Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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神経内科医の音叉の使い方(初級,中級,上級編)白と黒の残像のミステリー

2016年09月03日 | 医学と医療
神経内科医は音叉を聴力の検査のほかに,感覚(振動覚)の検査のために使用する.最近,とても奥が深いと思う論文があったので,初級,中級,上級編に分けてご紹介したい.

【初級編】
診察では,音叉を持ち,反対側の手の母指球に当ててはじくと振動する(図A).柄の部分の黒いプラスチック基部を,足踝部の内側や外側などに当て,振動が感じられなくなったら患者さんから教えてもらう.「ベッドサイドの神経の診かた(南山堂)」やOSCEの講義では,患者さんが振動を感じなくなった時の振動を,患者さんの反対側の足踝部や,検者自身で確認して評価するように書かれている.もしくは振動を感じなくなるまでの時間を測定する.必ず左右で行い,比較をする.

【中級編】
Rydel Seiffer tuning fork(図A)で,知覚可能な振動の強さを測定する.この名称は,1903年,Rydel AとSeiffer FWが,音叉を振動覚の検査に用いることを論文報告したことに由来する.音叉に白黒の三角形と,0から8の目盛りが書かれた調節子を取り付け,半定量的に振動覚を測定するのだ.振動数の少ない音叉(128 Hz;C128という)に調節子を取り付け,ネジをしっかり締めると,64 Hzの音叉になる.音叉をはじくと振動し,左右の調節子に,残像による2 つの三角形が出現する(図B).振動が減衰してくると2つの三角形は互いに接近して交差する.このとき交差した点の目盛りが振動の強さになる.正常範囲は,若年者では6~8,高齢者では4~8程度と言われている.振動覚低下があると,この目盛りが小さくなる.やはり両側で行い,比較することが大切である.末梢神経障害の重症度を,この方法で検討した複数の論文がある.

【上級編】
Rydel Seiffer tuning fork製品説明書には,白でも黒でも,読み取りやすい三角形を使い,明るさの加減で,より読みやすい方の目盛りを読みとってよいと書かれている.ところが,今回,Neurology誌に掲載されたレターにはとても驚いた.この白と黒の三角形を見比べると,交差する点の位置(高さ)にズレがあるというのだ(ビデオ).そのズレは0から8の目盛りの25%,つまり目盛りでは2も異なっている(いままで全然気が付かなかった).そして試しに,白の三角形を黒に塗ってみるとこのズレは消失するそうだ.つまり三角形の色によって残像が変わるというわけだ.なぜ差が生じるかは,脳が残像を処理する仕組みに原因があるのだろうと著者らは推測しているが,詳細は不明である.最後に著者らは,今後,音叉を振動覚評価に用いるときには,評価者間の差をなくすため,白い三角形も黒に塗るか,もしくは白黒のいずれを用いるかなど取り決めをするべきと述べている.
面白いことに,Rydel AとSeiffer FWの原著を見なおすと,2つの三角形はいずれも黒であった!(図C).いつ,なぜ,原著の黒の一方が白に変わったのか,理由は分からないとのことである.

Neurology 87; 738-740, 2016
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