Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「この世界の片隅に」片渕須直

2017-02-12 11:47:36 | cinema

この世界の片隅に
2016日本
監督:片渕須直
原作:こうの史代


これは良い映画だと思う。
どのように良いのかを言葉にするのは時間がかかるので、ここでは大体諦める。

戦時中を健気に生きた主人公の物語、というのとはちょっと違うと思う。
戦時中も罪のない庶民の愛すべき日常があった、というのもちょっと違うと思う。
罪のない庶民の生活を戦禍が踏みにじった話というのは、まあその通りなんだけど、
それもそういう映画なんだと言っちゃうとちょっと違う感じがする。

違わないとも言えるけど。


この映画は、日常というには起伏のある生活を丹念に描いているのだが、
そこには愛も憎しみも正義も悪意も善行も罪もみんな一緒くたになって、
どれかを一つテーマとして扱うというようなことをしていないのだ。

ワタシたちの日常はいままさにそういう不可分な混沌としてここにあるじゃないですか。
愛も育み憎みもし、正義を信じつつも無自覚に罪を犯しているじゃないですか。
そういう混沌をうまく捉えているのだと思う。

この感じ、何かに似ているんだよな。
なんだろう。。



ふと思い出したのは、エドワード・ヤンの名作『ヤンヤン 夏の思い出』
全然時代も背景も何もかも違うけど(あっちは群像劇だし)、
でも、起伏のある日常をただただそのものとして包んだ感じはよく似ている。

未分化でまだ意識にも言葉にもならない日常に潜んでいる、何やら複雑で層をなして絡み合ってるあれこれを、
そういうものとして一定の時間の中にパッケージしてしまった。
そういう奇跡的なことが、この二つの作品に共通しているのではないかしら。

その奇跡は映画では時々起こる、映画が実は得意とする(しかし滅多に起こらない)奇跡なのではないかしら。

という点で、これは素晴らしい映画だと言えると思います。

***

という映画的素晴らしさというのはしかしどこから生まれるのかね。

脚本が優れているというのはある。
そこに書かれた言葉を発する人物が置かれた状況を、いろいろな面でよく表す絵と音。
そういうものがちゃんとそろっているということだろう。

****

「主人公がやたら前向きなのが怖かった」という評があると聞いたので、考えてみたのだが、
いや、決してすずさんはいつも前向きなのではなかった、と
丹念に思い出してみるとわかると思う。
ネタバレといわれるとアレなのであれですけど、あの布団の上のシーンとか
あの別室でのシーンとかで、すずさんの絶望がわかるよね。

前向きに見えているのは、彼女の「子供のころからいつもぼおっとしている」性格のために、
機敏に状況に応じて悲しんだり反発したりという反応を見せないからだと思う。
このことは、映画の冒頭にまず提示される重要な前提だと思う。

****

「ありがちな反戦メッセージがないのでよかった」という評も目にしたので、これまた考えてみる。
う~ん
確かに誰一人として「この戦争は愚かだ!」とか「日本は負ける!」とか言わない。
そういうこといわれるとウザいてのもわからんではない。

でもこれ観ると、やっぱり戦争というものがなかったらすずさんたちは
「みな笑って暮らせる」ようになったかもしれない、というレベルのメッセージは受け取るだろう。
戦争は正しかった、戦時中の日本は理想の社会だ、というメッセージではない。
(そう受け取っている人は、自己を投影しているだけよね)

同じメッセージでもあからさまでなければOKで、あからさまだとNGというのは
なんというか、自分の「気分」を大事にしすぎなんじゃないかと思うなあ。

****

庶民の罪を描いていないのでダメ!という評も目にしたが、
これについては、最初のほうに書いたように、罪もなにもかも含めて描かれていると思うので、
ダメということは全然ない。

戦時中のあの日常を見たら、いまの自分の日常の危うさに思い至るだろう。
あの時代でコレクトネスを涵養して正しく声を上げるのは非常に困難だっただろうが、
今の我々にはそれができる。
そこに気づかねばならないだろう。


****

アングルも引きも寄りもよく考えられていたと思う。適切なときに適切な画が出てくる。
音も非常によくできている。音楽よりも砲弾の音などが印象に強く残る。

個人的にはコトリンゴさんの歌が弱点なように思う。
音楽家としては素晴らしいし尊敬もするが、
ああいう声のアプローチは、いまやある種のポピュリズムで、
そのポピュリズムの力を安易にアニメ映画にはめ込んでいるように思えてしまったのだ。
この映画の唯一の安易な点となってしまったのではなかろうか。

