Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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アビガン®の薬理学的特徴と臨床試験における問題点

2020年05月06日 | 医学と医療
アビガン®(ファビピラビル)が,国内では5月中の承認が予定されているという.本剤に関する2つの総説をもとに正しい情報を共有したい.

【薬理学的特徴】
体内で代謝されてから活性を持つプロドラッグである.リボシル化・リン酸化を受けて活性型である三リン酸化体に変わり,RNAウイルスが複製に必要とするRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を競合阻害することにより効果を発揮する(図).肝代謝であり,肝細胞の細胞質でアルデヒド・オキシダーゼにより不活化される.半減期は2~5.5時間だが,連続投与で血中濃度は上昇する.

【臨床での使用を目指す上での問題点】
①SARS-CoV-2に対するin vitroおよび動物実験が報告されていない.
②アルデヒド・オキシダーゼ阻害作用のある治療薬は多く(Ca拮抗薬,H2ブロッカー,三環系抗うつ薬,エストロゲン製剤,NSAIDs等),併存症に対するこれらの使用はファビピラビルの血中濃度上昇をもたらし,薬剤相互作用が問題となる.
③副作用として肝機能障害,精神症状,胃腸症状,高尿酸血症,好中球減少が生じる.承認用量より低用量で実施された国内臨床試験及び国際共同第III相試験での副作用発現率は19.96%(100/501例).
④動物実験で初期胚の致死および催奇形性があり,母乳や精液にも移行する.→ サリドマイド事件のように胎児が被害を受ける薬害を防止するために,輸出する輸出する相手国を含めて徹底した情報提供が不可欠である.

【これまでの臨床試験の状況】
本来なら前臨床試験と,催奇形性を伴わない薬剤の開発を行うべきであるが,これらをすべて省略してcompassionate use,すなわち生命に関わる疾患や身体障害を引き起こすおそれのある疾患を有する患者の救済を目的として,代替療法がない等の限定的状況において未承認薬の使用を認める制度による使用がなされている.既報の臨床試験はいずれも中国の報告で,1つめは少数例の(投与群35名),ランダム化も二重盲検化もなされていないオープンラベル試験で,有効というもののエビデンスレベル(信憑性)は低い.もう一つはプレプリント論文で,アルビドールという薬剤との比較を行ったが,やはりオープンラベル試験で(実薬群116名),効果についての結論は出ない(medRxiv.).本邦では介入研究ではなく「観察研究」が行われていて,対照群がないことに加え,他の薬剤の併用も可能で,同じく結論は出ない.レムデシビルと比べるとエビデンスレベルは相当低く,マスコミ報道とは異なり,その使用に戸惑う医師は少なくない.

【現在進行中の臨床試験】
臨床試験に関する情報を提供する国際的データベースClinicalTrials.govを調べると,進行中が3試験,準備中が10試験ある(日本の研究は登録されていない).米国ではマサチューセッツ総合病院では進行中,スタンフォード大学は準備中である.また中国では6つのランダム化比較試験が行われる.将来的にはこの薬剤の効果について正しい結論が出るだろう.上記の懸念を上回る有効性を期待したい.

Du YX, et al. Favipiravir: Pharmacokinetics and Concerns About Clinical Trials for 2019-nCoV Infection. Clin Pharmacol Ther. 2020 Apr 4
Mehta N et al. Pharmacotherapy in COVID-19; A narrative review for emergency providers. Am J Emerg Med. 2020 Apr 15.



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