Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(5月9日)  

2020年05月09日 | 医学と医療
今回のキーワードは,血糖コントロールの効果,しもやけ様皮膚病変の意義,死後脳MRI,深部静脈血栓症による肺塞栓,ループスアンチコアグラントと抗凝固療法,抗体検査の問題点,新規治療(中和抗体,可溶性ACE2,アマンタジン・メマンチン)です.最後に治療薬開発におけるランダム化比較試験の重要性について述べた総説を紹介したいと思います.

◆COVID-19肺炎のAI診断.4154名の患者胸部CTのデータベースを用いた深層学習により,COVID-19肺炎と他のウイルス性肺炎を鑑別する診断システムが中国にて開発された.熟練した放射線科医と同等レベルの診断能力を有する.迅速診断を可能とし,医療システムが逼迫した状況の医師,放射線医師を支援する.また予後予測や薬剤治療効果の予測に寄与する可能性がある.著者らはこのAI技術をCOVID-19と戦っている世界の医療従事者に提供すると述べている.Cell. April 29, 2020.

◆血糖コントロールの重要性.糖尿病はCOVID-19の予後不良因子である.しかし血糖コントロールが治療や死亡率に影響を及ぼすかは不明である.このため湖北省の多施設において,2型糖尿病952名を含む7337名を対象とした後方視的研究が行われた.まず2型糖尿病患者は,より高度の治療を要し,死亡率も高かった(7.8%対2.7%;調整済みハザード比1.49).多臓器障害を呈する頻度も高かった.しかし血糖値が良好にコントロールされている患者(70~180 mg/dl)では,コントロール不良の患者と比較して,入院中の死亡率は顕著に低かった(調整済みハザード比0.14).→ 糖尿病を認めても,血糖コントロールを厳密に行うことで,予後の増悪を防ぐことができる.Cell Metabolism 31;1-10, 2020.

◆しもやけ様皮膚病変.スペインからの6症例の報告.おもに10~20歳代の患者における「つま先,かかと,指のしもやけ様病変」で,重症ではない症例の回復期や無症状感染者に認められる.まず発赤し,しもやけ様であるが(図1),1週間もすると紫色になり,治療せずに消退する.レイノー現象や虚血徴候はない.かゆみや痛みを呈しうるが,多くは無症状である.生検は行われておらず機序は不明だが,血管炎や微小塞栓による閉塞,皮膚型結節性多発動脈炎などが考えられる.このような皮膚病変を認めた場合,発熱や呼吸器症状の既往の有無を確認する.また無症状感染者における診断に役立つ可能性がある.Intern J Dermatol. April 24, 2020.



◆死後脳MRI解析.患者の死後24時間以内に,頭部MRIにて脳障害をvirtopsy(= virtual + autopsy)する前方視的研究がベルギーより報告された.対象は19名.2名にSWI画像で描出される皮質下の大~微小出血を認めた(図2のD2/D4).ウイルス感染に伴う血管内皮細胞傷害によるものと考えられた.また1名にFLAIR画像で,PRES(可逆性後頭葉白質脳症)を思わせる皮質・皮質下の浮腫性病変を認めた(D7).嗅球の非対称性を4名に認めたものの,それ以降の嗅覚路に異常信号は認めなかった.例として,D8は嗅裂の閉塞を伴う左嗅球腫脹を呈する.脳幹には異常信号は認めなかった(D9).呼吸困難に脳幹障害が関与する可能性が指摘されてきたが,その仮説を支持する所見は認めなかった.medRxiv. May 08, 2020



◆深部静脈血栓症による肺塞栓による死.ドイツからの12症例の剖検例の報告(院内死亡10名,院外2名).オートプシー・イメージング(CT)と臓器を試料としたPCR検査を行った.7名(58%)に死亡前に分からなかった下肢の深部静脈血栓症(DVT)を認めた.4名ではDVT由来と考えられる肺塞栓を認め,死因と考えられた.男性9名中6名で前立腺静脈叢に血栓を認めた.PCR検査ではウイルスRNAは全例で肺に認め,高濃度であった.12名中5名で肝,腎,心にも高濃度に認められた.10名中6名でウイルス血症を認めた.→ 循環動態の急な変化を認めたら,肺塞栓症を疑う必要がある.Dダイマーの上昇を認めたら,抗凝固療法開始を検討する.また重症例では全身臓器にウイルス感染が生じていた.Ann Intern Med. May 6, 2020.

◆ aPTT延長と抗凝固療法.COVID-19患者216名に対する凝固機能検査の結果,44名(20%)に活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)の延長を認めた.うち35名に詳しい検索を行ったところ,31名(91%)がループスアンチコアグラント(LAC)陽性であった.臨床的に,肺塞栓症1名,静脈血栓症疑いを1名認めた.LACは,in vitroでは顕著な凝固時間の延長とaPTT・PTの延長傾向を示すにもかかわらず,臨床的にはほとんど出血傾向を認めず,むしろ血栓傾向を示す.この検討でも出血は認めなかった.→ aPTT延長は,COVID-19患者におけるDVTの治療・予防に抗凝固薬を使用する妨げにはならない.またaPTT延長のために,肺塞栓症に対する血栓溶解治療を控えるべきではない.NEJM. May 5, 2020.

