■ 私の大好きな銀座で、和装小物の 「 くのや 」 さんが閉店 ■
2012. 2. 6 中村洋子
( まだ現在は残っているショーウインドウ )
★東京は久しぶりに、しとしと小雨が降っております。
立春も過ぎ、気温もほんの少し、緩み始めたようです。
これが、春雨かもしれません。
★長いお付き合いの美容師さんが、銀座にいらっしゃることもあり、
銀座には、よく顔を出します。
いつも、山野楽器、鳩居堂、月光荘などに立ち寄りながら、
ウインドーショッピングを楽しみ、散歩いたします。
★若いころ、週に一回は、何を買うでもなく銀ブラをする
“ 銀座の小雀 ” でした。
意外にも、銀座は、舶来の高級なお店の街ではなく、
着物、 和装、 帽子、 草履、 下駄、 鞄、 靴、 眼鏡、 喫煙具、貴金属、
甘味屋、 和菓子、果実、 洋菓子、割烹、 鮨、 天麩羅、 蕎麦、 画廊・・・
日本の職人さんの手仕事が、集大成され、
その展示会場のような街、だったのです。
★美術館に飾られている 「 芸術品 」 とは、異なり、
毎日使って楽しむ、質の高い 「 日常品 」 が、誇り高く、
価値の分かる使い手、消費者を待っている街だったのです。
これは、私の愛する山本英明さんや佐川泰正さんの漆器に、
共通していえることです。
★悲しい、お知らせです。
和装小物の老舗として、江戸時代から続いていました
「 くのや 」 さんが、1月31日をもって、閉店されてしまいました。
銀座通りを 四丁目交差点から新橋方向に、右側歩道を、
ゆるゆる歩いていきますと、戦前の日本に戻ったような、
「 和のたたずまい 」 が目に入り、ほっとします。
二階の軒下には、赤い提灯が連なっています。
入口が二つあり、歩道の敷石が、お店の中までさりげなく、
伸びていますので、銀ブラの皆さまが、抵抗感なく、
スーッと、店内まで導き入れられるお店、
そんな凝った工夫があるお店が、 「 くのや 」 さんでした。
★足袋、 扇子、 帯〆、 半襟、 帯揚げ、 和装肌着、 半襦袢、 帯留め、
羽織紐、 着付け道具、 ガーゼの手拭い・・・、 どれひとつ見ても、
伝統工芸の歴史が凝縮されたような、手の込んだ美しい品々。
芳しいお香が、漂ってきそうです。
真夏には、甚平さんも入口にぶら下がり、風に揺れていました。
★銀座の表通りから、 ≪ 和装小物 ≫ のお店は、
壊滅してしまったのではないか、と危惧しております。
四丁目近くにありました 「 白牡丹 」 さんは、
もうかなり前に、消えました。
★書店も、めっきり少なくなり、寂しい限りです。
近藤書店、洋書のイエナ、福家、旭屋など大きな書店はほとんど消え、
教文館だけが、頑張っています。
★鰯料理の専門店として有名でした七丁目の 「 いわしや 」 さんも、
昨年九月、閉店されました。
作家・林 芙美子が、亡くなる直前に、ここの料理を召し上がったそうです。
閉店の理由は全く分かりませんが、福島原発の影響か?、
本物の良質な鰯料理を提供することが、困難になったのかもしれませんと、
勝手に、想像しています。
( いわしやさんの立派な看板と、閉店の張り紙 )
★七丁目の 「 東京羊羹 ビル 」 三階の、
喫茶室から眺める銀座通りは、輝いていました。
「 東京羊羹 」 も、数年前に姿を消しました。
伊東屋の斜め前の 鞄店 「 銀盛堂 」 さんも、忘れられないお店でした。
経営者のご兄弟は、正直で情に厚い、昔気質の東京人。
銀座でありながら、かつての粋な 「 浅草 」 を、彷彿とさせるお方でした。
http://www.kabanya.net/weblog/2009/07/post_765.html
池波正太郎が愛した 喫茶店 「 銀座清月堂 」 が、
レストラン 「 LINTARO 」 となり、無農薬野菜を使う健康的なフレンチの、
先駆けとして人気がありましたが、ここも閉店に。
★ 「 ギンザ・コマツ 」 も、衣類の量販店 「 ユニクロ 」 へと、
大変貌中でした。
「 ギンザ・コマツ 」 は、かつて 「 小松ストアー 」 と名乗っていた頃、
戦後の明るく、輝かしい時代の銀座を、引っ張っていった名店でした。
私も、ここの和服部門で、付け下げや帯などいろいろと、求めました。
お店に顔をだしますと、 「 まずはご一服、どうぞ! 」 と、
コーヒーが、出されます。
買う買わないは別として、近況を語り合い、
とりとめのないおしゃべりを、楽しみます。
「 古き良き銀座 」 が、そこにはありました。
★松屋の向い側の、 「 カネボウ 」 も、懐かしいお店でした。
所有が転々とし、現在は、 「 CHANL シャネル 」 のビルに、
なっています。
「 カネボウ 」 のドレスは、繊細な手作りです。
“ 本場のフランスでは、きっとこのようにお針子さんが、
丁寧に、丁寧に縫っているのでしょう ”と、
想像をめぐらせるほど、見事な出来栄えです。
★私も、ビーズ刺繍の付いた水色のドレスを、もっております。
シルク特有の絹擦れの音が、します。
