「開館50周年記念 美の祝典2ー水墨の壮美」 出光美術館

出光美術館
「開館50周年記念 美の祝典2ー水墨の壮美」
5/13〜6/12 



出光美術館で開催されている「美の祝典2-水墨の壮美」を見てきました。

開館50周年を記念して展開中のコレクション展こと「美の祝典」。全3回シリーズです。気がつけば2期目に入りました。

今回のテーマは「水墨の壮美」。ずばり水墨画です。中国・南宋の牧谿や玉潤にはじまり、雪舟、等伯と続きます。さらに谷文晁や蕪村などの文人画も網羅していました。

その素晴らしさに何度接しても見惚れてしまいます。牧谿の「平沙落雁図」です。深淵かつ広大なる空に連なった雁。奥には山々が連なり、手前にはうっすらと湖が広がっています。葦のそばで羽を休める雁もいました。全ては朧げで明らかではありません。まさに茫洋たる情景。大気の湿り気と僅かな光だけが漂っています。


能阿弥「四季花鳥図屏風(右隻)」 応仁3(1469)年 重要文化財 出光美術館

能阿弥の「四季花鳥図屏風」は牧谿の引用があるそうです。右隻に叭々鳥。左隻には鴛鴦と山鵲の姿が見えます。叭々鳥はさも擬人化したかのように表情豊かで人懐っこい。中央は鷺でしょうか。さも互いに目配せするかのように上下にいます。何よりも美しいのは蓮でした。薄い墨を重ねた表現は極めて繊細。花弁はうっすら白い。透明感があります。まるで光を放っているかのようでした。

等伯の2点の屏風が圧巻でした。まずは「松に鴉・柳に白鷺図屏風」です。右には若々しい松の大木に鴉の親子。そして左にはやや枯れた柳に白鷺がとまっています。何やら達観したかのように空間を見つめています。そして中央には葦。左右の連続を意識したのかもしれません。画面を繋ぎ合わせるように描かれています。屏風の両面で、鴉の黒と鷺の白、また松と柳を対比させていました。

等伯は巣も熱心に観察したのでしょうか。描写はかなり細かい。一羽の親鴉が雛を守っています。そしてもう一羽。これから餌を採りに行くのやもしれません。巣を見やりながら、今にも飛び立とうとしています。


長谷川等伯「竹鶴図屏風」(左隻) 桃山時代 出光美術館

もう1点が「竹鶴図屏風」です。竹林と鶴。かの「松林図屏風」を思わせるような奥行きがあります。竹は言わば上昇性が強い。下から上へと力強くのびています。節をやや強調して描いているのも特徴です。まさしくしなやか。左隻の鶴は堂々たる姿です。頭を上げてはこれ見よがしにポーズをとっています。右の鶴は半身です。草むらで屈んでは羽を休めていました。

途中で「伴大納言絵巻」などの絵巻を挟むのは第1期と同様です。ただし「伴大納言絵巻」は巻き替えの上、ほか絵巻も入れ替え。今回は「北野天神縁起絵巻」が展示されています。

この「北野天神縁起絵巻」に派生する「天神縁起尊意参内図屏風」に驚きました。派生というのは題材を絵巻より引用しているからですが、法意の力で賀茂川が開き、牛車が進むというから勇ましい。確かに川の中に道が現れています。スピードを示すためか牛車の車輪はやや縦長です。従者は前傾姿勢です。慌ただしく駆けています。モーセの奇跡のエピソードを連想するものがありました。


「伴大納言絵巻」(中巻部分) 平安時代 国宝 出光美術館

「伴大納言絵巻」は中巻の展示です。使者が駆けつけ、源信が祈り、子どもの喧嘩を経て、京に噂が広がるシーン。解説では特に子どもの喧嘩における時間の展開、すなわち異時同図法について触れています。

