音難聴のリスク上昇が示唆された.
Kim HJ, et al. Incidence of hearing loss following COVID-19 among young adults in South Korea: a nationwide cohort study. eClin Med. July 29, 2024(doi.org/10.1016/j.eclinm.2024.102759)

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