まあ自分が女性でああいう声をもっていたら
たぶんああいう音楽をやっているだろうとは思うけど(笑)


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「ムーンライティング」イエジー・スコリモフスキ

2017-02-08 01:28:50 | cinema
ムーンライティング [DVD]
クリエーター情報なし
紀伊國屋書店


ムーンライティングとは、アルバイトとか副業とかいう意味があるそうである。
この映画では不法就労という意味合いになるだろう。
紀伊国屋映画叢書「イエジー・スコリモフスキ」では『不法労働』のタイトルで紹介されている。

気になるポイントのひとつは、ノヴァクが冒頭に
英国への入国審査のときに審査官に「連帯に加入している?」と訊かれ、
Noと答えたこと。(このとき「これだけは本当のことだ」と独白が入る)

彼は後に、ロンドンの市内に貼られた「連帯」への連帯を訴えるポスターを
人目を忍びつつ剥がしている。

また一方で、窃盗を続けながらの困窮した条件での労働に耐えかね
教会で懺悔をするシーンでは、「信仰は捨てたので懺悔ではない、自尊心を取り戻したいのだ」と
独白する。

政治的にはノンポリで、信仰心もない男であるノヴァクが、
異国で孤絶した状態に置かれ、職人たちのリーダーとして働くという状況下で、
祖国で政変が起きる。
彼だけが英語を解することにより、その「秘密」をコントロールすることになり、
徐々に専制君主的な「政治」に手を染めていく。
その過程が面白い。というか辛い。

万引きを繰り返すハメになり、何度も危機に陥るが都度幸運にも乗り越えるというのが、その「政治」の裏側の「経済政策」てことか。

この万引きがバレそうになるところが都度手に汗握る。これもひとつの映画的スリル。

あとは表向き紳士的なご近所が、ゴミ出しとかで狡いところを見せるとか、ボスがノヴァクの留守中に妻を誘惑してるんじゃないかとか、そういうモチーフも絡む。

スコリモフスキらしい地味なのに重層的な作品でした。

****

ジェレミー・アイアンズは多忙スケジュールの合間に本人の強い希望で出演。スコリモフスキ作品には注目していたそう。

女性はマーケットのレジ打ちとかスポーツショップの店員さんみたいな人しか出てこないが、女性への濃密な思いみたいなのが滲んでいるのもすごい。男性目線だけど。

主演4人のうちの1人は、実際にロンドン滞在中に祖国が戒厳令出る事態になり帰れない体験をした素人とのことで、まさに映画を地で行く人です。

空港に貼ってあったポスターとか、空港らしからぬ雰囲気だったので、何のポスターかわかれば面白いだろうけど、わかりません。。。


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さよならを教えてComment te dire adieu ?- フランソワーズ・アルディ

2017-02-04 05:35:54 | music
フランソワーズ・アルディは一応好きで、幾つかのアルバムを聴いているんですが、
あまりちゃんと聴き込んだり調べたりはしてないんですよ。

で、この有名曲、
当然ファンの間では周知のことで何を今更と言われるでしょうが、
ワタシとしては実にフレンチなセンスの光る小粋なメロディだよなあと
長年思っていたわけですが、、、
この歌の元ネタはイギリスでヒットした"It Hurts To Say Goodbye"という歌だったんですね。。。

唖然。




全然イギリスっぽくないメロディ。
1967年にイギリスでVera Lynnが歌ってヒットしたものを
フランソワーズがセルジュ・ゲンスブールに歌詞を書いてもらって
フレンチポップに仕立て上げたものなのですね。

何を今更。。。

しかし、

圧倒的にフランソワーズのバージョンの方が
素敵です。
圧倒的に。
検索すると歌詞とその和訳がたくさんヒットしますが、
歌詞もさすがセルジュ。
韻を踏みまくりの乙女チックな内容でこれぞセルジュ(が女子に書く歌詞)w


というわけで、
ごくごく個人的な驚きを記しました。




フランソワーズ版はこちら

Françoise Hardy - Comment Te Dire Adieu? (Français / Español subs)



ヴェラ・リン版はこちら

VERA LYNN - It Hurts to Say Goodbye (Top 10 Hit in 1967)