ただ私がこの中巻でとかく感心するのは源信の祈りの場面です。表現としてはシンプル。背を向けた源信がただ一人、地面に座りながら祈っているのに過ぎませんが、ともかくほかとは空気が違います。さも全身に力を入れ、肩を震わせながら、辺りを気にせずに、ひたすら熱心に祈る。ようは彼の強い願いがひしひしと伝わってくるのです。

後半は主に江戸時代の文人画でした。田能村竹田、浦上玉堂、富岡鉄斎、池大雅、そしてはじめにも挙げた谷文晁、与謝蕪村らと続きます。約20点弱。点数だけとれば、展示中、最もウエイトを占めていました。


池大雅「十二ヵ月離合山水図屏風」(右隻) 明和6(1769)年頃 重要文化財 出光美術館

池大雅の「十二ヵ月離合山水図屏風」が目立っていました。1月から12月までの山水図。それを大雅は屏風に貼り付けて表現しています。春の花に秋の山々。筆は細かい。淡い色彩が季節感を巧みに演出しています。

渡辺崋山の「鸕鷀捉魚図」に惹かれました。鵜が鮎を丸呑みする光景を描いた一枚、今まさに鵜が水中から鮎をひょいとすくいあげた瞬間そのものを捉えています。

鮎はがっちりとくわえられ、もう逃げ出せそうありません。水上の木にはカワセミがとまり、その様子をしげしげと見つめています。鵜の描写も見事です。というのも、水に浸かった羽根の部分は墨をやや滲ませ、水から突き出た首の上は点描を使って象っているからです。水の中と外でどのように見え方が変化するのか。それを崋山は探求したのかもしれません。

第1期と同様に大変に空いていました。10年前の公開時には混雑した「伴大納言絵巻」も行列はありません。繰り返し何度でも堪能出来ます。

6月12日まで開催されています。

「開館50周年記念 美の祝典2ー水墨の壮美」 出光美術館
会期:5月13日(金)〜6月12日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00〜18:00
 *毎入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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「メディチ家の至宝ールネサンスのジュエリーと名画」 東京都庭園美術館

東京都庭園美術館
「メディチ家の至宝ールネサンスのジュエリーと名画」 
4/22〜7/5



東京都庭園美術館で開催中の「メディチ家の至宝ールネサンスのジュエリーと名画」を見てきました。

ルネサンス期のフィレンツェを支配したメディチ家。芸術家のパトロンでもありました。当地のウフィツィ美術館などには歴代の当主らの収集した美術品が数多く残されています。

さてタイトルにもある「ジュエリーと名画」。一体、何を表しているのでしょうか。実のところ、その殆どを占めるのはカメオと肖像画でした。カメオとは大理石や貝殻を浮き彫りにした装飾品。古代ギリシアに由来します。メディチ家の人物もこぞって集めました。そして肖像画とはメディチ家の人物を描いた絵画です。よって絵画は全て肖像画でした。


ルイジ・フィアミンゴ(?)「ロレンツォ・イル・マニフィコの肖像」 1550年頃 ウフィツィ美術館(銀器博物館)

はじまりはロレンツォ・イル・マニフィコ。コジモの孫でフィレンツェの黄金時代を築いた人物です。ルイジ・フィアミンゴによる「ロレンツォ・イル・マニフィコの肖像」はどうでしょうか。堂々たる姿です。オレンジ色のマントに身を包んでいます。左には繁栄を意味する月桂樹。葉をつけています。右手に注目です。何やらスマートフォンのようなものを持っていますが、実際のところは紙でした。彼の能力や業績を示す言葉が記されているそうです。

アーニョロ・ブロンズィーノの「マリア・デ・メディチの肖像」は日本初公開です。父はコジモ1世。スペインの貴族で母のエレオノーラは大変な美貌の持ち主だったそうです。ややあどけない表情です。胸に手を当ててはやや不安そうな眼差しをしています。彼女は17歳で亡くなったそうです。早すぎる死。嘆き悲しまれたに違いありません。


