Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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αシヌクレインやアミロイドβのみを標的とする疾患修飾薬には限界がある!?

2023年09月26日 | パーキンソン病
パーキンソン病(PD)研究において,治療標的分子としてαシヌクレインを見出したことは極めて重要な発見で,近年,αシヌクレインを標的とする疾患修飾療薬が複数開発されました.しかし,これまでのところ,これらの薬剤がPDの進行を遅らせるという有効性を証明できていません.この理由についていろいろな説明が可能ですが,結局のところ,αシヌクレインの生理作用および病態機序が完全に分かっていないことが問題と言えます.

図は最新号のBrain 誌の総説のサマリーです.αシヌクレインは赤く示されていますが,層になっているのがフィブリルで,くるんと丸くなっているのがオリゴマーです.



イタリアのCalabresiらはまずトランスジェニック技術,ウイルスベクター,αシヌクレイン・フィブリルの脳内注入などの,近年開発された細胞モデルや動物モデルについて紹介しています.そしてこれらを用いてわかったこととして(図の時計回りに),αシヌクレインがエキソサイトーシス(細胞から細胞外への分泌)の障害,エンドサイトーシス(細胞が細胞外の物質を取り込む)の障害,NMDA受容体やドパミントランスポータ―の障害,シナプスの高頻度刺激の後に起きる長期増強の消失,認知・運動障害,脳内ネットワークへの伝播と変化をきたすことを紹介しています.つまりαシヌクレイン凝集は病態の中心にあり,脳内伝播や神経細胞脱落をきたすもののそれだけではなく,シナプスや可塑性の障害などの生理機能を阻害することを強調しているという総説です.そして著者らはαシヌクレインはそれらの生理機能の中で他のタンパクと相互作用するため,αシヌクレインだけを治療標的にしても十分ではなく,将来的には何らかの併用療法を考慮すべきと述べています.

同様のことはアルツハイマー病にも当てはまって,話題のレカネマブの治療標的アミロイドβ(Aβ)も生理的な機能が存在することが知られています.有名な論文は2019年にScience誌に掲載されたAβはGABAb受容体1aのリガンドとして作用してシナプスを調節するというものかと思います.

以上より,PDにしてもアルツハイマー病にしても,αシヌクレインやAβを中和抗体で除去すれば治るという単純なものではなく,もう少し病態が解明できたときに真の治療介入ができるような気がします.

Calabresi P, et al. Brain. 2023 Sep 1;146(9):3587-3597.(doi.org/10.1093/brain/awad150

Rice HC, et al. Secreted amyloid-β precursor protein functions as a GABABR1a ligand to modulate synaptic transmission. Science. 2019 Jan 11;363(6423):eaao4827.(doi.org/10.1126/science.aao4827
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