このフランソワーズのフィルムは、すごい豪勢だよね。
歌も演奏もアテ振りなのに、この動員数w
そんでこの動画には字幕が付いているので感動するです。

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「おとなのけんか」ロマン・ポランスキー

2017-01-26 00:29:54 | cinema
おとなのけんか [Blu-ray]
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ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


おとなのけんかCARNAGE
2011フランス/ドイツ/ポーランド/スペイン
監督:ロマン・ポランスキー
原作戯曲:ヤスミナ・レザ
脚本:ヤスミナ・レザ、ロマン・ポランスキー
出演:ジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツ、ジョン・C・ライリー

面白いですが、脚本勝負の作品という感じ。
舞台とは違う映画的なリアリズムをがっちり守っている。
『毛皮のヴィーナス』もやはり戯曲を原作としているので、
近年のポランスキーはこういうタイトなものを作りたいのかもしれない。

理性的かつフレンドリーに始まったふた組の夫婦の会話が
時折絶妙に漏れ出す本音の気配から徐々にほころび出す展開は
もう可笑しくて最高である。

ロングストリート家はどちらかというとアート志向で昔ならヒッピーになっていそうな夫婦。
一方のカウアン夫妻は、もっと現代的なビジネスマンタイプ。
この二つの典型の対比がまた絶妙な気がする。
多分アメリカの人が観ると、これすごく笑えるんじゃないのかなあ。

敵対するだけじゃなくて、時折男同士あるいは女同士で急に共感しあってみたり、
味方のはずの夫婦間で突如諍いが起きたりと、
4人の関係性がどんどん移り変わるのもお見事!


ジョディー・フォスターが、顔を真っ赤にして筋を立てて怒る顔が実に素晴らしい。
演技とは思えん。

タイトルロールで、遠景でこのお話の重要な背景が提示されるのが
映画ならではの演出ですね。
アレクサンドル・デプラ?デスプラ?の音楽も多分タイトルロールとエンドロールでしか流れない。


79分という短さも良い。
セザール賞の脚本賞を受賞しているそうです。

ブルックリンを舞台としているが、撮られたのはパリということです。
ポランスキーはアメリカに行けないからね。。。


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「ローズマリーの赤ちゃん」ロマン・ポランスキー(再観)

2017-01-24 02:29:11 | cinema
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パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン


ROSEMARY'S BABY(1968アメリカ)
監督:ロマン・ポランスキー
原作:アイラ・レヴィン
脚本:ロマン・ポランスキー
音楽:クリストファー・コメダ
出演:ミア・ファロー、ジョン・カサヴェテス 他


前回観たのはそんなに前ではないんだけど、もののみごとに内容を忘れていた。
恐るべき記憶力。

最初はグラビンスキ的に、家に何かが憑いている系かしらと思ったが、
違った。
怪しい隣人系ということでは、『テナント』と驚くほど似ていた。

『テナント』との違いは、最後までそれ妄想だよね、ということになるか、
妄想だと思ってたら現実なんじゃね?となるか。


ポランスキーのこの手の作品の面白いところは、
画面の端々に不安の要素をどんどん投入していくところで、
冒頭からあのマンションを見に来た若夫婦の軽やかな足取りとともに
廊下の床のタイルが剥がれているところをアップにして見せたり、
エレベータボーイがなんとも不穏な目つきでふと振り返るところとか、
室内で案内する管理人が、ふと口を閉ざし廊下の奥の家具を見るとか、
地下の洗濯場で出会う少女が見せる首飾りのアップ(うわっ不吉だとすぐわかる)とか、

列挙していくと何日もかかる。

それから、やはり『テナント』でも見られた手法だけど、
モチーフを執拗に何度も繰り返して提示する技がカッコ良い。
何度もなんども隣人が怪しげなドリンクを持ってきて飲ませるとか
怪しいものを食わせるとか、怪しい薬を飲ませるとか。
この繰り返しが、ローズマリーの感じるストレスを実感持って観客に伝えている。

こういう手腕をポランスキーはどこで身につけたんだろう。
『水の中のナイフ』1962からわずか6年しか経っていない。
『反撥』は幻想サスペンス的要素があったと思うが、
『袋小路』や『吸血鬼』はだいぶタッチが違う。

