episode 22 わたしの告白にソク応えて、でないと……
校庭の隅のブランコが揺れている。ギィーギィーギィー。
広美ちゃんが、 ブランコをこいでいる。
ブランコの座板の上に立っておもいっきりこいでいる。
ブランコを吊っている鎖が鳴っている。
ツトムはブランコを見ている。
下校時間のチャイムがなってからだいぶ経った。
もう、だれも校庭にはのこっていない。
間もなく、先生が見回りにくるだろう。
「わたしツトムくんこと、好きかも」
広美ちゃんに告られたのは先週の金曜日だ。
もうあれから、一週間が過ぎている。
そして広美ちゃんが交通事故で死んでから、同じく一週間になる。
ぼくの責任かも――。と、ツトムは思う。
「ぼくも、広美ちゃんのこと好きだよ」
と応えればよかったのだろうか。
それから、先はどうなるのだ。
わからない。
ツトムは広美ちゃんのことをきらいではなかった。
どちらかといえば、好きだった。
遠くを見ているような、きれいな目をしていた。
じっとみつめられると、ドキドキした。
あまりとつぜんの告白だった。
なんと返事をしていいか、モジモジした。
きらわれた。
と……思ったまま広美ちゃんは事故にあったのだろうか。
ギイーギイーギイ。あれからずっとブランコは揺れている。
中学生になれば、みんなパートナーがいる。
彼女が、彼がいてあたりまえらしい。
デートなんかするのは、時間のムダだ。
好きだとか、愛しているとか、そんなことで迷ったりしたら。
時間がもったいない。
高校は開成を受験したい。
私立中学の受験には失敗した。
ツトムは屈辱感に苛まれていた。
そんなときだった。
タイミングが悪すぎた。
中学生になると離ればなれになるの。
彼女は私立T女子学園に見事合格していた。
合格できなかったぼくをなぐさめてくれる気でいたのかもしれない。
そういうやさしいところのある広美ちゃんだった。
広美ちゃん、そんなウラメシイ目でぼくを見ないでよ。
ブランコからおりておいでよ。
校庭の隅のブランコは揺れつづけている。
そこにツトムは見てしまった。
広美ちゃんにはブランコから降りられないわけがあった。
広美ちゃんは、事故で両足がグシャグシャだった。
という話だ。ほとんど即死だった。
両足で座板にのっていると見たのは、ぼくの錯覚だった。
ギィー、ギィー、ギィー。
広美ちゃんは両手で鎖につかまっている。
そして足がない。両足がない。
上半身だけでブランコをこいでいる。
ぼくを怨まないでよ。
ごめんな。
広美ちゃんに、彼女がよろこぶかもしれない、言葉を返すべきだった。
「遊ぼう。ツトムくん。むかしみたいに、いっしょにブランコにのろう。こっちへきて」
跳び上がった。ポンと肩を叩かられた。
おどろいて、ツトムはふりかえった。
「先生、ブランコが揺れている」
「ああ、春の疾風だ。強い風があるからな」
「ちがうよ。だれかブランコをこいでいる」
「ツトム。勉強のし過ぎだぞ。早く帰れ。だれもブランコにはのっていない」
ツトムは校門の先の大通りに向かった。
広美の恨めしそうな目が消えない。
あんなに注意深い広美ちゃんが事故にあうなんて――。
信じられない。
ほくに告白したことを悔やんで――。
ぼくにきらわれたと誤解して――。
考え事をしていたのだろうか。
広美ちゃんの目が。
どこまでも憑いてくる。
わたしツトムくんのこと、好きかも……。
むかしのように、一緒に遊びましょう。
遊びましょう。
ごめん。広美ちゃん。
ぼく広美ちゃんのこと、きらいだったわけではないよ。
広美ちゃんの恨めしそうな顔がどこまでも憑いてくる。
ツトムは広美ちゃんのことばかり想っていた。
校門前の大通りを歩きだした。
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怪談書きませんか/栃木県芙蓉高校文芸部
著者麻屋与志夫
250円(+税) (税込 270円)
古い怪談のある栃木。いま新しい怪談誕生。恐怖、戦慄保証付き