ジェルマン・ル・マニエ(?)「フランス王妃、カテリーナ・デ・メディチ(カトリーヌ・ド・メディシス)の肖像」 1547-1559年 ウフィツィ美術館(パラティーナ美術館)

威厳に満ちています。ジェルマン・ル・マニエによる「フランス王妃、カテリーナ・デ・メディチ(カトリーヌ・ド・メディシス)の肖像」です。ドレスが装飾の極みでした。真珠でしょうか。数え切れないほど編み込まれています。ちなみにカトリーヌは先のロレンツォの孫であるロレンツォ2世の子。出産後に両親を亡くし、孤児になりますが、後にフランスのアンリ・ド・ヴァロワ(アンリ2世)と結婚。10人の子を授かります。肖像は40歳の頃に描かれたそうです。


ヘレニスム工芸(カメオの断片) ベンヴェヌート・チェッリーニ(?)(金による補作)「男性像をともなう二頭立て戦車」 前1世紀(カメオの断片) 1530-1545年(金による補作) フィレンツェ国立考古学博物館

カメオでは「ナクソス島のバッコスとアリアドネ」が美しい。モチーフはギリシア神話。カメオ自体は3世紀の作品です。フレームをメディチ家の時代に作り上げています。金の細工も鮮やか。七宝の技術が用いられています。また「男性像をともなう二頭立て戦車」も興味深いのではないでしょうか。カメオが下部。何と紀元前1世紀の作品です。割れてしまったのかもしれません。上部は失われています。そこを金で補っているわけです。男性像の造形も至極細かい。高い技術があったことを伺わせます。


オランダの金工家「赤ん坊を入れたゆりかご」 1695年頃 ウフィツィ美術館(銀器博物館)

技術といえば「赤ん坊を入れたゆりかご」が驚異的でした。制作年は1695年。作者はオランダの金工家です。ゆりかごは金。大きさは5センチもありません。にも関わらず、極めて精密な装飾がなされています。赤ん坊は真珠です。羽毛布団に包まれた赤ん坊を半ば見立てるかのように象っています。しかもゆりかごは可動式です。これぞ超絶技巧と言えるのではないでしょうか。


ヨナス・ファルク、ミケーレ・カストルッチ、グアルティエーリ・ディ・アンニバレ・チェッキ、ジュリオ・パリージの下絵に基づく「コジモ2世・デ・メディチのエクス・ヴォート(奉納品)」 1617-1624年 ウフィツィ美術館(銀器博物館)

数センチほどの小さなカメオが多い中、一際目を引く、大きな作品がありました。「コジモ2世・デ・メディチのエクス・ヴォート(奉納品)」です。縦横50センチ超。コジモ2世が病気の治癒を祈願して祭壇に奉納した作品です。画中でも跪くのがコジモ2世。白と金のローブです。右手を差し出しています。意匠は大変に細かい。モザイク画です。横から見ると10センチくらい盛り上がって見えます。18世紀に一度、解体されたゆえに、現存するパネルはこの一枚のみ。その意味では貴重な作品でもあります。

ルネサンスはボッティチェリやレオナルド・ダ・ヴィンチ、それにミケランジェロを生み出した時代。しかし展示はあくまでもメディチ家に特化しているため、そうした同時代の芸術家らの参照は一切ありません。肖像画が20点。それに60点の装飾品が加わります。スペースからすればやや少なめでした。また何ぶんと小さいものが多い。カメオなどの細部を見るには単眼鏡などがあっても良いかもしれません。



