Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

極東の世襲政治の様相

2006-12-13 | マスメディア批評
アンネ・シュネッペン記者の朝鮮半島関連の記事を二つ読む。十月末、十一月末と二回、別々に掲載されたものである。彼女の日本関係の記事をここで評価して取り上げる事は殆どないが、両記事ともソウルから朝鮮半島を取材対象としていて極東の構造を良く示している。

一つ目の記事は、北朝鮮の観光特区「現代パーク」に作られたゴルフクラブと温室の取材である。高額の料金を払ってここを訪れる朝鮮の南の同胞は、ピョンヤンのエリート芸術家のばかばかしいサーカスを見物して、目に涙をして貧しい分断された縁者を優越感を持って哀れむのである。国境から僅か20キロメートルしか離れていない有刺鉄線と地雷に隔たれたこの資本主義の飛び地は、秋には金剛山の山陰となり、ハイシーズンを向かえる。しかし、流石に今年は核実験がなされて半分ほどはキャンセルされたという。そして、制裁に寄与しないとして、北朝鮮の外貨稼ぎに貢献しているサファリパークのような市民生活から隔離された、この施設は米国や南鮮タカ派の批判の矢面に立つ。

二つ目の記事は、浮浪者且つヒット曲歌手、大学教授などありとあらゆる職歴を誇り、自殺未遂の常習者である、李王朝最後の朝鮮王高宗の第五子義親王李堈のその十一子ソエク氏への取材である。つまり梨本宮家の、嘗ての裕仁天皇のお后候補方子は、氏の祖母にあたり、兄嫁となる松平よしこ夫人から鍋島家なども遠縁となる。その職歴には、米国での皿洗いやベトナム戦争での従事が含まれて、近年KBSでその波乱万丈の歴史はドラマ化され、本年はセミナーツアーで日本を訪れたとある。おそらく日本では、ブームとなって有名なのだろう。金が入れば酒と女に全てつぎ込み散財する兵を自称する一方、「日本には今でも天皇制があるのに、我々は象徴を失ってしまっている。」と嘆く。朴独裁政権下では売国奴と罵られ、さらにチョン軍事政権下にはその王朝の歴史の一部を放棄されるなど苦汁を舐めて来た様である。しかし最近は、朝鮮王朝の伝統を観光資源として復活させようとする風潮があるらしく、実の姉との正統派争いが過熱しているとある。

放蕩貴族と放蕩独裁者が割拠する朝鮮半島をこうした視点から眺めると、極東の社会の一面が見えるようである。朝鮮半島が大統領制から立憲君主制に逆行するとは誰も思わないが、南の共和制が軍事独裁政権時代をようやく終えて、民主的な手段が機能してくると同時に、世襲制度となった共産政権がいずれ南朝鮮と統一されるとするとき、こうした伝統への回帰が回顧趣味としてが浮上してくるのが面白い。

その国境から遠くない雪嶽山への基地・束草市の砂浜を、朴独裁政権下に散策した事がある。水平線上には、海岸を監視しながら駆逐艦が白波を立てて過ぎて行く、日本海へと何処までも広がる美しい海原であった。旅行中スパイ警戒からカービン銃を何度も突きつけられて、山岳観光の地へとやってくると、ひなびたお土産屋さんや、シューウィンドーに生きたマムシをびっしりと詰め込んだ蛇屋さんがあった。食事を摂った店の地元の爺さんが、一週間の滞在中唯一皇国仕込みの綺麗な日本語で話かけてきて、シイタケ山菜飯を勧めてくれた。

極東だけに限っても真ん中の帝国を中心に永い交友の歴史が存在して、その歴史の一頁として位置付けられる暫しの出来事として、上述するような政略結婚や世襲政治が束の間の時代錯誤として映るのか、それとも今後も末永く繰り返されて行くのかどうかは定かではない。



参照:
Von Anne Schneppen
"Im matten Glanz der Diamantenberge" vom 30.10.06, FAZ
"Der Prinz fährt U-Bahn" vom 25.11.06, FAZ
コメント (5)
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