ミュンヘンのオリムピックスタディオの近くで起こった事件はとても興味深い。幾つかの要素がある。先ず挙げておかなければいけないのは、メディア、特にSNSの使われ方である。バイエルンの警察当局はツィッターを上手に使って今までもテロ情報などを流してきた。今回はどうもその伝言ゲームのような情報にも引っ張られた感じがある。それ故に、事件が進むにつれて、警察の活動情報を伝えるようなSNSは流すなとか、事後は死者の遺体の写真を出すなとか、同時に写した映像をこちらにアップロードしろとか呼びかけたのである。
最終的にはボンのテロ対策部隊GSG9まで要請して、ミュンヘン市内に非常事態を宣言するまでのことになったが、遣り過ぎではなかったと弁明している。原因は、ネットなどの情報に振り回されて、モットーの「スピードより確実」の情報の確かさを吟味できなかったことにあるとみられる。地元のバイエルン放送の情報局BR5をネットで流し続けていて、同時にFAZの
ライヴティッカーを流して注視していた。そこでも三人組が長銃を構えて犯行に及んだという情報は流れていて、あとで調べるとどうもそれは南アフリカでのショッピングモール襲撃の監視カメラのVIDEOのようでYOUTUBEにもミュンヘンの犯行として上がっていた。
それに前後するように、フェイクヴィデオが横行しているという情報も流れていたが、独第二放送局のツイッターにはイスラム国の犯行声明VIDEOの映像が写っていた。その
映像はYOUTUBEにも上がっているが、それが今回のオリムピックショッピングモールOEZ内の映像かどうかは定かではない。なぜならば、倒れている人々と血を流している人々が立ち位置から撮られていて、映されている人々はカメラの向かう先の方を警戒して隠れている。つまり、この映像の主はなぜか隠れていないのである。そしてカメラの向けられている先の方で叫び声が聞こえる。
調べてみても、犯行は、
映像を観ても、ハーナウワー通り向かいのマクドナルドの中と店先の歩道から量販電化店サテューンの駐車場方面に向けて銃が向けられていて、歩道を歩いているティーンエイジャーばかりを狙い撃ちしている。本人以外は皆そこで射殺されたようで、今回の死者のただ一人の年長者は43歳の主婦である。フェースブックでおびき寄せられたという、恐らく店内の家族ではないのだろうか。そして狙われた家族やティーンエイジャーはKanakeと揶揄される人々である。つまり、南欧的もしくは中近東的な人種的特徴を持った黒髪系の人々で金髪碧眼の対極にある人たちである。勿論今回のイラン人との混血のドイツ青年はこの範疇に入り、実際
屋上の映像を写したバイエルン人は青年をそのように罵倒している。
それに対して、この少年は、「ドイツ生まれのドイツ人である」と言い返して、「入院治療している」と答えている。まさしく、これが動機であり、丁度五年前のその日のノルウェーの虐殺事件のように右翼的な発想でその種の人々を9ミリ口径で狙い撃ちした。丁度自分の半分が、父親がイラン人であるという自分の半分を殺すという終結がそこにある。
飲酒運転で逮捕された元プロテスタント総裁のケースマン女史は、警察当局の情報を評価しながらもヒステリーに満ちたマスメディアを批判している。確かに問題の一つがそこにあるのは確かだろう。ここ暫くの難民問題を契機としたペギーダ運動やAfD躍進の陰には、彼女が感じたようなキリスト教文化からの逸脱している流れもそこにあるに違いない。その点に関しては、狂人的なイスラム教条主義者とも同じくするところであって、脱モダーンの時代の流れはそのようなところまで来ているのだ。
そして連邦共和国の現在の移民法では二種類の連邦国民が存在する。それは移民的な背景を持った人種であり、そして持っていない人種である。様々な数字があるようだが、戸籍上で五分の一以上、嘗てのゲルマン的な背景とは異なった血が入っているのは半数以上であることは確かであり、民族国家などは遠の昔に消滅していて、徐々に法整備がなされているのだが、社会的認識はまだまだ追い付いていない。ある意味世界で最も進んだ理念の連邦共和国であることには間違いないのだが、十五年ほど前にトルコ人を対象にして改正された移民法は悪法であり、改正されることが望ましいとするのが我々の主張なのであり、政治的に要求し続けていることである。
現在起きているこうした動きは最終的には次の法改正に向けて収斂されるだろうが、まだまだ現首相を含めて充分にその方向性が掴めていないようである。なるほど統合化は東ドイツ人を含めて今後とも進めていかなければいけない重要課題であるが、女首相や現大統領を含めて旧共産圏出身の者もいれば、モスリムも少なくないところで、更にユダヤキリスト教的な価値観も箍にならなくなっている社会において、統合化という言葉自体に限界がある。寧ろ多様化の言葉の下で、前記移民法の改正を手初めに連邦憲章の具体化に努力していくべきなのである。
参照:
インタヴュー、時間の無駄二 2016-07-24 | 歴史・時事
日本の問題、世界の問題 2016-07-23 | 歴史・時事
ツケを残し利子を払う税制 2016-07-09 | 文学・思想