ウエルカムルームのメディチ家の家系図がさり気なく良く出来ています。絵画を参照しての顔写真ならぬ顔絵画入りです。鑑賞の参考になりました。



館内はなかなか盛況でした。7月5日まで開催されています。

「メディチ家の至宝ールネサンスのジュエリーと名画」 東京都庭園美術館@teienartmuseum
会期:4月22日(金)〜7月5日(火)
休館:毎月第2・第4水曜日(4/27、5/11、5/25、6/8、6/22)。
時間:10:00〜18:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1400(1120)円 、大学生1120(890)円、中・高校生・65歳以上700(560)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *小学生以下および都内在住在学の中学生は無料。
 *第3水曜日のシルバーデーは65歳以上無料。
住所:港区白金台5-21-9
交通:都営三田線・東京メトロ南北線白金台駅1番出口より徒歩6分。JR線・東急目黒線目黒駅東口、正面口より徒歩7分。
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「高島野十郎展ー光と闇、魂の軌跡」 目黒区美術館

目黒区美術館
「没後40年 高島野十郎展ー光と闇、魂の軌跡」 
4/9〜6/5



目黒区美術館で開催中の「没後40年 高島野十郎展ー光と闇、魂の軌跡」を見てきました。

明治23年。福岡の久留米に生まれた画家、高島野十郎。東京帝大農学部を首席で卒業するも、画家の道を志し、独学で絵を学びます。一生涯に渡って画壇に属することもありませんでした。その意味では「孤高の画家」(展覧会サイトより)と言えるかもしれません。

生前はデパートなどで個展を開いてはいたもの、必ずしも広く知られてはいませんでした。死後、福岡県立美術館によって再発見。メディアなどでも注目を集めます。次第に評価は高まり、より大きな回顧展も行われるようになりました。

前回、東京で野十郎展が開催されたのは10年前。会場は三鷹市民ギャラリーでした。当時、ともかく印象に残っていたのは、照明を落として暗い展示室に並んだ蝋燭の作品です。半ばストイックなまでに蝋燭に対峙し、炎を見据え、光を描いた野十郎。時に息苦しさを覚えながらも、息を吹いても、吹き掛けても消えそうもない蝋燭の灯火に、何か鬼気迫るものを感じたことを覚えています。

以来、10年。今回の回顧展に接して、やや野十郎に対するイメージが変わったかもしれません。

冒頭、その迫力に誰もが驚くのではないでしょうか。帝大時代の「傷を負った自画像」です。足を前に組んで座る野十郎。口は半開きで目は虚ろ。そこからしてただならぬ気配を醸し出していますが、首と脛からあろうことに血を垂らしています。傷は首のあたりにもあります。一体何故に血を流さなくてはならなかったのでしょうか。ふと十字架のキリストを思い出しました。もちろん関係ないかもしれません。ただ何やらイコンのようにも見えます。これほど奇異な自画像をほかに見たことはありません。


「静物」 大正14(1925)年 福岡県立美術館

独学ながらも岸田劉生の影響を受けていたと考えられているそうです。例えば「静物」。白い陶器の器と果物を表した作品ですが、緻密で写実を志向した描写は確かに劉生を思わせるものがあります。また「芥子」はどうでしょうか。真正面から捉えられた赤い芥子の花。やはり写実ではありますが、茎はややうねり、花も震えを伴っているようでもあります。劉生のデロリ。そうした面も何かしら野十郎に感化を与えたのかもしれません。

昭和5年、39歳で出国。約3年余りに渡ってアメリカからヨーロッパを巡ります。ヨーロッパでの拠点はパリ。古典を模写したり、郊外の村に出かけては風景を描いていたそうです。


「霧と煙 ニューヨーク」 昭和5-8(1930-33) 年

この時期の風景画が思いがけないほど魅惑的です。「霧と煙 ニューヨーク」は摩天楼を望む川面の汽船を描いた一枚。全体に水色ががかっています。いわば外光派。印象派を思わせる筆致が目を引きます。さらに「ベニスの港」もオレンジに染まるマストが実に鮮やかです。真っ青な空と美しいコントラストを描いています。


