日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

シーランチ MLTW・チャールズ・ムーアの夢

2005-11-14 15:12:14 | 建築・風景

シーランチ(Sea Ranch)が僕の中にこんなに居座っていたとは思わなかった。僕自身が驚き、ちょっと戸惑っている。
12日(土)に12チャンネル「美の巨人たち」で放映され、荒波のたたき付ける崖の上のなだらかな傾斜のある大地に、目に焼きついているシーランチ建築群の映像が映し出されると、・・・とは言っても訪れたことはないのだが・・・胸が締め付けられるような気がした。
これは人に見せたい、といういつもの癖が出て、建築を志して果敢にトライしているSに電話した。

「エ-ツ!シーランチってなに?」
そうか、この建築ができたのは1965年、既に40年を経ている。それにもショックを受けたが、若きCはまだ生まれてもいなかったんだ。マリリン・モンロウとケネディが亡くなった時代。まあそうだろうと思い、この建築はチャールズ・ムーアというアメリカの建築家を中心としたグループ(MLTW)によって、サンフランシスコから車で3時間ほど行った僻地に建てられた週末用のコンドミアム・共同別荘群で、僕たちは骨の髄まで影響を受けたのだ、と少々オーバー気味に伝えた。

僕たちはその頃、アーキテクチュアル・レコード誌などの住宅特集を読み漁り、外国の住宅情報を得るのに躍起となっていたが、二川幸夫さんの撮影によるGA、或いはGI[アメリカの住宅]で紹介されたシーランチは驚異だった。シーランチで自信を持ったMLTWは、その後次々と作品を創りチャールズ・ムーアの名は世界に広がっていった。
宮脇壇さん、東孝光さん、山下和正さん達が、植田実さんを編集者として創刊された「都市住宅」に次々と住宅を発表して、僕たちはそれにも影響を受けて別荘などの設計をしたものだが、「都市住宅」は若き建築家のバイブル的存在になっていった。その3人もまたシーランチの影響を顕著に受けている、と感じていたということにしておこう。建築が元気だった頃の話だ。

さてさて、この番組の映像の作り方には戸惑ったが、終わるとすぐにCから電話が入った。
ムーアが日本の民家や町屋の空間構成にヒントを得たということに興味を持ったとのことだったが、僕はなんとなくアメリカの西部の農家の収納庫などの荒くて安い材料の使い方に範を採ったと思い込んでいたので、僕もなるほどと思ったことを話した。

この番組の制作者は、シーランチといっても誰も知らないだろう、でも伝えたいという思いに満ちている。何より自然との共生、したがって番組を紹介するキャプションも「エコロジー住宅」とある。
確かに考えてみても、また映像を見てもそれに尽きるのだが、少なくとも当時の僕は、軒の出がなく幾何学的な形とその取り合わせによる内外に及ぶ空間構成、そして多分19日に放映される第2部で紹介されると思うが、室内の縦羽目の木の壁に塗られた大胆な原色を使ったスーパーグラフィックに魅かれてしまったのだ。肝心な所の理解もせず!
それにしても若き日に心に響いた出来事は、いつになっても消えないものだ。

19日(土)pm10:00から映し出される第2部では、建築そのものが紹介されるだろう。わくわくする。それにしても「アメリカの夢 絶景!エコロジー住宅」では見損なってしまう。僕たち建築家には「シーランチ」だけで十分なのに。