■月光ソナタは、「遠隔転調」が次々と繰り出される劇的な音楽■
~第3回「月光ソナタアナリーゼ講座」は、3月16日~
2016.2.18 中村洋子
★私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫は、
お陰さまで、好評です。
銀座山野楽器本店では、「女性作曲家特集」としまして、
クララ・シューマン、ファニー・メンデススゾーンとともに、
私のSACD「「無伴奏チェロ組曲1~6番」(GDRL1001/1002)が、
この本と一緒に、展示されています。
銀ブラをされた折、どうぞついでにお立ち寄りください。
★昨日は、金沢カワイで第2回「月光ソナタ・アナリーゼ講座」を
開催いたしました。
私の本をご覧になって、初めて参加という方もいらっしゃいました。
とても嬉しいことです。
★講座では、 Beethoven ベートーヴェン(1770~ 1827)の
「月光ソナタ」と、 Chopinの「雨だれ」がどれだけ密接な関係にあるか、
さらに、両曲の 「Manuscript Autograph 自筆譜 」を
読み解くことで、演奏法までが、はっきりと浮かび上がってくる
ということを、具体的に、お話いたしました。
★表面上は「月の光が湖面に、淡々と降り注ぐような静寂な世界」です。
しかし、表面上の静けさとは正反対に、湖の水面下では、
「遠隔転調」が、次々と繰り出されているのです。
共通音が非常に少ない「遠隔調」への転調が、息つく間もないほどに、
次々に繰り出される、これは≪劇的≫としか形容できません。
「ウルトラC和声」の連続技です。
それでいて、曲を聴くだけでは、それを全く感じさせないのです。
★この両曲の関係につきましては、
私の本の「ChapterⅠ」 P25~29で、
詳しく説明しましたので、どうぞ、お読みください。
★淡々と繰り返される分散和音のため、
穏やかで静かな曲と誤解されてしまいますが、
そうではありません。
冒頭の4小節を見てみましょう。
★和声要約しますと、
1、2小節は、「cis Moll」 の
1小節 主和音 Ⅰ
2小節 主和音に第7音楽が付加した「Ⅰ₇」
この2小節で、cis Moll の主和音が確定されます。
★続く、3小節を要約しますと、
3拍目は何故 cis Moll の音階音の「dis¹」ではなく、
「d¹」(ナチュラルが付されています)なのでしょうか。
短調のⅡの和音は、減三和音なのですが、
cis Moll で説明しますと、
Ⅱの和音の根音「dis¹」を、半音下げて「d」にしますと、
やや不安定感のある減三和音が、ほんのりと“雪明り”のように
暖かみのがある長三和音に、変身します。
★この長三和音を「ナポリのⅡ」と、呼びます。
そして、この「ナポリのⅡ」は、三和音の基本形(5の和音)ではなく、
第1転回形(6の和音)で使われることが多いので
「ナポリの6」とも、いいます。
4小節目の1、4拍目は≪属七の和音(Ⅴ₇)≫です。
★(2拍目はⅠの第2展開形(Ⅰ²)とみることも可能ですが)、
2拍目「e¹」は、
1拍目属七の和声音「fis¹」と、3拍目属七の和声音「dis¹」をつなぐ、
経過音(非和声音)と、みなすことができます。
2、3拍目の内声「cis¹」も、
1拍目と4拍目の属七和声音「his」に対する「刺繍音」です。
★このように、2、3拍目の和音は、非和声音によって、
偶然形成された和音のため、≪偶成和音≫と呼びます。
★2、3拍目は、偶成和音ですので、この4拍目は、大きく見ますと
≪属七の和音(Ⅴ₇)≫と、とらえることができます。
★そして、続く5小節目は、主和音(Ⅰ)なのです。
つまり、
1、2小節目 トニック(T)
3小節目 サブドミナント(S)
4小節目 ドミナント(D)
5小節目 トニック(T) です。
★一見、何の変哲もない和声進行です。
しかし、3小節目をじっくり見ますと、
≪cis Moll 嬰ハ短調 のⅥ、ナポリのⅡ≫を
≪D Dur ニ長調 の Ⅴ、 Ⅰ≫と読み替えることも可能です。
★ Beethovenは、冒頭5小節の常識的な
cis Moll の T→S→D→Tのカデンツの中に
cis Moll からは遠い調(遠隔調)を、忍び込ませています。
★そして、 8、9小節目は E Dur (ホ長調)
10小節目は e Moll(ホ短調)
11小節目は C Dur (ハ長調)
12~19小節目は h Moll (ロ短調)です。
めくるめく劇的な転調が、次々と繰り出されています。
「静謐な音楽」という美しい衣を纏い、波風立たせず、
大変に革新的なことをしているのです。
★この「月光ソナタ」の第3回アナリーゼ講座は、 KAWAI 金沢で、
3月16日(水)午前10~12時半です。
Beethoven ベートーヴェンの自筆譜と初版譜を基に、
Bartók Béla バルトーク校訂の「月光ソナタ」の楽譜に付された
ペダルによるアナリーゼも一緒に勉強いたします。
合わせて、Chopinのプレリュード「雨だれ」の自筆譜も参照します。
★ Beethoven 、 Chopin という天才を育てたBach の大きな翼が、
彼らの背中を覆い包んでいることが、深く実感できるのです。
★2月24日(水)は、 KAWAI 名古屋での
≪平均律第1巻第2番≫アナリーゼ講座です。
カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」
午前10:00 ~ 12:30です。
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