音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ ベーゼンドルファー物語の続き、 その2 ■

2007-12-19 15:50:00 | ★旧・ 楽器の特性と 歴史
■ ベーゼンドルファー物語の続き、 その2 ■
2006/8/11(金)

  ★2006/3/29 「ベーゼンドルファー」物語  その1の続きです


ピアノの命である「響板」は、厚さ約1cm 、幅約10cmのスプルースの板を並べて貼り合わせます。


木目は鍵盤と直角ではなく、鍵盤右側・高音部から低音部へと斜めに綺麗に流れています。


ピアノの外周のケース(箱)は、二通りの造り方があります。


大多数のピアノが採用している方式は、次のようです。


ブナやカエデ(厚さ3mm弱、幅40cm、長さはピアノ外周分)の板を、

何枚か貼り合わせて積層板をつくります。


一枚一枚の薄い板は、ちょうど大根のカツラ剥きと同じような方法で作ります。


これを大きな力でボディーの形に湾曲させてケースとします。


小さいピアノの場合、厚さ18mm前後、フルコンサートでは厚さが50mmになり、かなり重量があります。


この重い積層板で、内側の軽い響板を囲む形となります。


また、弦の張力を支える構造材としての役割も担っています。


★しかし、ベーゼンドルファーは、全く異なる考え方です。


ケースを響板と同じように“楽器”として響かせるため、響板と同じ素材のスプルースでケースを造ります。


積層板ではなく、厚みのある木材の内側に細かい切れ込みを縦にたくさん入れ、

圧力を加えることなく、自在に曲面をつくり出します。


ピアノの裏側を下から見上げますと、建物の柱のような10センチ角の木材が、井桁状に組まれています。


この素材も響板と同じスプルースです。


寸分の隙間なく交差させています。


この支柱が弦の大きな張力を支え、さらに音の通り道としての機能も合わせもちます。


ピアノ全体が共鳴箱となります。


この結果、面白い実験ができます。


オルゴールをケースの上に置くと、あら不思議!オルゴールの音が大きく美しく鳴り響きます。


支柱の上に置いても同じです。響板の上ではもちろんのことです。


ピアノ全体がオルゴールの小さな音を共鳴させているのです。


ピアノ全体が共鳴箱となっている証明です。


また、例えばC-E-G(ド-ミ-ソ)のダンパーを抑えておいて、ピアノのボディーのどこかを

コツンと叩きますと、ドミソの音が出てきます。


★パイプオルガンのフルストップの音まで出すことが可能です。


まず、ダンパーペダルを踏んだ状態にします。


そうすると、止音装置であるダンパーが上がったままの状態となり、響きがいつまでも続きます。


例えば、倍音列に沿って、最低音部からC-C-G-C-E-G-C-E-Gと最高音部まで、

順に弾いていきます。


すると、どうでしょう!! 


荘厳なオルガンのような響きが鳴り渡ります。


豊かな音が洪水のように、ピアノの黒い箱からいつまでも溢れ出てきます。


弦楽の響き、ホルンや木管の響きまで聴こえてきます。


初めて体験された方は、感動されます。


これは、ピアノの中で音が巡り回り、走り回ることで、音が干渉し合い、いろいろの音が出てくるためです。


ベーゼンドルファー(セミコン以上)には、通常のピアノより低いエクステンディドキーが付いています。


これはもともと、大ピアニスト・ブゾーニ(1866~1925)の要求で付けられるようになったそうです。


ブゾーニは、バッハのオルガン曲「パッサカリア ハ短調BWV582」をピアノ編曲するために、

通常の最低音Aより低い音が必要だったのです。


★弦の強大な張力(約20トン)を支えている主役は、鋳鉄製の「フレーム」です。


19世紀半ばに、この鋳鉄フレームが誕生したことで、ピアノの音量が飛躍的に大きくなりました。


ベーゼンドルファーのフレームは、製造後に約半年の間、寝かせます。


直後に組み込みますと、わずかですが歪が発生し、ピアノ全体の力のバランスに影響が出てくるそうです。


このフレームは、約4週間かけ、吹き付けては研磨する、という手作業を、女性の手で5~6回繰り返します。


この丹念な仕上げこそがベーゼンドルファーの美意識の表れです。


かつて、チェンバロの蓋などに美しい装飾を施したり、絵画を描いた名残かもしれません。


ピアノの蓋を開けますと、まず、ブロンズ色の美しいフレームが目に飛び込んできます。


気品に満ち、明るく、節度ある美しさです。


スポットライトがフレームに当たりますと、ブロンズ色が新たな生命を得たかのごとく、

宝石のように光り輝き始めます。


その下にある響板の淡い黄色との対比も見事です。


いい音楽が立ち昇ってきそうな予感がいたします。


ヴァイオリンなど弦楽器の肌色ともこの上なく調和し、室内楽に、オーケストラに溶け込みます。


★ 余談ながら、バルトークは晩年、インペリアルの中古を使っていたそうです。



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