「ベニスの港」 昭和5-8(1930-33)年

野十郎は帰国後も里山などの風景を描き続けますが、時に自然の美しさを素直に捉えたような表現に、蝋燭の作品などとは異なった、新たな魅力を見る思いがしました。

さてその帰国後です。東京の青山に定住。しかし度々全国各地を旅しては先々の風景を画布に描きとめました。


「れんげ草」 昭和32(1957)年 個人蔵

「れんげ草」は中央アルプスを背に群生するレンゲソウ畑を捉えた一枚。ほぼ快晴です。空は透き通るように青い。アルプスの頂には雪が降り積もっています。一面のレンゲソウ。淡いピンク色です。さらに黄色い花も垣間見えます。麓は春の息吹。蝶も舞っていました。光は分け隔てなく大地に放り注いでいます。

凄まじいエピソードを持つ作品がありました。「雨 法隆寺塔」です。雨中の五重塔。かなり強い雨なのか白い線が画面全体を覆っています。人の姿は皆無。静けさに包まれています。

何が驚くかといえば修復の経緯です。というのも平成10年、所蔵家で盗難にあい、4年後に発見。縁の下のゴザの中から出てきたらしく、カビで酷く傷んでいたそうです。それを修復。何とか元の姿に戻りましたが、今度はあろうことか家が全焼。幸いにして持ち出されたものの、熱などで劣化してしまいます。結果的に2度目の修復がなされ、こうして展示されることになりました。

写実を「慈悲」と呼んだ野十郎。対象に密着し、全てを均等に描くことを志します。その昇華した形が静物画にあると言えるのではないでしょうか。


「さくらんぼ」 昭和32(1957)年 個人蔵

代表的なのは「からすうり」です。真正面から確かに等しく捉えたカラスウリ。実の姿は端正。オレンジ色であり、またやや黄色がかっているものもあります。そして例のうねるような蔓。葉は既に乾いています。背景にも注目です。おそらくは壁でありながらも、ほぼ何も描かれておらず、まるで虚空のようにも見えます。実の影だけが僅かに差し込んでいました。それゆえでしょうか。全体に独特の浮遊感があります。

「桃とすもも」に惹かれました。描写は極めて細密。テーブルクロスも桃もすももも忠実に再現しています。桃の表面にはうっすらと毛が生えている様子も確認出来ます。質感はマット。一方ですももは照りがあります。瑞々しい。背後に唐突にぶら下がる緑の玉は一体何を示すのでしょうか。色はいずれも明るい。率直に美しくもあります。

最終章は「光と闇」。すなわち野十郎を最も特徴づける月と蝋燭の絵画です。

まずは「月」。当初は木の葉などを合わせて描いていたものの、次第に月のみを捉えていきます。やや緑色がかった闇夜に輝く満月。他は一切何もありません。光は僅かに月の周りに滲み出してもいます。


「蝋燭」 制作年不詳 個人蔵

蝋燭は全部で20点弱。大正から戦後にかけて一貫して描いていたというから驚きます。やや背が低く、幾分と太い蝋燭。炎はかなり長くのびています。上は赤く、下は青白い。白い光が手前に筋を描いていました。炎の縁は僅かに赤く、微かな点描で揺らめきをも示しています。

月と蝋燭に接して感じるのは野十郎の被写体に対する観察的態度です。そもそも彼は農学部の出身。自然なりを観察することには長けていたでしょう。展示では学生時代の「魚介類の観察図」も出ていました。確かに月や蝋燭は「神秘的」であり、「宗教的」(いずれも解説より)かもしれませんが、目の前の事象を観察し続けては本質を見出すことこそ、制作の根底にあったのかもしれません。

ちなみに野十郎は70歳の時に青山のアトリエから柏の増尾へ移ったそうです。今でこそ増尾は市内郊外の住宅地ですが、当時は里山が残る田園地帯。実際に同地を描いた「初秋野路」では千葉に特有な谷津の地形を有り体に写し取っています。


「林辺太陽」 昭和42(1967)年頃 東京大学医科学研究所

出品作品は全150点。さらに手紙やノート、デッサンまでを網羅します。三鷹での回顧展よりも点数は多かったのではないでしょうか。画家の全体像を辿るのに不足はありません。