源氏物語の、十二単の 「 絹擦れの音」 とは、
どんなものだったのか、想像することもできます。
本物に接するからこそ、想像が可能なのです。
大切に手元に置き、ときどき、うっとり眺めております。
★嘘をつかないで、誠実に、相手の希望に沿い、
双方が納得する適正な価格で、良品を売る街。
虚飾を売る街ではない、それが、銀座でした。
しかし、それは過去のものとなりつつあります。
★ここは New York か、Paris かしら? と思うほど、
海外のブランド店が、林立し、
ビル全体を豪華に、きらびやかに、飾り立てています。
兵隊のような、いかめしい門番が入口で誰何し、
“ 金持ち以外は、お呼びではないぞ ”
とでもいいたげな、威圧的で冷え冷えとした雰囲気。
気楽に立ち寄れる雰囲気では、まったくありません。
もう、昔の暖かい銀座ではありません。
銀座を愛する人たちの足が、次第に遠のいていくのは、
仕方のないでしょう。
かと思えば、薬や雑貨の安売り量販店も、蚕食し始めています。
( 昔、近藤書店のあった近辺 )
★このような舶来の高級ブランドには、私は少し懐疑的です。
ブランド料や家賃を差し引きますと、果たして、
その高価な値段だけの価値があるのかどうか、考えてしまいます。
ちょうど、海外から名前だけ有名なクラシックの演奏家や団体が、
来日し、法外な入場料を取り、
中身の伴わない演奏をすることが、多いのと、
同じように、思えます。
★近い将来、日本経済が恐慌に見舞われた場合、
こうした海外のブランド店は、さっさと店仕舞いして日本を去り、
銀座が、あっという間に廃墟のようになってしまうのではと、
つい、夢想もしてしまいます。
★とはいえ、いまの銀座でも大好きなお店はたくさんあります。
少しお腹がすいたときは、八丁目角の 「 天國 」 に、躊躇せず入ります。
女性一人でも入ることができ、静かで落ち着けます。
天丼は、本当に美味しく、お値段はとても良心的です。
お料理も、板前さんの良心と冴えが感じられます。
( 私は煙草が大嫌いですが、このデザインと色調は素敵ですね )
★Wolfgang Boettcher ベッチャー先生を、
この 「 天國 」 にお連れした時、先生は、ユーモアを込めて、
「 シューベルトのように、あなたはこのテーブルで作曲しているの ?」
先生も、すっかりくつろがれ、心から気に入られた様子でした。
いまの日本は、ほとんどのお店で、騒音よりもさらに、
神経を逆なでする、悲鳴のような “ 音楽もどき ” が、
バックグラウンドミュージックと称して、大音量で鳴らされています。
入る気が、しなくなります。
しかし、それが、当り前と受け入れられており、
その無神経さは本当に、異常な事態です。
★ 「 天國 」 のもう一つのすばらしさは、従業員の方々の、
心の籠った、応対です。
チェーン店では、マニュアル化された丁寧言葉が、乱射されていますが、
自分の心からでた言葉では、全くありません、
教育されたとおりに、機械的に喋っているだけですので、
“ インプロヴィゼーション ” がなく、慇懃で中身を伴いません。
でも、 「 天國 」 の皆さんは、仕事を愛し、
お客さまとの会話を、朗らかに、楽しんでいます。
「 外はお寒いです、お風邪に気をつけて 」 と、
にっこり微笑んで、送り出されます。
美味しいお料理に、心温まる言葉、
ほのぼのと、帰途につくことができます。
これが、銀座の名店です。
※copyright © Yoko Nakamura
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くのやさんは、かれこれ30年近く前に、卒業式の袴に合わせて、髪飾りを選んだお店でした。
当時の銀座は、「きちんとした格好をしないといけない(由緒正しい)場所」という印象で、ファストフード店など一軒もないばかりか、21時を過ぎるとほとんどのお店は閉店になっていた記憶があります。
マリオンが建つので映画館が閉鎖される直前には、週替わりで名画が2本立てで上映されていて、学校帰りに通った懐かしい思い出もあります。
よくケーキの食べ歩きもしましたが、路地を入るとこぢんまりとした喫茶店や洋服やさんが点在していて、発見する楽しみもありました。
買うこと食べることそのものよりも、買うまで食べるまでのステップが楽しい街でした。
今はデパートも「百貨」店ではないし、特色も薄まってしまっている気がします。もうどこで買っても同じといいますか。
大して美味しくもない店に行列ができるのも違和感を感じます。
それだけみなさん、気持ちに、時間に、余裕がなくなってしまっているんでしょうかね。。。
政治が乱れるのも、国民性の表れだという話を聞いたことがありますが、妙に納得してしまいます。
できる限り、知識の多い人より、少しでも知恵のある人になりたいと願い、努力していきたいです。
見ず知らずの方のサイトに、いきなりコメントしてしまってすみません。