「オルセーのナビ派展」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
「オルセーのナビ派展:美の預言者たちーささやきとざわめき」
2/4~5/21



ドニやボナールなど、日本でも人気のあるナビ派の画家たち。しかしながら、系統立てて俯瞰する展覧会は、今まで一度も開催されていませんでした。

国内初の本格的なナビ派展です。タイトルにも記載がありますが、出品作の大半はオルセーのコレクションです。(一部に他館、及び国内所蔵作品を含む。)それ故でしょうか。ともかく全体的に粒が揃っています。小品にも力作が少なくありません。


ポール・ゴーガン「黄色いキリストのある自画像」 1890-1891年 油彩/カンヴァス

冒頭はゴーガンでした。「黄色いキリストのある自画像」です。疑り深い目で前を見据えるゴーガン。自画像の多い画家の中でもよく知られる一枚ですが、彼はナビ派ではありません。一体、何故にゴーガンから始まるのでしょうか。


ポール・セリュジエ「タリスマン(護符)、愛の森を流れるアヴェン川」 1888年 油彩/板

接点はナビ派の画家、ポール・セリュジエでした。彼がポン=タヴァンにてゴーガンに学び、その教えに基づいて「タリスマン(護符)」を描きます。風景は大きく変容。川や木立の存在こそ感じられるものの、色面はもはや抽象性を帯びています。この作品が後にパリへ持ち帰られます。よほど衝撃的だったのでしょう。それが切っ掛けで、同じアカデミーに属していたボナール、ヴュイヤール、ドニ、ランソンらとともにナビ派のグループが結成されました。

ドニの「テラスの陽光」が鮮烈です。色は分割。空と樹木以外はオレンジ色の光で満たされています。「非現実化された色彩表現」(解説より)もナビ派の特徴です。この強いオレンジにドニは何を意図したのでしょうか。


ピエール・ボナール「黄昏(クロッケーの試合)」 1892年 油彩/カンヴァス

色の面による構成は時に奥行きを排除し、画面に装飾的な造形をもたらします。一例がボナールの「黄昏(クロッケー)の試合」です。クロッケーとはゲートボールの原型です。ラケットを持つ人の姿を描いています。上流階級の嗜みでしょうか。皆、ドレスを着飾っていました。表現は確かに平面的です。同一の色面を広げて木立を象っています。震えるような曲線を多用しています。犬が可愛らしい。モコモコしています。ぬいぐるみのようでした。

そのボナールに、衝撃的な一枚がありました。「ベッドでまどろむ女」です。ベッドの上で一人、女性が一糸まとわず、仰向けになって横たわっています。ダブルベッドでしょう。シーツは乱れに乱れています。光の陰影がドラマティックでした。シーツに強い光が当たる一方、女性の手前と床、さらに布団には黒、ないし焦げ茶色の影が差し込んでいます。極めて親密な室内空間です。こうした身近な光景もナビ派の得意とするところでした。


フェリックス・ヴァロットン「化粧台の前のミシア」 1898年 デトランプ/厚紙

ヴァロットンの「化粧台の前のミシア」もプライベートな室内を舞台としています。いささか険しい表情の女性が化粧台の前に立っています。首に手をやっているのは何の仕草でしょうか。色の構成が絶妙です。台の白、衣服のピンク、そして壁の青にカーペットの赤のコントラストが際立っています。覗き込むかのような構図も面白い。彼女はこの空間に一人でいるのでしょうか。どことなくドラマの展開を予兆させる作品でもあります。


ピエール・ボナール「格子柄のブラウス」 1892年 油彩/カンヴァス

チラシ表紙を飾るボナールの「格子柄のブラウス」は思いの外に小さな作品でした。縦60センチに横は30センチほどです。右手で猫を抱き寄せ、左手でフォークを使いながら食事をとっています。トリミングでしょうか。両腕が左右で見切れています。それゆえかピンクの格子柄が引き立ちます。モデルとの距離も近しい。それこそ今、テーブル越しに彼女と食事しているかのようでした。