驚く他なし。

そういうサスペンス的な細部の設計は、『テナント』や『チャイナタウン』
あるいは『フランティック』へと響いていく一つのポランスキー的な脈だね。

『袋小路』や『吸血鬼』みたいなコメディタッチも得意な感じだし、
『テス』や『戦場のピアニスト』のような大河ドラマもできるし、
最近は『毛皮のヴィーナス』『おとなのけんか』のような室内劇も好きみたいだし、
多彩だよね。

***

今回の謎は、ローズマリーはなぜ中盤で髪をベリーショートにするのか?
ということなんだけど。。。

例の夢を見て、その後に妊娠がわかり、
でもそれが隣人に知れて無理やり医者を変えさせられる。
その後。

それまでの若妻とは違う存在になったんだということなのか
衰弱をよりはっきり印象付けるための演出なのか

確かにそれまではいかにも美しい魅力的な女性という立ち位置だったのが、
不安と猜疑心に取り憑かれ思わぬ行動力を発揮する女性に変貌していく、
それを効果的に印象付けるものと思う。

それ以上の意味づけがあるならば是非教えてください。


***

ラストというか、ローズマリーの赤ちゃんの実像は出てこないんだけど、
もちろんそれが素晴らしいセンスというものであって、
ミア・ファローの、作品内で最大レベルの驚愕顔をもって何事かを表現しているわけです。
このセンスこそ、映画の素晴らしさだと思うのよね。
それがどう素晴らしいかは、後によりはっきりとしたやり方で
『ゴーストライター』のエンディングで示されている。

なんでも見せちゃう映画がもしかしたら流行りなのかもしれないが、
ワタシにとっては断然こういうのが好みね。


*****

ところで、ミア・ファローといえば、わしらには
ビートルズと一緒にインドに行った、あのミア・ファローですよね(笑)
そしてもちろんプルーデンスの姉!

ミアは後のウディアレン作品での姿はほとんど観ていないので、
ちょっと色々観てみたくなりました。

ビートルズからみでは、この映画の舞台となるマンションは
ダコタハウスでのロケということです。
ジョンが住んでいたところで、この前で射殺された。。


夫役のジョン・カサヴェテスは、言うまでもないですが
映画監督としてもすごいですよね。


あと、音楽はクリストファー・コメダとクレジットされている
クシシュトフ・コメダ
冒頭の女声スキャットは、全くアメリカ映画らしからぬヨーロピアン調
(しかも東欧チック)
実に素晴らしい。
劇伴もこれはヒッチコックを意識したかなという作風あり
奇妙な音響作品あり、で素晴らしい。

コメダはこの作品の後事故にあってしまい、
ポランスキーとの最後の作品になってしまった。
とても残念。



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2016年を振り返る~極私的映画ランキング~

2017-01-07 18:04:51 | cinema
2016年を振り返る~極私的映画ランキング~

毎度言うことですが、ワタシの映画鑑賞スタイルは劇場に足繁く通うというよりは、旧作中心にDVDでというものなので、年間公開作のランキングはできません。
なので、新旧作とりまぜてのすた☆脳内限定ランキングをやって喜ぼうという私的企画です。

という文章自体、昨年のランキングページからコピペしてるくらい毎年言ってますw

という例年の枕詞ではじめますが、
あまり人の参考にもならないし話題に同調することもできない企画なのでやめちゃおうかと思ってたんですが、
とらねこさんが楽しみにしてくれているということでしたので、
ひとりでも読んでくれるのなら続行するかと。


・・・と、ここまでが昨年からのコピペです(笑)

・・・と、ここまでが昨年からのコピペ(笑)

・・・とここまでが昨年からのほぼコピペです。

****

さてと、昨年もほとんど映画を観ませんでした(ええっw)
ので、観たものを多分簡単に列挙できますね。

『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』セドリック・クラピッシュ
『ジプシーのとき』エミール・クストリッツァ
『アリゾナ・ドリーム』エミール・クストリッツァ
『毛皮のヴィーナス』ロマン・ポランスキー
『蜂の旅人』テオ・アンゲロプロス
『コレクションする女』エリック・ロメール
『シン・ゴジラ』庵野秀明
『神々のたそがれ』アレクセイ・ゲルマン
『デスペア』ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
『イレブン・ミニッツ』イエジー・スコリモフスキ
『出発』イエジー・スコリモフスキ
『バリエラ』イエジー・スコリモフスキ
『オケ老人!』細川徹
『ダーク・シャドウ』ティム・バートン