同館では珍しく1階に特設ショップが設けられていました。野十郎グッズなるものもいくつかあります。図録も資料性が高い。より深く理解するのに重宝しそうです。

「高島野十郎展公式図録/東京美術」

6月5日まで開催されています。おすすめします。

「没後40年 高島野十郎展ー光と闇、魂の軌跡」 目黒区美術館@mmatinside
会期:4月9日(土)〜6月5日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00〜18:00
料金:一般1000(800)円、大高生・65歳以上800(600)円、小中生無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
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「広重ビビッド」 サントリー美術館

サントリー美術館
「原安三郎コレクション 広重ビビッド」 
4/29〜6/12



サントリー美術館で開催中の「原安三郎コレクション 広重ビビッド」を見てきました。

ビビッド(vivid):生き生きとしているさま。鮮やかなさま。「ビビッドな描写」「ビビッドな配色」 *コトバングより

タイトルの「広重ビビッド」。何やらキャッチーではありますが、これほど内容を端的に指し示す言葉もないかもしれません。


歌川広重「六十余州名所図会 阿波 鳴門の風波」 安政2(1855)年 原安三郎コレクション
 
冒頭は広重の「六十余州名所図会 阿波 鳴門の風波」です。かの有名な鳴門の渦潮を描いた一枚。渦を巻く白波は輝かしいまでに白く、一方で水は青というよりも藍色を帯び、彼方に望む山の際は紅色に煌めいています。さらに目を凝らせば群青や薄いワイン色も浮き上がってきました。かくも美しい色彩世界。ここまで発色の良い広重画を見たのは初めてかもしれません。

コレクションの所有者は原安三郎氏。日本化薬株式会社の会長を務めた実業家です。

広重画はともに晩年の揃物である「名所江戸百景」と「六十余州名所図会」。いずれも初摺りの早い段階の作品です。つまり摺りに広重本人の意図が反映されたもの。保存状態も良好です。両作をまとめて公開するのも初めてであります。

「六十余州名所図会」が刊行されたのは「江戸名所図会」よりも少し前の嘉永6年から安政3年。日本全国津々浦々の名所を描いています。北は陸奥、南は大隅、薩摩。ただし広重は全て訪ね歩いたわけではありません。時にネタ本(解説よる)を参考にしながら全69点の作品を完成させました。


歌川広重「六十余州名所図会 美作 山伏谷」 嘉永6(1853)年 原安三郎コレクション

風光明媚な場所揃いの「六十余州名所図会」。この一点を挙げるのは難しいやもしれませんが、「美作 山伏谷」は面白いのではないでしょうか。大嵐の中を進む一艘の小舟。風雨は円弧状の白い帯びで表されています。歩く者は今にも吹き飛ばされそうです。帽子が宙を舞ってもいます。

今回の展示ではキャプションにも注目です。と言うのも、いずれの作品にも現在の様子を捉えた風景写真がついています。さらに解説はもちろん、主要モチーフの図解までありました。親切丁寧。江戸と現代を見比べることが出来ます。

「名所江戸百景」が刊行されたのは安政3年。前年には安政地震の被害を受けた江戸市中ですが、広重はあえてその様子を表さず、災害前の風景を描きました。

チラシ表紙の「亀戸梅屋鋪」は超有名作。前景と光景を大胆なまでに対比させています。得意の構図です。咲き誇る梅の花。白梅です。背景の赤い空とのコントラストも美しい。奥には見物人の姿も垣間見えました。


歌川広重「名所江戸百景  大はしあたけの夕立」 安政4(1857)年 原安三郎コレクション

「大はしあたけの夕立」もよく知られた作品ではないでしょうか。やや高い位置から描いた隅田川。大はしとは新大橋です。対岸のあたけ、すなわち安宅には幕府の御船蔵がありました。上空は黒い。驟雨です。雨が黒い筋となって降り注いでいます。行き交う人の様子も慌しい。川幅が広く感じられました。幾分誇張したような遠近感です。言わばパノラマ。雄大な景色が広がっています。