フェリックス・ヴァロットン「ボール」 1899年 油彩/板に貼り付けた厚紙

かつてのヴァロットン展でも一際目立っていた「ボール」が再びやって来ました。強い日差しが照る公園で女の子がボールを追っかけています。奥には二人の女性が立っています。一人は女の子の母親かもしれません。しかしながら、その距離はあまりにも遠い。さらに女の子の後方へ影が触手のように伸びています。一見、何ら変哲のない日常ながらも、不穏な気配があるのは否めません。女の子は一体、どこへ行ってしまうのでしょうか。

子どももナビ派が得意としたテーマでした。例えばボナールの「ランプの下の昼食」では赤ん坊に食事を与える姿を表現しています。圧巻なのはヴュイヤールの「公園」のシリーズです。一面の公園のパノラマです。子どもたちもいます。筆は緻密です。まるでタペスリーのような独特の質感がありました。パリの邸宅の応接間を飾るために制作されたそうです。本来は9枚揃いです。うち5枚をオルセーが所蔵。全てが展示されています。


エドゥアール・ヴュイヤール「ベットにて」 1891年 油彩/カンヴァス

そのヴュイヤールに興味深い一枚がありました。「ベットにて」です。ひたすらに眠りこける人物。顔以外の全てがリネンに包まれています。ベージュを基調とした単色での構成です。色同士がせめぎあっています。顔の上のTの字は何を意味するのでしょうか。否応なしに十字架を連想しました。この人物は永遠の眠りについているのかもしれません。


モーリス・ドニ「ミューズたち」 1893年 油彩/カンヴァス

全81点。まずゴーガンを参照した上で、「庭の女性」や「親密さの詩情」、「子ども時代」など、ナビ派の性質を表すテーマで作品を紹介しています。繰り返しになりますが、ともかく力作ばかりです。監修のオルセー美術館の学芸員、イザベル・カーン氏をして「コレクションの傑作」との言葉がありましたが、あながち誇張とは思えませんでした。



最後に館内の状況です。2月12日(日)の午後に見てきました。特に入場待機列もなく、全般的にスムーズ。余裕を持って観覧することが出来ました。


しかし何かと会期後半に人出が集中する一号館のことです。春以降は混雑も予想されます。早めの観覧がベストです。金曜、ないし第2水曜の夜間開館も有用となりそうです。



グッズの絵葉書が良く出来ています。全点塗り絵付きです。見て、飾るだけでなく、塗っても楽しめました。

5月21日まで開催されています。おすすめします。

「オルセーのナビ派展:美の預言者たちーささやきとざわめき」 三菱一号館美術館@ichigokan_PR
会期:2月4日(土)~5月21日(日)
休館:月曜日。但し祝日の場合は開館。年末年始(12月29日~1月1日)。
時間:10:00~18:00。
 *祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週の平日は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1700円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
 *ペアチケットあり:チケットぴあのみで販売。一般ペア3000円。
 *3月1日~15日は「学生無料ウィーク」のため大学生以下無料。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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「日本酒マニアック博」 PARCO MUSEUM

PARCO MUSEUM
「日本酒マニアック博 in 東京」 
2/10~3/5



日本酒を「遊べる素材」(解説より)と捉え、その魅力を紹介する展覧会が、池袋のPARCO MUSEUMで開催されています。

タイトルは「日本酒マニアック博 in 東京」。一体、何種類の銘柄が揃っているのでしょうか。場内には全国各地より集められた地酒がずらり。右を向いても、左も向いても日本酒の一升瓶が目に飛び込んできます。思わず喉が鳴ってしまいました。



切り口はキャッチーです。何せ冒頭は「あっぱれ!日本酒キラキラネーミング」。ようは変わった名前の日本酒です。「死神」に「うっぷんばらし」に「辛口ばっか飲んでんじゃねえよ」等々、確かに謎めいた銘柄ばかりでした。「死神」は落語に由来するそうです。また「辛口」云々は熱い。造り手の強いメッセージが感じられます。