ほらっ簡単だった。
こうしてみると実に時流と関係なく観たいものに頑なに執着している感があるな。。
日和ったのは『シン・ゴジラ』くらいではなかろうか。


で、いきなり
第1位『イレブン・ミニッツ』イエジー・スコリモフスキ
やはり新作に投票するのが良いですね。
絶妙なエピソード繋ぎが素晴らしいし、それぞれがほとんど明示的には語られないけど
なんか伝わるという匙加減が巧妙すぎる。
ついでに過去作への連続性も盛り込まれていたりして、かっこよすぎ。
スコリモフスキは常に現在が最高なのかも。

第2位『出発』イエジー・スコリモフスキ
で2位もスコリモフスキ。
これはJ.P.レオー主演の古い作品ですが、実に愛すべき映画。
荒削りでありつつも繊細かつ大胆。これを今まで見ていないというのはまずかろう的な。
ゲリラ的撮影や即興風なシーンもあり、巧妙な脚本技もあり。
何度でも観たい。
クシシュトフ・コメダの過剰とも言える音楽がもう最高なのだ。

第3位『アリゾナ・ドリーム』エミール・クストリッツァ
いやこれいい映画なんですよ。
クストリッツァにしてはキレイすぎるとも、お祭りが足りないとも言えるかもしれないけれど、
何もそう毎度同じものを期待しなくても良いわけで、
むしろユーゴの情勢もアメリカンドリームの終焉も歩み寄れない人と人の間の愛情も
全部重層的に詰め込んでくるクストリッツァらしさはちゃんと備わっている。
リリ・テイラーも良いし。
スコリモフスキがいなければ1位。


あとは・・・順位をつけるのは難しいかも。

『ジプシーのとき』エミール・クストリッツァは、やっと観れたのと、ローカルなテイストとともにのちに大きく開花する祝祭と混沌の要素が芽生えているのが面白いのだが、次点感あり。

『毛皮のヴィーナス』ロマン・ポランスキーは、ポランスキー最高なんだけど、彼の作品ではもっと好きなものがあるので、ここではランク外。

同様にアンゲロプロスも今回はランク外。アンゲロプロスにしては仕掛けが地味なのよね。

ロメールも面白い映画だったのだが、彼の場合、一連の作品群が一つの作品みたいな気がしてしまう。

『神々のたそがれ』ゲルマンはこれまたすごいパワーだし、汚い映画なので私好みなんだけど、
手法が『フルスタリョフ〜』と同じな気がして、それも別にいいんだけど、まあなんとなくランク外。

ファスビンダー『デスペア』もファスビンダーにしてはスマートな印象。不器用なファスビンダー好きとしては、もうちょっとかも。
でもまあ十分不器用な要素はあるが。。

クラピッシュも好きよ〜



てなことで、昨年のランキングでした〜
完全に世間からは取り残されておりました〜〜w

本年も宜しくお願い申しあげます。

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「テナント/恐怖を借りた男」ロマン・ポランスキー

2017-01-02 01:06:28 | cinema
テナント/恐怖を借りた男 [DVD]
クリエーター情報なし
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン


すげー遂にDVD出た~と感動して買ったが1年以上積んであったこいつを観ました。
心のふるさとポランスキーにはずれ無しというわけですが、
やはり面白かったですねー

周りが俺を陥れようとしている!みんなグルだ!
という、それが真実なのか妄想なのかよくわからんというような設定は、
ベタといえばベタなんだけど、やはり好きなんだよね。体質的に。

でもまてよ?このトレルコフスキ君のケースは、むしろ
それ絶対妄想だよっていう内容だな。。
本当に周囲が彼を陥れようとしているのではないか?と
観客に思わせるような要素はなにもない・・・

ということで、虚実の閾が揺らぐことで盛り上げるサスペンスではないのだな。
妄想が出来上がっていく様子を内面から描いている、その怖さだと思う。


完全に想像だけど、ローラン・トポルもポランスキーも
気難しい隣人に恵まれるということは、これだけヤバいことなんだよな、
という実感をベースに不条理サスペンスを仕立てたのではないかしら。
パリの住宅事情的にはこういうトラブル?は多そうだし、
その身近なわずらわしさをネタにひとつ書いてやったという感じ。

