【COQ8A-ataxiaとは】
小脳失調症の多くはいまだ治療困難であるが,さまざまな病態が含まれるため,治療可能な症例を見逃さないことが重要である.当科で取り組んでいる自己免疫性小脳失調症に対しては免疫療法が有効である可能性があるし,常染色体劣性遺伝性であれば原因遺伝子産物の補充により改善する可能性がある.後者の例としてCOQ8A-ataxiaを紹介したい.
これは上述の通り,常染色体劣性遺伝性運動失調症(ARCA)のひとつで,ミトコンドリア呼吸鎖に必要な補酵素Q10(COQ10)欠乏を呈する.これまでARCA2と呼ばれてきた.原因遺伝子はかつてCABC1ないしADCK3遺伝子と呼ばれていたが,これらは(COQ 10合成に必要な)酵母Coq8ホモログをコードするため,近年,COQ8A遺伝子と呼ばれている.ちなみにCOQのあとの数字はイソプレン側鎖の数を表している(図).まれな疾患で全体像が分かりにくかったが,今回,国際研究にてARCA2すなわちCOQ8A-ataxiaの多数例での検討が報告された.治療可能な症例を見逃さないためにも,臨床像と治療についてまとめておきたい.

【遺伝子変異と症候】
症例はドイツ,イタリア,フランス,英国,米国等から集積された59症例.方法は遺伝子型と表現型の関連,臨床像,頭部MRI所見,進行速度,およびCoQ10補充による進行抑制効果を検討している.
まず遺伝子変異は18の新規変異を含む44種類の病的変異が同定された.遺伝子変異にホットスポットはなく,さまざまな機能領域に認められた.ミスセンス変異は蛋白の構造にさまざまな影響を与えるものと予測された.
臨床像としては種々の系統におよぶさまざまな症候を呈した.発症は小脳失調症で,10歳未満にピークがあった(図).小脳失調症のみの症例も25%に認めるため,常染色体劣性のpure cerebellar ataxiaでは鑑別に加える必要がある.そのほか,認知機能障害(49%),てんかん(32%),運動不耐(25%)を呈した.認知機能については精神発達遅延とした既報もあったが,進行性であり,認知症と考えられた.Hyperkineticな運動異常症も認められ,多い順に,ミオクローヌス(28%),ジストニア(28%),頭部の振戦,姿勢時・運動時振戦を認めた.ミトコンドリア脳筋症を思わせる症候として,ミオパチー,脳卒中様発作,難聴,糖尿病も認められた.

小脳失調症に加えて他の系統の症候,特にてんかんとミオクローヌスを呈する症例は,両対立遺伝子の機能喪失型変異例(biallelic loss of function variant)よりミスセンス変異例において頻度が高かった(82-93%対53%, P= 0.029).ミスセンス変異によるgain of functionないしdominant negative(異型の遺伝子産物の働きが優性になること)の機序が関与しているものと考えられた.
しかし明らかな遺伝子型と表現型の関連は認められなかった.また同じ遺伝子変異であっても異なる表現型を呈することもあった.おそらくミトコンドリアのヘテロプラスミーが関連する可能性や,COQ8遺伝子に対する修飾因子がシス・トランスに作用する可能性が考えられた.
【頭部MRI所見】
頭部MRI所見では,小脳萎縮を全例で認めた.小脳虫部に限局しうるため,発症から長期経過していない若年例では見逃しうる.また大脳萎縮(頭頂葉と前頭葉~島回)や歯状核・橋背側のT2高信号をいずれも28%の頻度で認めた.この歯状核・橋背側のT2高信号は本疾患では指摘されていなかったが,同様の所見が同じnuclear-encoded mitochondrial recessive ataxia(核にコードされたミトコンドリア蛋白の異常により生じる劣性遺伝性失調症SPG7:プレガバリン遺伝子変異)でも報告されており,興味深い.脳梗塞様の異常信号も11%に認めた(図).

【進行速度と治療効果】
横断的解析を34名(図)で,縦断的解析を7名で行うことができ,進行速度はSARAによる小脳性運動失調の評価で,年0.45のスピードと緩徐であった.ちなみにフリードライヒ失調症は年0.8,ARSACSは年2.6と報告されている.

CoQ10ないしその誘導体であるイデベノンの補充により,進行の停止ないし改善ができることが示された.カルテなど臨床情報上では14/30例で改善が認められ,SARAによる定量的評価では8/11例に改善が認められた(年-0.81の抑制).また補充の中止により改善していた症状が再度悪化する「治療のON-OFF効果」が確認された症例もあった.
最後に治療介入により50%の進行抑制を示すためには,サンプルサイズが1群48名以上必要と考えられた.