次いでは「SAKE GOOD DESIGN AWARD」です。ラベルのセンスを競っています。とはいえ、お洒落一辺倒ではありません。変わり種も目につきました。



「SAKE 漢 グラビア写真展」のモデルは蔵元の造り手です。何かと有名な獺祭の旭酒造を飾るのは同社社長の桜井一宏氏でした。ほか加茂錦酒造や冨田酒造など10の蔵元のグラビアが並んでいます。皆、ポーズをとっては、どこかはにかみながらも、得意気に写っています。ちなみに獺祭の隣は平和酒造の紀土です。手に入りやすく、しかも美味しい。愛飲されている方も多いのではないでしょうか。



ワンカップが怒涛のように並びます。「集合!全国ご当地カップ酒」です。比較的有名な銘柄から、キャラクターを使用したものまでと多様です。「かわいい」がキーワードでした。



さらにファンとして嬉しいのは中国醸造の「うまいじゃろカープびいきカップ」があったことです。カープのマスコットこと「カープ坊や」がデザインされています。ほか北陸新幹線限定カップにぐんまちゃんと多数。目移りしました。



さらに各分野で活動するクリエイターがワンカップをデザイン。総勢30名です。安野モヨコや宇野亞喜良らが参加しています。アート関連では、しりあがり寿やタイのウィスット・ポンニミットの作品もありました。



一番マニアックなのが「こだわりの製法に乾杯!」かもしれません。ここでは全体の監修者であり、自らも利き酒師である葉石かおりさんが、こだわりの日本酒をセレクト。キャプションとともに、手書きのボードで酒の個性を分かりやすく伝えています。室町時代の復元酒とはいかなる風味なのでしょうか。



酒はつまみも重要です。見合う料理のガイドもありました。さらに飲み方も様々。ロック推奨とはまるで焼酎のようです。入手困難なものも少なくありません。



「酒ぺディア」と題したパネルも面白い。酒に因むトリビアです。日本酒を最初に飲んだ外国人をはじめ、江戸時代の蕎麦屋と日本酒の関係、ワンカップ大関の開発秘話など、知らないことばかりです。日本酒についてより親しみが持てました。



ほかは「とうらぶ」ならぬ日本酒をアニメのキャラクター化した「日本酒ものがたり」や、一升瓶と女子を組み合わせた「きらめく一升瓶女子写真展」と続きます。エンターテイメントとして楽しめるのではないでしょうか。



ラストは試飲です。有料入場者には受付で試飲券を配布。場内の特設ブースで試飲することが出来ます。量はおおむねお猪口一杯弱程度でした。

私はこの日、次の予定があったため、甘酒をいただきましたが、日本酒の場合は銘柄の選択も可能です。やはり酒は飲んでこそ楽しめるもの。飲まない手はありません。

物販も充実しています。全国より「厳選」(公式サイトより)された日本酒や、手ぬぐいなどのグッズが販売されていました。



嬉しいのはクリエイターのワンカップも購入可能ということでした。しかも全種類です。ただし一部に人気が集中しているようです。品切れも発生していました。


公式サイトで追加入荷の案内があります。購入希望の方は事前にご確認下さい。



実のところ私自身、焼酎党のため、普段、日本酒をあまり飲みませんが、この日ばかりは晩酌を日本酒で楽しもうと心の底から思いました。



3月5日まで開催されています。

「日本酒マニアック博 in 東京」 PARCO MUSEUM@parco_art
会期:2月10日(金)~3月5日 (日)
休館:2月15日。
時間:10:00~21:00
 *入館は閉館の30分前まで。
 *最終日は18時閉場。
料金:一般500円 、学生400円、小学生以下は無料。
住所:豊島区南池袋1-28-2 池袋パルコ本館7階
交通:JR線、西武池袋線、東武東上線、東京メトロ丸ノ内線・有楽町線池袋駅東口より徒歩1分。
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「It’s a Sony展」Part-2 ソニービル

ソニービル
「It’s a Sony展」
Part-1:2016/11/12〜2017/2/12 Part-2:2017/2/22〜3/31



建て替えのため、今年度末に一度、閉鎖する数寄屋橋のソニービル。昨冬からクロージングイベントとして「It’s a Sony展」が行われてきました。

「It’s a Sony展」Part-1 ソニービル(はろるど)