確かに隣人たちは気難しい性格を普通に振りまいているだけで、
そしてそれがこの映画では一番怖い(苦笑)
村八分にするための嘆願書に署名を求められるとか
自分もいつのまにか告発されてるとか
怖い~

だから、具体的な陰謀的行動は特に出てこないんだけど、
とにかくどんどん追い詰められちゃうというところが面白いと思うのよね。

***

細部が豊かでとてもよい。

くりかえし出てくる、誰かがドアをノックする、という状況。
それぞれはそんなに変な用事ではないんだけど、これが執拗に繰り返されることで、
どんどんストレスが溜まっていくのがよくわかる。
(ステラの家でもそれが反復されて、またすこし頭のねじがいかれる・・)

テーブルを動かそうとしてボトルを割ってしまうとか
朝起きてベッドから降りようとすると、散乱した食べ残しが足の裏に付くとか、
いわくつきの水道の蛇口をひねると、水道管が振動して壁に掛けられた鍋がカタカタ鳴るとか
警察で出した身分証明書がボロボロだとか
村八分にあう家族の娘がすごい無表情だとか
警察の人がめちゃめちゃ高圧的だとか
そういうあらゆる細部に不安なものを忍ばせていく技はとてもよい。

ストーリー的な不安だけでなくてそういう細部が生理に訴えるような不安でどんどん観客も追い込んでいくのですね。


あと、後半にいくにつれて、どんどん変なエピソードがさしはさまれていくのもよい。
アパートの玄関はいって明かりをつけたらいきなり誰かがいて仰天するとか、
熱が出て夜中にトイレ(問題のトイレ!)にいくと壁に象形文字が書いてあるとか、
公園の池で子供をひっぱたくとか
どんどんヤバくなってくる。

そうやって重層的にヤバさを織り込んでいく丹念なところが好きですね~

****

最後に、大きな円環がつながって、恐怖が輪廻するんじゃん??という終わり方は
実に好みです。
あそこでなぜ叫んだかが一気に理解されて幕となる、素晴らしい終わり方。

もうベタ褒め。


あの病床での恐怖を象徴する姿は、即座にシュヴァンクマイエル的な怖さ
=東欧的な恐怖の図像なんだろうと思わせる。
最後にアソコにむけてアップになるのもシュヴァンクマイエル的。
おそらくポランスキーは初期のシュヴァンクマイエルの短編を観ているのではないか?
と勝手な想像をしてみる。

シモーヌがほぼ全く生前の姿を見せないのも周到。


*****

イザベル・アジャーニはおいしいポジションでありつつも、あまり本筋には貢献してない印象。
「アデルの恋の物語」の翌年の作品ながら、イザベルの印象は全く違うね。

撮影はスヴェン・ニクヴィストなんだけど、
このDVDではかなり鮮明な映像。ビデオ作品風な質感もあり、あまりニクヴィスト的でない、
DVD化するときの問題なのかどうか?




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「狂気の巡礼」ステファン・グラビンスキ 後半読みました

2016-12-29 02:33:17 | book
狂気の巡礼
クリエーター情報なし
国書刊行会


ちょっと前ですが、やっとこさ後半を読み終えました。

本書『狂気の巡礼』は、グラビンスキ生前に発表された二つの短編集(『薔薇の丘にて』『狂気の巡礼』)からの訳出ということですが、後半は『狂気の巡礼』からの8編。

一つ目の『灰色の部屋』は、本書に通底している、場所が孕む魔という主題を根幹にもつ代表作。
前に住んでいたところがどうにもいたたまれなくなった主人公が転居したのだが、どうも新居もなんともやばい感じがしてきた。。と思ったらなんとその新居は・・・・!?
というお話(要約しすぎ)なんですが、話の展開もさることながら、
テーマに関する著者の見解がさりげなく書かれているのではないかしらというような箇所があって、
本文と注釈がごっちゃになっているような印象があるのが面白いです。

長期に住んだ家などに、人間の精神の残滓のようなものが残るということは
比喩としてのみ受け取るべきではない、とか急に書いてある。

場所、というのはつまり家や家具などの無生物なわけで、
無生物に精神エネルギーが浸透して、家主が去った後も残り、
周囲に影響を及ぼす、というのがこの短編集の基調となる薄気味悪さですね。