名所とはいうものの、必ずしも江戸中心部だけでなく、いわゆる郊外を描いているのも興味深いところです。その一つが「鴻の台とね川の風景」。鴻の台とは国府台、とね川とは江戸川のこと。つまり現在の千葉県市川市に当たる景色を描いています。

川に沿って切り立つ岩山。山の上には桜も見えます。そして黒松。空高く伸びています。今も国府台にある里見公園は桜の名所。黒松も同市を特徴付ける景観です。キャプション現在の写真が掲載されていましたが、地形そのものは殆ど変わっていません。


歌川広重「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」 安政4(1857)年 原安三郎コレクション

異色ともいえるのが「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」です。王子に伝わる狐火の伝説をモチーフにした一枚ですが、闇夜に狐たちが集う様は情緒的というよりも、幻想的ですらあります。目録の最後の作品。「唯一の想像上の景色」(解説より)だそうです。


葛飾北斎「千絵の海 五島鯨突」 天保3(1832)年頃 原安三郎コレクション

嬉しいサプライズがありました。北斎と国芳です。特に北斎の「千絵の海」は全点揃い。全10図がまとめて展示されています。

うち「下総登戸」は現在の千葉市中央区あたり。かつては遠浅の海岸だったことから、アサリやハマグリがとれました。潮干狩りの名所でもあったそうです。

館内はなかなか賑わっていました。特に初めの「六十余州名所図会」は最前列確保のために人がびっしり。一部で僅かながら行列も発生しています。会場はエレベーターをあがった4階が「六十余州名所図会」。その後、階段下に北斎と国芳画を挟んで、3階に「名所江戸百景」と続いています。ただし順路は決まっていません。空いている箇所から見るのも良いのではないでしょうか。

「原安三郎コレクション 広重ビビッド」展示替リスト(PDF)
前期:4月29日(金・祝)〜5月23日(月)
後期:5月25日(水)〜6月12日(日)

「六十余州名所図会」は通期での展示ですが、「名所江戸百景」、および北斎、国芳画の一部は前後期で展示替えがあります。ご注意下さい。

極上の摺りによる江戸の全国漫遊紀行。旅行気分も味わえます。見入りました。

6月12日まで開催されています。

「原安三郎コレクション 広重ビビッド」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:4月29日(金・祝)〜6月12日(日)
休館:火曜日。但し5月3日(火・祝)、6月7日(火)は開館。
時間:10:00〜18:00
 *金・土は20時まで開館。
 *5月2日(月)〜5月4日(水・祝)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
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「WITHOUT THOUGHT Vol.15 駅 STATION」  東京ミッドタウン・デザインハブ

東京ミッドタウン・デザインハブ
「WITHOUT THOUGHT Vol.15 駅 STATION」
4/27〜5/15



東京ミッドタウン・デザインハブで開催されていた「WITHOUT THOUGHT Vol.15 駅 STATION」を見てきました。

デザイナーの深澤直人氏によるワークショップこと「WITHOUT THOUGHT」。企業デザイナーらが一つのテーマのもと、個々にデザインを発表します。今回で15回目を迎えました。

テーマは駅。私もほぼ毎日利用する場所です。都市であれば町の中心であり、多くの人が行き交う要所。振り返れば、駅には様々なデザインが用いられています。


「鯨や魚群のサイネージ」 二階堂翔太 株式会社ニコン

まずはデジタルサイネージ。いわゆる映像ディスプレイです。駅の広告といえば依然、ポスターなどの紙が主流ですが、最近はサイネージも増加中。身近な駅で思いつくのは品川です。港南口方向への通路にたくさん並んでいます。否応なしに目に飛び込んできます。