会期は2期制です。既に終了したPart-1では700点余に及ぶソニー製品が集結。数々のアーカイブを通し、ソニーの歴史を知ることが出来ました。

続くのがPart-2です。Part-1とは内容を一新。2018年夏にオープン予定のソニーパークをイメージした空間を展開しています。



まず目に飛び込んでくるのが緑です。床は人工芝。1階から4階へのフロアの全てに敷き詰められています。これぞソニーパークの緑を模したのでしょうか。ふかふかとした感触を足で確かめながら、順に階段を上がってみました。



最大の目玉はウォールアートです。全長は何と120メートル。高低差は9メートルもあります。起点は一本の大木です。そこから樹木が連なり、高層ビルの立ち並ぶ大都市の光景が広がっています。新宿や東京都心の高層ビル群、それに横浜のランドマークタワーなども描かれていました。いわゆる架空の街並みではありますが、どこかで見たことのあるビルも少なくありません。



さり気なくソニーの製品が描きこまれているのも特徴です。またソニーピクチャーズのキャラクターや、ソニーミュージックのアーティストもいました。素材はマジック。かなり細かく描かれています。実のところ壁画は現在も製作中です。手掛けるのはイラストレーターの黒地秀行氏です。私が出かけた際も、ペンで壁画に書き足す作業が行われていました。



プロジェクターによる光の演出も効果的です。青空や夕陽が広がります。プロジェクションマッピングでしょうか。人の動きを思わせる仕掛けもあります。時間の移ろいなどを感じることが出来ました。



木琴の軽やかな調べが聞こえてきました。「パークの木琴」です。曲はルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」。木琴は長大です。全長35メートル。階段状です。4階で木のボールを落とすと、下へ向かってコロコロと転がりながら、木琴を叩いて音を出します。ボールはスタッフの方が不定期に落としていました。



ウォールアートに葉っぱのシールを貼るコーナーもありました。シールは1人1枚です。中に8枚の葉のシールが付いています。まだ会期が始まったばかりでしたが、既にご覧の通り、かなり葉が付いていました。おそらく会期末には葉で埋め尽くされるのではないでしょうか。



さらにソニーパークへメッセージや、ウォールアートのキーワードを探して歩くスタンプラリーなども用意されています。キーワードは全部で8つです。これが意外と難しい。よく見ないと分かりません。ヒントは入場時に配布されるパンフレットです。完成すると缶バッジとシールがプレゼントされます。



いわゆる展示物はほぼ皆無です。来るべきソニーパークを予感させながら、ソニービルに独特な螺旋の空間自体を味わえる展示と言えそうです。



会期中には様々なライブやトークイベントも行われます。それにあわせて出かけるのも面白いのではないでしょうか。


入場は無料です。Part-2は3月31日まで開催されています。

「It’s a Sony展」 ソニービル@sonybuilding
会期:Part-1:2016年11月12日(土) 〜 2017年2月12日(日)。Part-2:2017年2月22日(水) 〜 2017年3月31日(金)
休館:1月1日(日)、2月20日(月)。
時間:11:00~19:00
 *12月9日(金)、10(土)、16(金)、17(土)、23(金・祝)、24(土)、30(金)は20時まで。12月31日(土)、1月2日(月)、3日(火)は18時まで。
料金:無料。
住所:中央区銀座5-3-1
交通:東京メトロ丸の内線・銀座線・日比谷線銀座駅B9番出口から徒歩1分。JR線有楽町駅から徒歩約5分。
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「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」 森美術館

森美術館
「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」
2/4~6/11



インド人の現代アーティスト、N・ S・ハルシャ(1969〜)の世界初の大規模な個展が、森美術館で行われています。


「無題」 2017年

旅の起点は一枚の葉っぱでした。タイトルは「無題」。新作の写真です。ハルシャの出身地は南インドのマイスールです。古くは14世紀末に遡る王国の首都でした。後に同国西部のヴァドーダラーの大学院へ進学し、「進歩的」(解説より)な教育を受けます。そして再び故郷へ戻り、スタジオを構えて、アーティストとしての活動を始めました。

それにしても総勢何名が登場しているのでしょうか。ハルシャは徹底して人間を見据えています。人間こそが重要なモチーフです。一枚のキャンバスに人間を繰り返し、繰り返し、半ば執拗にまで描き込んでいます。しかもまるで行進するかのように並んでいるのです。反復もキーワードの一つでした。