日本だと地縛霊というニュアンスになりそうですが、
ここではあくまで物に染みこんだ精神なので、
物を撤去してしまうと、精神エネルギーにも居場所がなくなるようです。


2つ目「夜の宿り」もまた、精神の残滓が人の夢に影響を与えるという主題ですが、
この短編の面白さは、全編ほぼ暗闇の描写であることですね。
闇の描写とはすなわち主観のみの世界というか、自分の感覚が生起するイメージだけの世界で、
その描写から夢の描写へのつながりが地続きなところが上手いと思う。

3つ目「兆し」は趣の違う作品。
どうやら恐ろしい事件が起きたのだが、誰もその現場を見ておらず、
読者にもその内容が伝えられないという面白いホラー。
傍観者というか(観ていないから違うか・・)第三者の抱く恐怖心もまた
主題になりうるという、手法的なかっこよさ。

4つ目「チェラヴァの問題」はジキルとハイド風の対照的な人格の話だけど
二重人格ものではない。いや、そうとも言えるけどちょっと違う。
面白いのは、この人格の対照性をネタにしてチェラヴァ氏が稼いでいること。
記憶や思考が両者で共有されていること。
劇的な終焉ののちもそれをネタにするチェラヴァ氏はちょっとしたたか。
精神分析医という存在が神秘と最先端の感覚を人々に与えた時代のもの。

5つ目「サトゥルニン・セクトル」
主に時間をめぐる哲学的な考察、それに精神の交流もしくは分身というテーマが絡んでいる。
繰り返し読みたい小編。やはりどこか埴谷雄高風。ウェルズへのちょっとしたアンサー。

6つ目「大鴉」これも人間の強い思い(というか妄執というか怨念というか)が
事物にとりついているお話。
グラビンスキの好きな、植物が繁茂する負の力場のような裏庭的空間の描写が冴えている。
そういう場所に心惹かれる主人公も定番。

7つ目「煙の集落」は、毛色の違う辺境探検モノ。舞台も北米。
着想がとても奇妙。異文化との出会いがお互い不幸なパターン。
謎の集落の描写が細部にこだわった病的な感じがする。
ドイツの冒険作家カール・マイの影響下にあるという話ですが、
カール・マイといえばあれですよ、シーバーベルクの1976年の映画「カール・マイ」。

そして8つ目「領域」。タイトルは「領域」なのか。う~む???
ワタシはこれが一番怖かった。映画にしたい。トラウマ映画になるだろう。
夜になると敵意を持ってこちらを見つめる人影が・・しかもだんだん増えてくるって。。
そんでもってラストに生まれ出るあれはいったいなに??


後半戦はわりと理知的な怖さを書いているという印象ですが、
最後の「領域」でまた理屈を超えた異様を表現しています。

また、ストーリーの奇想もさることながら、人物の性格設定であるとか、
ちょっとしたシーンの描写が細かく具体的に織り込まれており、
一話ごとの世界を立体的に立ち上らせる感じです。
「チェラヴァ氏の問題」はテレビドラマ化されてるということですが、
確かに映画のカットを想起させる描写にあふれています。


というわけで、グラビンスキ邦訳2冊目でした。
他のものも読みたいので、興味がわいた方はぜひこの「奇跡の巡礼」を購入して、
次の作品への機運を盛り上げてくださるとよいかと思います。

装丁と装画もすばらしいです。


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「オケ老人!」細川徹

2016-11-28 02:53:23 | cinema



監督・脚本:細川徹
撮影:芦澤明子


オケやってるし
ほぼ実際オケ老人だし
知っている人も出てるということだし
杏ちゃん初主演映画ということだし
軽いノリの映画を見たい気分だし

ということで、オケの練習の帰りに
楽器持ちで映画館に突撃しました。

が、
結果的には大号泣(^^;)
そんなに泣くかこの映画で、というほどの大号泣。

映画としては割と他愛ない演出の他愛ないドラマなんだよね
テレビドラマのノリに近い。
音楽的にはダメダメな老人たちがあの程度の練習で
あんなに上達するとは思えないとか
それに対してフランスのマエストロがああも簡単に感動するもんかしら
とかリアルなところでは実に突っ込みどころが多い。

しかし号泣。

考えたら、そもそも音楽だけで十分感動的なわけですよ。
そこに老人たちの滑稽ながらも努力する姿とか
若者の熱意とか純真とか
そういう演出を上乗せされているんで、
ワタシなんぞはイチコロに泣くんですな。

