田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-05-22 08:05:53 | Weblog
5月22日 木曜日
吸血鬼/浜辺の少女 47 (小説)
きらびやかに飾り立てたショウインドウーが両側につづく。ブティック。宝石店。香水専門店。宇都宮餃子屋。閉館になった映画館。カレー専門店。乾物屋。書店。
妖霧は低く這っている。
「たしかに邪気はあの換気扇からも吹きだしているわね」
夏子が隼人のことばを受けていう。
「でも、この臭いには下水からよ。下水の臭いがする」
換気扇から吹きだした邪気が妖霧とまざりあってさらに濃くなる。空気中ににじみでている。
「やはりマンホールだ」
「そのようね」
夏子が悲しそう顔になる。
路地への曲りかどにあるマンホールの蓋から濃霧が吹きあがっていた。むろん、妖霧だ。
暗黒の地下を大谷から? 流れてきた妖霧なのだろう。
あの地下採掘場。廃坑からだ。
吸血鬼の巣窟からだ。
妖霧は若い女の子がとおりかかると生き物のようにからみつく。
体をなめまわすようにからみつく。襟首のあたりにまとわりつく。
ぴちやぴちやと血をすっている。錯覚だろう。
女の子の体が揺れた。妖霧が離れていく。
妖艶な姿態にかわっていた。
まだあどけない笑みをうかべてはいるが、男をからめとる顔だ。
妖霧にとり憑かれ脳を娼婦として操られている。
彼女たちの熱い流し目から逃れるのはむずかしそうだ。
この女の子の変身の怪異な現象にだれも気づいていない。
あたりまえの日常の風景がいまもここにはある。
「どうしてなんだ」
「見えているのはわたしと隼人だけ。だから怖いのよ。普通の人にはなにも見えていない。この妖霧さえ見えない。感じられないの。だから怖いのよ」
本人も操られていることなどわからない。
なにをしているのかさえわからないのだろう。だからこわいのだと夏子はいっているのだ。

17

手鏡に携帯の女子学生が漂っている。
がんがん携帯をかけまくって男をさそっている。
RF募集キャンペーン実施中。そんな感じだ。
「キライ。こんな、顔。オヤからもらった顔なんかきらいだもん。ほらだんだん薄くなっていく。こうなったらガン黒化粧するきゃないわ。……そのほうが好きよ。ね、アンチヤンにもわかっぺ。わたし玲菜。ね、わたしとツキあってよ」
妖霧にとりつかれると鏡に顔が映らなくなってしまうらしい。
さすがにそのことには気づく。
それで厚化粧のガンクロ娘が増殖している。
「きみらのたまりばどこ」
「うれしい。それって玲菜のことナンパしてるんだ。そうだっぺ」
とまざりっけなしの宇都宮弁でよろこんでいる。
かわいいあどけない顔をしている。
玲菜は妖霧を吸いこんだだけではなかった。
噛まれていた。
首にネッカチーフをまいていた。
血がにじんでいた。
ふっくらとして色白。
血がおいそうだ。
いけない、こちらも、もおかしくなってくる。
隼人はあわてて反省する。
玲菜は吸血鬼好みの顔をしている。
直接噛まれる栄光によくしわけだ。
妖霧がスープのように濃くなった。
松が峰のかっての繁華街にのこって営業している「宮の夜」。
地下にあるクラブに誘われた。
夏子が同伴しているのは見えていないようだ。