【終わりに】
渉猟した範囲では本邦例の報告を見いだせなかったが,若年性小脳失調症では鑑別診断に加え,血清ないし血漿のCoQ10を測定し,treatableな疾患を見逃さないことが重要であろう.COQ10の低下する若年性小脳失調症ではカルシウム依存性クロライドチャネルであるanoctamin-10をコードするANO10の遺伝子変異により生じるSCAR10(autosomal recessive spinocerebellar ataxia-10)が存在する.臨床像も似ているが,発症年齢の平均が30歳代であることと痙性失調を呈する点は鑑別の参考になるかもしれない.
Traschütz A, et al. Clinico‐genetic, imaging and molecular delineation of COQ8A‐ataxia: a multicenter study of 59 patients. Ann Neurol. April 26, 2020
Kawamukai M. Biosynthesis of coenzyme Q in eukaryotes. Biosci Biotech Biochem 80:1-11, 2015
小脳失調症の多くはいまだ治療困難であるが,さまざまな病態が含まれるため,治療可能な症例を見逃さないことが重要である.当科で取り組んでいる自己免疫性小脳失調症に対しては免疫療法が有効である可能性があるし,常染色体劣性遺伝性であれば原因遺伝子産物の補充により改善する可能性がある.後者の例としてCOQ8A-ataxiaを紹介したい.
これは上述の通り,常染色体劣性遺伝性運動失調症(ARCA)のひとつで,ミトコンドリア呼吸鎖に必要な補酵素Q10(COQ10)欠乏を呈する.これまでARCA2と呼ばれてきた.原因遺伝子はかつてCABC1ないしADCK3遺伝子と呼ばれていたが,これらは(COQ 10合成に必要な)酵母Coq8ホモログをコードするため,近年,COQ8A遺伝子と呼ばれている.ちなみにCOQのあとの数字はイソプレン側鎖の数を表している(図).まれな疾患で全体像が分かりにくかったが,今回,国際研究にてARCA2すなわちCOQ8A-ataxiaの多数例での検討が報告された.治療可能な症例を見逃さないためにも,臨床像と治療についてまとめておきたい.

【遺伝子変異と症候】
症例はドイツ,イタリア,フランス,英国,米国等から集積された59症例.方法は遺伝子型と表現型の関連,臨床像,頭部MRI所見,進行速度,およびCoQ10補充による進行抑制効果を検討している.
まず遺伝子変異は18の新規変異を含む44種類の病的変異が同定された.遺伝子変異にホットスポットはなく,さまざまな機能領域に認められた.ミスセンス変異は蛋白の構造にさまざまな影響を与えるものと予測された.
臨床像としては種々の系統におよぶさまざまな症候を呈した.発症は小脳失調症で,10歳未満にピークがあった(図).小脳失調症のみの症例も25%に認めるため,常染色体劣性のpure cerebellar ataxiaでは鑑別に加える必要がある.そのほか,認知機能障害(49%),てんかん(32%),運動不耐(25%)を呈した.認知機能については精神発達遅延とした既報もあったが,進行性であり,認知症と考えられた.Hyperkineticな運動異常症も認められ,多い順に,ミオクローヌス(28%),ジストニア(28%),頭部の振戦,姿勢時・運動時振戦を認めた.ミトコンドリア脳筋症を思わせる症候として,ミオパチー,脳卒中様発作,難聴,糖尿病も認められた.

小脳失調症に加えて他の系統の症候,特にてんかんとミオクローヌスを呈する症例は,両対立遺伝子の機能喪失型変異例(biallelic loss of function variant)よりミスセンス変異例において頻度が高かった(82-93%対53%, P= 0.029).ミスセンス変異によるgain of functionないしdominant negative(異型の遺伝子産物の働きが優性になること)の機序が関与しているものと考えられた.
しかし明らかな遺伝子型と表現型の関連は認められなかった.また同じ遺伝子変異であっても異なる表現型を呈することもあった.おそらくミトコンドリアのヘテロプラスミーが関連する可能性や,COQ8遺伝子に対する修飾因子がシス・トランスに作用する可能性が考えられた.
【頭部MRI所見】
頭部MRI所見では,小脳萎縮を全例で認めた.小脳虫部に限局しうるため,発症から長期経過していない若年例では見逃しうる.また大脳萎縮(頭頂葉と前頭葉~島回)や歯状核・橋背側のT2高信号をいずれも28%の頻度で認めた.この歯状核・橋背側のT2高信号は本疾患では指摘されていなかったが,同様の所見が同じnuclear-encoded mitochondrial recessive ataxia(核にコードされたミトコンドリア蛋白の異常により生じる劣性遺伝性失調症SPG7:プレガバリン遺伝子変異)でも報告されており,興味深い.脳梗塞様の異常信号も11%に認めた(図).

【進行速度と治療効果】
横断的解析を34名(図)で,縦断的解析を7名で行うことができ,進行速度はSARAによる小脳性運動失調の評価で,年0.45のスピードと緩徐であった.ちなみにフリードライヒ失調症は年0.8,ARSACSは年2.6と報告されている.

CoQ10ないしその誘導体であるイデベノンの補充により,進行の停止ないし改善ができることが示された.カルテなど臨床情報上では14/30例で改善が認められ,SARAによる定量的評価では8/11例に改善が認められた(年-0.81の抑制).また補充の中止により改善していた症状が再度悪化する「治療のON-OFF効果」が確認された症例もあった.
最後に治療介入により50%の進行抑制を示すためには,サンプルサイズが1群48名以上必要と考えられた.

【終わりに】
渉猟した範囲では本邦例の報告を見いだせなかったが,若年性小脳失調症では鑑別診断に加え,血清ないし血漿のCoQ10を測定し,treatableな疾患を見逃さないことが重要であろう.COQ10の低下する若年性小脳失調症ではカルシウム依存性クロライドチャネルであるanoctamin-10をコードするANO10の遺伝子変異により生じるSCAR10(autosomal recessive spinocerebellar ataxia-10)が存在する.臨床像も似ているが,発症年齢の平均が30歳代であることと痙性失調を呈する点は鑑別の参考になるかもしれない.
Traschütz A, et al. Clinico‐genetic, imaging and molecular delineation of COQ8A‐ataxia: a multicenter study of 59 patients. Ann Neurol. April 26, 2020

Kawamukai M. Biosynthesis of coenzyme Q in eukaryotes. Biosci Biotech Biochem 80:1-11, 2015