何しろもう冒頭、杏ちゃんがオケ演奏を聴いて感動する姿を見ただけで
滂沱。
そこから老人たちが、初めてここまで通った!とか感動するところとか
野々村さんが音楽を始めるに至った経緯とか
ラジオを直すエピソードとか
気の強い孫娘の純真とか
いたるところで涙腺決壊

あの老人たちが指揮をガン見してる!と言っては泣き


ということで、嗚咽が漏れないように我慢するので大変疲れました。
終映後ヘトヘト。
今年の大泣き大賞をあげたいくらいです。


***

次第に冷静になってみると、
脚本でなかなか面白いところがあったなと。

伏線と思わないようなエピソードが、後々回収されて
おお、あれと繋がっていたのか〜という面白さがいっぱい。

それと、言葉によらないコミュニケーションを演出するところが何箇所かあって、
それを杏ちゃんとか、孫娘黒島結菜ちゃんとかが見事に演じているのが素晴らしい。

絵的にはそれほど印象深いところはないかも。
オケの演奏会でのステージの上はあんなに暗くはないよと思ったが、
考えてみると梅フィルの演奏会とリハーサルの舞台をわざと暗く演出していたのかもしれない。

撮影は意外なところで黒沢清作品を多く取っている人。(芦澤明子)
時間の経過を風景の色づきの移り変わりで表現するところとか(まあありがちだけど)
大胆で面白かった。
あと超狭い寿司屋の客席での宴会でも切り返しカットがあって
あれはどうやって撮ってるんだろうと素人的に感心する。

***

楽器の演奏フォームについては、
楽器をやる人はもちろんアラが気になるのは仕方ないにしても、
ワタシはそういうのは映画の質を大きく左右しないだろうと思う。

むしろあそこまでそれらしく楽器を弾く姿を演じられる役者たちは素晴らしいと思う。
その大変さは楽器をやる人が一番よくわかっているだろう。

その点で一番驚いたのは
光石研がバイオリニストを演じて、全然違和感ないということだったかも・・・

老人のみなさんはそうそうたるお歴々で、
みごとですねえ。


@TOHOシネマズ日本橋



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「狂気の巡礼」ステファン・グラビンスキ

2016-11-12 18:47:58 | book
狂気の巡礼
クリエーター情報なし
国書刊行会


すみませんまだ前半読んだだけですが。。。

実はポーとかラヴクラフトとかあまり読んだことがないので、比較文化的にどういう水準にいるのかはっきりとはわからないのですが、ポーランドのポーと称されるグラビンスキの、日本での本格的なリリース第二弾は、まさにタイトル通り、これは相当狂ってます。
ポーやラヴクラフトもこの水準なんですよということであれば、やはりそちらもちゃんと読んでおくべきでしょう

狂気とはこういうもののことだと深く納得させる短編が次から次へと。
いやーすごい。

特にビビったのは3つ目の「接線に沿って」。
自分の行動や思考の動きと、外部からの影響について、楕円と接線で説明するところが、とにかく狂っている。
主人公の奇矯な行動や死の暗いイメージよりも、その背景にある認知の仕方が、もうイかれているのが恐ろしい。

こういう発想を記述できるグラビンスキ自身も相当恐ろしい。考えて捻って出てくるものなのだろうか。だとしたら作家というのは底知れぬ能力を持っている。

ということで、一編は割と短めなのに読むのにすごく時間をかけてます。頭クラクラするので。


全体を貫くテーマの一つが、場所の持つ狂気の力。催狂気性(と勝手に名付ける)。
「狂気の農園」はそのテーマど真ん中の作品。
心霊スポット的なヤバい場所は、確かにここにいたらマズイという第六感を刺激する。こういう感情は世界共通に持っているんだな我々は。

こういうテーマで世界のアンソロジー作ったら面白いと思う。すでにありそうだけど。

あとワタシの読書体験的に連想するのは、埴谷雄高の「死霊」でしたね。手触りは違うけど、狂い方に通じるものがあると思う。


後半も楽しみです。

芝田さん色々な作品を世に届けてくれてありがとう。


あーあと、装丁が良いですね。
こういう雰囲気の装丁は80年代にも流行った感じです。


こちらも!
動きの悪魔
クリエーター情報なし
国書刊行会
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