栃木には大中寺の七不思議がある。特に『馬首の井戸』や、秋成の日本吸血鬼物語の嚆矢(こうし)ともいわれている『青(あお)頭巾(ずきん)』は有名だ。―― その土地は、いま外来種ル―マニヤ吸血鬼の侵攻(しんこう)を受けている。吸血鬼監察官の文子と龍之介は敢然(かんぜん)とその敵に立ち向かう。龍之介のジイチャン翔太も愛する九(きゅう)尾(び)玉(たま)藻(も)と、命がけの抵抗をする。二組の恋人同士が最後にたどりついた境地(きょうち)、1000年の時空(じくう)を超えた愛の不滅(ふめつ)の物語。あなたは恐怖し、そして純愛に涙する。
角川ブックウォーカーで検索してください。
ジャンル文芸レーベル惑惑星文庫出版社名惑惑星
校庭の隅のブランコが揺れている。ギィーギィーギィー。
広美ちゃんが、 ブランコをこいでいる。
ブランコの座板の上に立っておもいっきりこいでいる。
ブランコを吊っている鎖が鳴っている。
ツトムはブランコを見ている。
下校時間のチャイムがなってからだいぶ経った。
もう、だれも校庭にはのこっていない。
間もなく、先生が見回りにくるだろう。
「わたしツトムくんこと、好きかも」
広美ちゃんに告られたのは先週の金曜日だ。
もうあれから、一週間が過ぎている。
そして広美ちゃんが交通事故で死んでから、同じく一週間になる。
ぼくの責任かも――。と、ツトムは思う。
「ぼくも、広美ちゃんのこと好きだよ」
と応えればよかったのだろうか。
それから、先はどうなるのだ。
わからない。
ツトムは広美ちゃんのことをきらいではなかった。
どちらかといえば、好きだった。
遠くを見ているような、きれいな目をしていた。
じっとみつめられると、ドキドキした。
あまりとつぜんの告白だった。
なんと返事をしていいか、モジモジした。
きらわれた。
と……思ったまま広美ちゃんは事故にあったのだろうか。
ギイーギイーギイ。あれからずっとブランコは揺れている。
中学生になれば、みんなパートナーがいる。
彼女が、彼がいてあたりまえらしい。
デートなんかするのは、時間のムダだ。
好きだとか、愛しているとか、そんなことで迷ったりしたら。
時間がもったいない。
高校は開成を受験したい。
私立中学の受験には失敗した。
ツトムは屈辱感に苛まれていた。
そんなときだった。
タイミングが悪すぎた。
中学生になると離ればなれになるの。
彼女は私立T女子学園に見事合格していた。
合格できなかったぼくをなぐさめてくれる気でいたのかもしれない。
そういうやさしいところのある広美ちゃんだった。
広美ちゃん、そんなウラメシイ目でぼくを見ないでよ。
ブランコからおりておいでよ。
校庭の隅のブランコは揺れつづけている。
そこにツトムは見てしまった。
広美ちゃんにはブランコから降りられないわけがあった。
広美ちゃんは、事故で両足がグシャグシャだった。
という話だ。ほとんど即死だった。
両足で座板にのっていると見たのは、ぼくの錯覚だった。
ギィー、ギィー、ギィー。
広美ちゃんは両手で鎖につかまっている。
そして足がない。両足がない。
上半身だけでブランコをこいでいる。
ぼくを怨まないでよ。
ごめんな。
広美ちゃんに、彼女がよろこぶかもしれない、言葉を返すべきだった。
「遊ぼう。ツトムくん。むかしみたいに、いっしょにブランコにのろう。こっちへきて」
跳び上がった。ポンと肩を叩かられた。
おどろいて、ツトムはふりかえった。
「先生、ブランコが揺れている」
「ああ、春の疾風だ。強い風があるからな」
「ちがうよ。だれかブランコをこいでいる」
「ツトム。勉強のし過ぎだぞ。早く帰れ。だれもブランコにはのっていない」
ツトムは校門の先の大通りに向かった。
広美の恨めしそうな目が消えない。
あんなに注意深い広美ちゃんが事故にあうなんて――。
信じられない。
ほくに告白したことを悔やんで――。
ぼくにきらわれたと誤解して――。
考え事をしていたのだろうか。
広美ちゃんの目が。
どこまでも憑いてくる。
わたしツトムくんのこと、好きかも……。
むかしのように、一緒に遊びましょう。
遊びましょう。
ごめん。広美ちゃん。
ぼく広美ちゃんのこと、きらいだったわけではないよ。
広美ちゃんの恨めしそうな顔がどこまでも憑いてくる。
ツトムは広美ちゃんのことばかり想っていた。
校門前の大通りを歩きだした。
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