「私たちは来て、私たちは食べ、私たちは眠る」 1999-2001年 クイーンズランド・アートギャラリー、ブリスベン

そのスタイルの発端となったのが「私たちは来て、私たちは食べ、そして私たちは眠る」でした。多くの人が左から右に並んで進んでいます。背景はオレンジです。右側には川が流れ、船に乗ったり、中には泳いで渡る人もいました。何も成人だけでなく、子供から老人までと多様です。銃を構えた兵士もいました。さらに葬列でしょうか。横たわる人を運ぶ姿も見られます。


「私たちは来て、私たちは食べ、私たちは眠る」 1999-2001年 クイーンズランド・アートギャラリー、ブリスベン

また笑っていたり、取り澄ましていたり、指差しては何か怒っていたりと、表情も同じではありません。人は同じようで、実は皆、違っていました。これぞ社会の縮図なのでしょうか。生から死への人生の諸相が表されていました。

ハルシャの人への関心はさらに拡張します。最たるのが「ここに演説をしに来て」でした。ご覧の通りに巨大です。横幅何メートルあるのでしょうか。6枚のパネルが連なっています。


「ここに演説をしに来て」 2008年

登場するのは何と2000名。しかも人間だけでなく動物もいます。全てがカラフルなプラスチックの椅子に座っていました。そしてこれまた表情が様々です。両腕を広げたり、目を手で覆ったり、祈るような面持ちで手を合わせたりする人もいます。当然ながら人種、性別は問いません。


「ここに演説をしに来て」 2008年

面白いのは映画のヒーローも描かれていたことでした。例えばスーパーマンにバットマンです。隣り合わせに座っています。ほかにはフルーダ・カーロらもいるそうです。あまりにも人数の多さに俄かには分かりません。マクロで捉えてもミクロで見ても面白い。キャプションに「この世をながめる」とありましたが、全てを俯瞰する神の視点に近いのかもしれません。まさにこの世の人間、キャラクター、それに動物らが等しく同じ椅子に座っていました。

南インドの文化に根ざした作品が多いのも特徴です。中でも印象的なのが食事に関するインスタレーションでした。


「レフトオーバーズ(残りもの)」 2008/2017年

「レフトオーバーズ(残りもの)」です。同地の伝統的なミールスです。お皿はバナナの皮。そこに香辛料やチャパティなどの食事が盛られています。食品サンプルを用いて制作しています。


「レフトオーバーズ(残りもの)」 2008/2017年

よく見ると全て食べかけでした。残りものとあるように、食べ残しと呼んだ方が適切でしょう。確かにバナナの皮を剥き、ミールス上でかき混ぜたような跡が残っていることが分かります。コップの水も減っていました。


「レフトオーバーズ(残りもの)」 2008/2017年

一部はご覧のように打ち捨てられていました。中にはほぼ食べきっているミールスもありますが、殆ど手を付けていないものもあります。残飯にしてはあまりにも多すぎます。そこにもハルシャのメッセージが込められているのかもしれません。


「ネイションズ(国家)」 2007/2017年

圧巻なのは「ネイションズ」でした。うず高く積まれたのはミシン。全部で193台あります。国連加盟国数と同等です。いずれも足踏み式で無数の糸に包まれています。さらに国旗を表した布が置かれていました。


「ネイションズ(国家)」 2007/2017年

インドにおいて糸車はガンジーの独立運動の象徴です。工業化を表し、労働も意味します。国家の意味を問いただしているのでしょうか。旗の一部は剥落。引きちぎれて落ちているものもあります。一方でミシンから出た糸は網のように広がりつつ、時に細かに分かれては、もつれるように絡み合っています。人々の行き来、ないし国同士の複雑な関係を思わせました。


「ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ」 2013年

最大のスケールを誇るのが「ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ」です。全長は24メートル。作品は展示室の端から端までに及んでいました。


「ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ」 2013年

舞台は宇宙なのでしょうか。とぐろを巻いては左右へ巨大な龍が舞うかのように広がっています。黒い帯の表面には無数の天体が浮かび上がっています。とても数え切れません。まるで巨大な星団、ないし銀河を前にしているかのようでした。


