田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女       麻屋与志夫

2008-05-18 17:53:12 | Weblog
5月18日 日曜日
吸血鬼/浜辺の少女 43 (小説)
オリオン通りの『マツキヨ』で包帯と消毒薬を買うことにした。
アーケード街なので車では入っていけない。
東武デパート前の信号機は赤が点滅しているだけだ。
信号を守るものなどいない。
特に学生のマナーがわるい。
例え、信号が赤にかわっても、無視する。
歩行者はスクランブル交差点を歩くように入り乱れる。
赤の信号に誘われて喜々として興奮する。
信号など目に入らない学生があふれかえっている。
それでこうなってしまった。
いつでも赤信号の点滅。
デンジャラス・ゾーン。
テレビでも報道されたことがある。
……いつまでも続く赤の点滅。
若者たちは、その赤の点滅信号すら見ていない。
中空に濁った眼を向けている。
いや彼らの両眼は赤く濁ってはいやしないか。
犬歯あたりから涎をたらしてはいなか。
彼らには公共の道路を横断しているのだという意識がない。
現実を無視し、受け入れることのできない、キレタ若者。
どうなっているのだ?
なにが起きているのだ。
宇都宮がすっかり変貌してしまった。
道路いっぱいに広がる歩行者で車が進めないでいる。
車は警笛を鳴らし続けている。
道いっぱいのナイスガイやメチャマブ・ガールの群れはとぎれない。
それどころか下校時とあって学生のグループは増加するばかりだ。
なにかに操られている。
日常がここでも歪みを生じている。
ルノーはデパート駐車場に入れることか出来なかった。
満車、の赤い表示ランプに拒まれた。
いままでこの時間帯だったら、満車になったことなどなかったのに。
おかしい。なにがおかしい。
なにかがかわってしまった。
なにか起きている。
なにか、なにか、なにか。不透明なことばかりだ。
どこにいっても、赤赤赤だ。
吸血鬼のすきな赤だと隼人は気づいた。
吸血鬼のすきな赤い色彩の洪水だ。
そして、隼人の流す赤い血。止まらない。
デパート脇の有料駐車場にルノーは留めた。
北関東随一といわれるアーケード商店街。
『オリオン通り』にも異変はみちみちていた。
特殊プラスチックの天井は丸みをもたせてある。
通りは巨大な円管のようだ。想像を絶する生き物の腸のようにのたくっている。
その空間も妖気にみちている。
そのために、街のはずれにある大谷の廃坑のようだ。
吸血鬼の牙城である廃坑まで続く、暗い洞窟のようにアーケードが思える。
いかなる残虐に行為も平然と実行できそうな怖さが漂っている。


作者。この欄のブックマークをクリックしてください。麻屋与志夫/小説に、「吸血鬼ハンター美少女彩音」の話が載っています。
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吸血鬼/浜辺の少女

2008-05-18 09:49:07 | Weblog
5月18日 日曜日
吸血鬼/浜辺の少女 42 (小説)
「それよりもうこれ以上おれたちとかかわるな。いつでも隼人、おまえの背にへばりついているからな」
「そちらがさきにおそってきたんだろうが。世界征服なんてタワゴトならべて」
鬼島との会話を遠山が木刀で両断する。
遠山のふところに隼人は果敢に飛びこんだ。
利き腕を押さえた。
木刀を奪った。
すかさず斬りこんできた高野の剣を奪い取った木刀ではじいた。
まともに受けられない。
剣にはかなわない。剣の切っ先を木刀でよこにはらった。
一閃。太刀が隼人の眼前を流れる。切っ先は隼人の胸すれすれに斬りこんでいた。肌に火ぶくれができた。そう感じた。遠山の木刀に救われた。
「こい」
隼人は覚悟をきめてかまえた。
「役立たずが」
鬼島が近寄ってくる。にやりと余裕の笑みをうかべる。
それが癖なのか。ナイフを長く細い舌でなめ上げた。威嚇だ。
シュルシュルウと口笛のような音を吐いている。
一閃。二閃。ナイフが隼人の体すれすれにかすめる。
「ウオリヤア」
鬼島の叫びに気を奪われた。獣の唸り声だ。
間合いをつめてくる。おそつてくる。
「ウオリア」
獣の唸り声に気を奪われた。それでも隼は宙に飛ぶ。
上段回し蹴りを鬼島の側頭に放つ。
飛燕のごとき蹴り。そして木刀で真っ向から竹割。のつもりだった。
それが。かわされた。
伸ばしきった太股にナイフが飛んできた。
かわせない。足がのびきった一瞬を狙われた。
着地した。態勢がくずれた。
「隼人」信孝の声だ。
「邪魔がはいった。人目がおおすぎる。おまえなんか、いつでも殺せる。忘れるな」
鬼島は恫喝のステゼリフをのこした。胸の金色の羊の刺繍をそりかえらせた。傲慢にいいはなってケントのバイクのリヤーシートに飛び乗った。
信孝が走ってくる。
「友情にたすけられたな」
遠山がいう。まだかすかに目は赤くひかっていた。
ルノーまでの距離がひどく遠い。足をひきずりながらじぶんの車をみすえ、一歩一歩近寄る。
「隼人。だいじょうぶか」
あまり大丈夫ではないみたいだ。
信孝がすぐそばまで来ている。声は遠くに聞こえる。
隼人はPTA。パトラッシュと歩いた。アニメソングを心で歌い、歩む。
でもいつの間にか、NTAとなっている。夏子と歩く。夏子と歩く。
刺された。まだナイフは太股に突き立っている。痛い。
刃物の突き立った激痛。血はあまり流れていない。ハンカチーフを当ててぬいたほうがいいだろう。
痛い。AI。足痛い。AIAIAIAIAIAI……………。
飛んでくるナイフ。見切ったつもりだった。それが避けられなかった。いま太股にナイフは突き刺さっている。AI。イタイイタイイタイイタイ。
だらしないったらありやしない。
ナイフの飛んでくるスピード。予想よりはるかに速かった。
全身から脂汗がふきだしている。
後ろ手にドアを閉める。
運転席に倒れこんだ。
心配してのぞきこんでいる信孝に手をふる。むりに笑顔をつくる。
車をスタートさせた。
だれも追ってこない。
信孝が呼んだのだろう。警備員や学生が遠山や暴走族の逃げ残りを取り囲んでいる。
ゲートの横木をはねとばした。
一気に通りに出る。
だれも追ってこない。
ナイフをぬいた。
白いハンカチーフが真っ赤に染まる。
そのうえからバンダナを巻く。体の力がぬけていく。
大量の出血というほどのことはない。
むしろ、刺された、ということで、心理的に参っていた。

16

痛む。めまいがする。
スーと意識がとぎれる。
消毒しなければ。

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