田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-05-29 07:09:20 | Weblog
5月29日 木曜日
吸血鬼/浜辺の少女 53 (小説)
夜になっていた。
吸血鬼の活動が活発になる。
吸血鬼の能力が欲望がハイになる。
急がなければ。
デパートの脇の有料駐車場に急いだ。
夏子の嗅覚は鋭い。ルノーの窓を開けておけば、妖霧をたどることができる。
「気づかれなかったみたいね」
教会の周辺で騒いでいたRFはうまくマイタようだ。つけてくるものはいない。
「あそこのマンホールからも妖気がもれている」
江川卓の出身校作新学院を左手にみながら大谷に向かう。
宇都宮出身の人気作家立松和平が醜悪だと評したらしい、大谷石製の巨大な観音像を後にする。
「もうすぐよ」
「夏子さんは辛いでしょう。一族のものに弓をひかせて申し訳ありません」
「あら、古いことば知っているのね。でも安心してください。わたしはこのところ同族のものと戦いつづけていますから」
夏子の案内したのは、別のところだった。
隼人と夏子が雨野救出に乗り込んだ入口からはほど遠い場所だった。
「一族のものでも、あまりしらない抜け道よ。鹿人兄さんとよくここをでて夜の那須野で遊んだわ。あのころの……兄はやさしかった……」
遠い過去をなつかしむ声だった。
夏子の過去とは、いつのことか。
一族を敵にまわすとは、いかなる痛みを伴うものなのか。
夏子の悲しみや苦しみが隼人に伝わってこない。
ブロックしている。隼人に余計な心配をかけないように。
夏子はなつかしそうに周辺を見回している。
「あの岩のあたりで、ショウワという時代にエノケンの『西遊記』のロケがあった」
ごつごつとそそり立つ岩山の裾を回りこむ。
「ここで止めて。わたしの植えた杉があんなに太くなっている。まちがいなくわたしが植えたすぎだわ」
「千年杉ですか」
夏子を元気づけようと隼人がジョークをとばす。
「そうよ」
と、軽くいなされてしまう。
「あの岩は苔むしたけれど、形はあまりかわっていない。まちがいいなく、ここよ」
月光を浴びて杉の枝がひひろがっている。薄闇の中をその下に車をとめた。ふいに、
隼人たちが来た方角からバイクのがやってきた。エンジンの轟音と闇を切り裂くヘッドライトの光。
やはりつけられていた。
「わたしたちがくいとめます。あいつらには、わたしたちの計画はわかっていないはずです。あの岩影に廃坑への隠し階段があるわ」
「グットラック」
隼人は神父のダイナマイトを背負った後ろ姿に声をかける。
神父は手をあげる。
隼人はついていきたい。
神父をひとりだけで、吸血鬼の城に潜入させるのは心もとなかった。
申し訳ない。
幸運を祈ることしかできない。悔しい。
どうか、無事にもどってきてください。
隼人は声にならない声でもういちど神父の背に声援をおくった。

20

「あたしたちから逃げられるとおもってたのけ」
玲菜がバイクのバックシートから飛び降りた。

コメント
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