ここでは魚や車窓を投影していました。サイネージの需要。今後もさらに高まるのではないでしょうか。


「車窓のピクチャフレーム」 橋倉誠 NAOTO FUKASAWA DESIGN

車窓をピクチャフレームに仕上げています。右の縦長フレームは通勤電車のドアの窓。ほぼ四角形のフレームは新幹線の窓かもしれません。つり革や人の顔を描いています。


「ゴルフの広告」 河俊光 株式会社リコー

思わずにやりとさせられました。ゴルフの広告です。一面のグリーンが広がるゴルフ場の写真。奥に掲げられています。足元にはホームの点字ブロックと乗車位置表示板がありました。つまり打ちっ放しの見立てです。手前でスイングをすれば、さもゴルフ場にボールを飛ばすような疑似体験も可能です。もちろん実際の駅では出来ませんが、一つのアイデアとして面白いのではないでしょうか。


「床に描かれた駅の地図」 松山祥樹 三菱電機株式会社

床にミッドタウン界隈の地図がありました。中心は千代田線の乃木坂駅。確かに駅には必ず地図が掲示されています。ただし足元を利用したものは意外と少ない。これから増えるのでしょうか。立ち位置を合わせて方向を確認するのも重宝するやもしれません。


「切符サイズの鏡」 浜田佐知子 株式会社資生堂

駅に着想を得たデザインはかなり自由です。例えば切符。横は鏡です。小さすぎて使い難いような気もしますが、携帯用にあえて作ったのでしょうか。ちなみに駅の鏡といえばトイレくらいしか思いつきませんが、電車といえば新京成。各車両、各ドア横に鏡が設置されています。沿線ユーザーとすれば見慣れたものですが、初めて利用される方はやや驚かれるかもしれません。


「天気予報パンチ付きチケット」 古谷亮 株式会社リコー

次いでは特急券です。パンチの部分にデザインがありました。「御殿場」の表記の右上に注目です。確かに穴があいていますが、それが単なる丸ではなく天気マークです。「曇と晴」とあります。名付けて「天気予報パンチ付きチケット」。その日の天気にあわせてパンチマークが変わるとは楽しい。遊び心が感じられました。


「カップ駅そば」 田中太貴 NAOTO FUKASAWA DESIGN

変わり種ではカップ麺です。有名ラーメン店プロデュースのカップ麺こそ一般的ですが、駅そばとは珍しい。定番の立ち食いそばをカップ麺にデザインしています。最近でこそ味が均一化したとはいえ、一部の駅にはまだまだご当地の駅そばがあります。東京界隈では品川駅の常盤軒に我孫子駅の弥生軒。後者では巨大な唐揚げが有名です。売り出したら意外と話題になるかとしれません。


「混雑が表示されるトイレのサイン」 椿本恵介 株式会社ワイビーデザイン

トイレの看板です。JR東日本仕様でしょうか。よく見かけるもの。男女のピクトの表記があります。ただし男性が1人に対し、女性が4人。何と混雑を表しているのだそうです。その名も「混雑が表示されるトイレのサイン」。実用性もあるのではないでしょうか。


「メトロドーナツ」 浜田佐知子 株式会社資生堂

メトロドーナツもカラフルで可愛らしい。下の3色は銀座線に東西線に千代田線。路線カラーをそのままドーナツにコーティングしています。


「運転席からの景色が見えるアプリ」 大野博利 富士フィルム株式会社

スマートフォンのアプリにも多様なアイデアがあります。具現化するのは比較的早そうです。


「電車のシートでできたバッグ」 鶴田香 株式会社ニコン

会場内にはサイネージから山手線の発車メロディーが流れています。会期末間際、ほぼ通りすがりで立ち寄ったに過ぎませんが、思いのほかに楽しめました。

展覧会は既に終了しました。

「WITHOUT THOUGHT Vol.15 駅 STATION」  東京ミッドタウン・デザインハブ@DesignHub_Tokyo
会期:4月27日(水)〜5月15日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00〜19:00
料金:無料。
場所:港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー5階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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