◆抗体検査の問題点.鼻咽頭拭い液PCRは発症から1週間以内に陽性となるピークがあり,軽症例では3週目には陰転化しうる.しかし6週目でも陽性の症例も存在する(図3).一方,抗体検査で最も感度が良く,かつ迅速なものは総抗体であり,その値は発症2週目から上昇し始め,2-3週目にピークに達する.よく話題になるのは臨床現場即時検査(Point of Care Testing;POCT),すなわち血糖値のように医療現場でリアルタイムに行う検査であるが,品質にはばらつきがあることと,抗原が何かを多くのメーカーが明らかにしていないという問題がある.また純粋に定性的な検査であり,抗体の有無しか判定できない.さらに重要なことは,抗体検査陽性が,ウイルスに対する防御能をもつ中和抗体の存在を意味するわけではないことを認識する必要がある(ただしELISAで検出されるIgG抗体は中和抗体と正の相関があることが示されている).JAMA. May 6, 2020.



◆中和抗体の評価法.COVID-19から回復し,退院して間もない8名と,退院から2週間経過した6名をpseudotype entry assay(中和抗体の測定方法)にて調べたところ,13/14名(93%)で中和抗体を有していた.抗体価は患者により異なるが,年齢の影響はなく,また少なくとも退院から2週間は,中和抗体は維持されていた.また中和抗体価はウイルスがヒトACE2に結合するS蛋白の受容体結合部位(S-RBD)に対するIgGのAUC値と相関していた.さらに中和抗体価はウイルス特異的T細胞数と相関していた. → ウイルスに対する防御反応として液性免疫,細胞性免疫の双方が関与する.また中和抗体価の予測に抗S-RBD IgG抗体の測定が有用であるとともに,S-RBDがワクチンの標的となることを意味する.Immunity. May 03, 2020.

◆新規治療(1).初の中和抗体(ヒト・モノクローナル抗体)の開発.SARS-CoV-2と SARS-CoV-1のS蛋白のアミノ酸配列の同一性は77.5%で,構造も類似している.このため,51種類のSARS-CoV-1ハイブリドーマ上清を用いて,SARS-CoV-2に交差反応する中和抗体の探索を行った.この結果,4つの交差反応性を認める抗体を見出し,うち1つが中和活性を持っていた.つまり初の中和抗体47D11が作成された.47D11はSARS-CoV-2のS蛋白のS1B領域に結合したが,意外なことにウイルス側のS1Bとヒト側のACE2の結合を阻害せず,未知の機序によりSARS-CoV-2の感染を阻害するものと考えられた (Nat Commun. May 04, 2020).一方,ベルギーで飼育されるラマを,SARS-CoV-1/MERS-CoVのS蛋白で免疫後にできたH鎖のみの抗体の1つ(VHH)が,SARS-CoV-2のS-RBDに結合(交差反応)することが判明した.このVHHをもとにして,二価のヒト型IgG Fc融合体(VHH-72-Fc)を作成したところ,培養細胞へのSARS-CoV-2感染を防止し,中和抗体として作用した.ヒトでの臨床試験を目指す(Cell. Journal pre-proof).

◆新規治療(2).可溶性ACE2による感染の抑制.ACE2がSARSにおけるウイルス感染のヒト側の受容体であることや,ACE2が肺損傷に対して防御機能を持つことを発見したオーストリアのグループが,臨床使用可能グレードの可溶性人工ACE2(hrsACE2)を作成し,競合阻害により(図4),ベロ細胞へのSARS-CoV-2感染を防止できること,ならびに人工の血管や腎臓(血管オルガノイド,腎臓オルガノイド)への感染を,完全ではないものの抑制できることを示した.→ 当初から期待された治療がいよいよ臨床試験に進む.Cell. April 24, 2020.



◆新規治療(3).アマンタジンとメマンチンは有効?ポーランドからの報告.アダマンタンは10個の炭素がダイヤモンドの構造と同様に配置されるかご型の分子である.RNAウイルスが感染細胞から放出される際に必要なイオンチャネルタンパク質(viroporin)を阻害することが報告されている.アダマンタンのCOVID-19に対する効果を検討すべきという論文もあることから,アダマンタンの誘導体で(図5),パーキンソン病治療や多発性硬化症の疲労に対して使用されるアマンタジン,そして認知症に使用されるメマンチンを,少なくとも感染の3ヶ月以上前から通常量,内服していた多発性硬化症10名,パーキンソン病5名,認知症7名の濃厚接触者からの感染後の転帰について検討した.1例もCOVID-19の症状を呈さず,かつ原疾患の増悪も見られなかった.少数例での横断研究であるため,今後の検討が必要である.Mult Scler relat Dis. April 30, 2020.



◆治療薬開発におけるランダム化比較試験の重要性.英国インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者が,レムデシビルに対して行われた単一群試験(single arm trial)の限界について言及した.情報量が多く,標準治療と比較して,有効性や副作用について明確にできるランダム化比較試験(RCT)を行う必要性を強調している.RCTによるデータがなければが,症状が悪化したときに薬剤を中止すべきかさえ分からない.単一群試験は,①有効であってほしいという願いが強い場合,②臨床試験に対し投げやりな状況になっている場合,③医師がその薬剤の有効性が非常に高いと述べることから始まる場合がある.そのような状況下での有効率は,患者の組み入れにおいて,高齢者,併存症,肥満等の患者を含まない場合には90%を超えうるものになる.ファビピラビル(アビガン®)も単一群試験であることから,この研究を行った中国チームにRCTを行うことを推奨している.Med. May 04, 2020.

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