「私の目を見て」 2003年 サクシ・ギャラリー、ムンバイ

インドの哲学や宗教観に踏み込みながらも、どこか「ユーモラス」(解説より)で、親しみやすくもあるもN・ S・ハルシャの世界。食欲を喚起させられるのも面白いところです。南インドの文化に触れるのにも良い機会と言えるのではないでしょうか。


「マター」 2014/2016年

なお制作は美術館の外へも拡張しています。エレベーター前の壁画のほか、66プラザより森タワーを超え、空から宇宙を指し示す猿のオブジェ、「マター」も設置されています。手に持つのはボールです。天体を意味しているのでしょうか。猿はインドでハマヌーン神として信仰されている種だそうです。人から宇宙へと志向するハルシャの旅に終着点はありません。


ロングランの展覧会です。6月11日まで開催されています。

「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」 森美術館@mori_art_museum
会期:2月4日(土)~6月11日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *但し火曜日は17時で閉館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、大学・高校生1200円、中学生以下(4歳まで)600円。
 *本展のチケットで東京シティビュー(展望台)にも入館可。
場所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。


注)写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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「ダン・フレイヴィン展」 エスパス ルイ・ヴィトン東京

エスパス ルイ・ヴィトン東京
「ダン・フレイヴィン展」 
2/1~9/3



エスパス ルイ・ヴィトン東京で開催中の「ダン・フレイヴィン展」を見てきました。

アメリカの現代美術家、ダン・フレイヴィンは、1960年頃から「光」を使用した作品を制作しています。

そのスタイルは実に簡潔です。言ってしまえば蛍光管しかありません。


「無題「(アレックスとニッキーへ)」 1987年

「無題(アレックスとニッキーへ)」はどうでしょうか。8本の直管の蛍光灯を壁に設置。隙間なくくっ付いています。色は青、緑、黄、赤の4色です。何ら点滅を繰り返すわけでもなく、ただひたすらに色、つまりは光を放ち続けます。まさしくミニマル。一切の装飾もありません。

とはいえ、しばらく眺めていると、色同士が混じり合い、微妙に変化しているようにも感じられます。さらに光は空間だけでなく、壁へも侵食。さも絵具が滲み出すように広がっていました。


「無題」 1963年

よりシンプルなのが「無題」です。キャリア初期の1963年の作品。緑の蛍光管1本のみです。縦にズバッと空間を割くように直立しています。フレイヴィンは緑に「他とは異なる驚くべき強さがある。」(解説より)と主張しているそうです。森などの自然の色でもある緑。ともすれば安定や調和などを表しますが、西洋の一部では毒、ないし悪魔を示す色と考えられることもあります。如何なる意味を持ちえているのでしょうか。

最も大規模なのが「V・タトリンのためのモミュメント」の連作でした。全部で4点。今度は白色の蛍光管です。1作品当たり7本、ないしは8本ほど繋げています。高さは一定です。244センチでした。


「V・タトリンのためのモミュメント」 1964〜1965年

V・タトリンはロシアの構成主義の芸術家です。技師や建築家としても活動。ロシア革命を祝した記念塔を設計をレーニンに依頼されました。実際には建設されませんでしたが、かのエッフェルに匹敵するほど巨大な螺旋型の鉄塔を構想していたそうです。


「V・タトリンのためのモミュメント」 1964〜1965年

その記念塔のためのオマージュです。確かに建築物的な展開も見て取れなくはありません。

蛍光管は外国の既製品のようです。寿命を終えればいつしか消えてしまいます。空間は光に満ちていましたが、どことない儚さを感じたのも事実でした。

エスパスはガラス張りのスペースです。照度は外の光量と連動します。今回は日没後に観覧しましたが、昼間や夕方など、時間によって変化する表情を追うのも良いかもしれません。


入場は無料です。9月3日まで開催されています。

「ダン・フレイヴィン展」 エスパス ルイ・ヴィトン東京
会期:2月1日(土)~9月3日(日)
休廊:不定休
時間:12:00~20:00
料金:無料
住所:渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A1出口より徒歩約3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩約10分。
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