Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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神経疾患の危険因子としての起立性低血圧 (純粋自律神経不全症)

2024年02月20日 | パーキンソン病
2月15日の投稿で,若年性認知症の危険因子の1番目が起立性低血圧であることをご紹介し,パーキンソン病に伴う認知症やレビー小体型認知症(DLB)の早期徴候が捉えられた可能性があると記載しました.ちょうどこれに関連する研究が最新のBrain誌に報告されています.

純粋自律神経不全症(PAF)はαシヌクレインが自律神経系の神経細胞・グリア細胞に蓄積し,血管や心臓を支配する交感神経終末からのノルエピネフリン放出障害が生じる疾患で,起立性低血圧を主徴とします.PAFはパーキンソン病(PD),レビー小体型認知症(DLB),多系統萎縮症(MSA)といったαシヌクレイノパチーの前駆症状であることが知られ,将来,これらの疾患を発症する(phenoconversionする)可能性があります.今回,米国および欧州のPAF患者を最長10年間前向きに追跡した縦断的観察コホート研究が報告されました.

罹病期間の中央値が6年のPAF患者209人が登録され,うち149人が解析の対象となりました.平均追跡期間の3年間で48人(33%)がphenoconversionしました(PD 20人:42%,DLB 17人:35%,MSA 11人:23%).PAF患者は年間12%の確率でαシヌクレイノパチーにphenoconversionしました(図).いずれかに診断されるまでの早さは,登録時の排尿障害および性機能障害[HR:5.9および3.6],軽微な運動徴候(腕振りの左右差,小歩症,瞬目の減少,表情の乏しさ)[HR:2.7],嚥下障害[HR:2.5],発話の変化[HR:2.4]と関連していました.





文字の書にくさを報告した患者はPDになる可能性が高く(HR:2.6),台所の調理器具の扱いにくさを報告した患者はDLBになる可能性が高く(HR:6.8),さらにPAFの発症年齢が若い患者[HR:11],嗅覚が保たれている患者[HR:8.7],無汗症患者[HR:1.8],重度の排尿障害患者[HR:1.6]はMSAになる可能性が高くなりました.PDの自律神経学的な予測因子として最も優れていたのはtilt-table testの心拍数上昇の鈍化で,心臓交感神経性の障害を反映するものと考えられました(HR:6.1).

論文を読み,起立性低血圧を呈する患者を対象とした病態抑止療法の臨床試験が現実味を帯びてきたと思いました.例えばMSAに関しては,起立性低血圧に他の自律神経障害を認め,さらに嗅覚障害を認めない患者を対象とすることになると思います(prodromal MSA).

Vernetti PM, et al. Phenoconversion in pure autonomic failure: a multicentre prospective longitudinal cohort study. Brain. 15 February 2024. awae033, https://doi.org/10.1093/brain/awae033

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