■第3回アナリーゼ講座のお知らせ■
~バッハのプレリュードは、「月光」、「雨だれ」へとつながる~
2019.7.26 中村洋子
優雅に舞うハグロトンボ、浴衣の柄になりそう
★梅雨も明け、いよいよ夏です。
先週20日(土曜)は土用の入りでした。
(8月8日の立秋までの18日間が、ことしの夏と秋をつなぐ土用です)
この日、バッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻と、
この1巻を源泉とする名曲」アナリーゼ講座(全4回)の
第2回講座「平均律1巻7番Es-Dur」を、開催いたしました。
★遠隔地からはるばる参加された方も多く、毎回満員です。
ご参加の皆様に心よりお礼申し上げます。
ご参加することが難しく、当ブログを心待ちにしていらっしゃる方も
おいでになります。
最近、忙しさにかまけて更新がつい遅れがちですが、
クラシック音楽をより深く学び、楽しめるよう、頑張って
いろいろな角度から、楽しくお話をお届けしたいと、思います。
★今回は、「平均律第1巻7番Es-Dur」を、取り上げましたが、
前回第1回は、「 Inventio & Sinfonia1番」でした。
この二曲をシリーズ第1回に選んだ理由は、講座のお話の中で、
ご説明いたしました。
★その一端をお話いたします。
「平均律第1巻7番Es-Dur」のプレリュード冒頭1小節目のテーマは、
どこから由来し、どう発展したかを、まず考えてみます。
ちなみに、このプレリュード7番は、プレリュードでありながら、
テーマⅠと、10小節目に提示されるテーマⅡによる「二重フーガ」です。
このテーマⅠとⅡによるフーガは、25小節目から始まります。
★さて、平均律第1巻の「序文」が書かれた1722年の1年後に、
完成された 「Inventionen und Sinfonien 」のSinfonia シンフォニア1番、
この冒頭に提示される主題を、思い起こして下さい。
★両者が極めて類似していることに、気付かれることでしょう。
1小節目冒頭の16分音符に続く「ソ ラ シ g¹ a¹ h¹」は、
「平均律1巻7番」プレリュードの「ソ ラ シ g¹ as¹ b¹」と、
同形モティーフと、いえます。
平均律1巻7番プレリュード2拍目の「ラ ソ ファ ミ as¹ g¹ f¹ es¹」と、
シンフォニア1番1小節目4拍目の「ラ ソ ファ ミ a² g² f² e²」も、
同形のモティーフです。
★平均律1巻7番1小節目2拍目 4度の順次進行下行形と、
Sinfonia 1番1小節目2拍目 4度の順次進行上行形は、
互いに「反行形」であるとも言えます。
★それでは、この Sinfonia 1番のテーマの源泉は何処にあるのでしょうか。
それを辿りますと、明らかに Inventio1番と、平均律1巻1番のフーガに、
行き当たります。
Sinfonia 1番のテーマである1小節目2拍目「ド レ ミ ファ」のモティーフは、
Inventio 1番のテーマの1小節目1拍目と、
もちろん、平均律1巻1番C-Durフーガの Subject 主題冒頭の
「ド レ ミ ファ」とも、一致します。
★平均律1巻7番プレリュードの1小節目テーマ冒頭のモティーフは、
バッハにより、入念に計画された結果として、 Inventio1番、
Sinfonia1番、平均律1巻1番の各々の Subject 主題とモティーフを
共有していることが、分かります。
★これは決して、偶然ではありません。
「Bärenreiterベーレンライター版平均律1巻楽譜」に添付の
≪「序文」の解釈と解説(中村洋子著)≫2~8ページで、
詳しくご説明しましたように、
平均律1巻は、1番C-Durから6番d-Moll の六曲が、並外れたエネルギーで、
1セットとして、凝縮しています。
そのエネルギーと対峙し、それを跳ね返すほどの、新たな力を有しているのが、
この7番プレリュードです。
https://www.academia-music.com/products/detail/159893
★極論しますと、10小節目冒頭の半終止でプレリュードを終え、
すぐ、本来のフーガが始まることすら可能だったのですが、
屋上屋を重ねるように、フーガをプレリュードの中に挿入し、
その後に本来のフーガが始まる。
即ち、二度もフーガが続くのです。
★バッハは、なぜ、10小節目から70小節目まで、
目を見張るような充実した長大なフーガを書いたのでしょうか。
私の著書でご説明しましたように、1番~6番は、「ド レ ミ」の長三度と
「レ ミ ファ」の短三度の、目を見張るような飽くことなき展開でした。
従って、新しいセットの始まりであるこの「7番」を開始するに当たり、
通常のプレリュードでは、6番までに蓄積されたエネルギーを、
跳ね返せないのです。
この7番プレリュードの1~9小節目までのわずか「9小節」は、
6番までの全エネルギーを受け止め、それを弾(はじ)き飛ばすほどの
マグマに満ちています。
それは6番フーガから、実に周到に準備されており、
自筆譜のレイアウトからも、それが実証されます。
レイアウトの詳細な分析と、その後に長大なフーガを置いた理由を、
講座で詳しく、ご説明しました。
★それでは、バッハにとってプレリュード(前奏曲)とは、
一体何物だったのでしょうか?
そして、後世の大作曲家は、バッハのプレリュードから何を学び、
名曲を作曲したのでしょうか。
これが、次回10月19日の「第3回講座」の眼目となります。
参院選の投票場入口で、物思いにふけっていたアマガエル
-------------------------------------------------
■日時:2019年10月19日(土)14:00~18:00
■エッサム本社ビル4階 こだまホール
東京都千代田区神田須田町1-26-3
東京メトロ神田駅 5番出口 徒歩1分
JR神田駅 北口 徒歩3分 ※エッサム1、2号館ではありません
■定員:70名
https://www.academia-music.com/user_data/analyzation_lecture https://www.academia-music.com/images/pc/images/2019-3_Analyse.pdf
--------------------------------------------------
■第3回 ベートーヴェン≪月光≫ソナタ第1楽章及び、 ショパン前奏曲≪雨だれ≫
≪自筆譜から読み解く「月光」と「雨だれ」。この二曲には、
バッハの前奏曲が脈々と息づいています。≫
・ピアノソナタ作品27≪月光≫第1楽章と、ショパン前奏曲Op.28第15番≪雨だれ≫
を取り上げます。両曲とも、作曲家はあずかり知らないニックネームがつくほど、
人口に膾炙した曲です。この二曲を丹念に学んでいきますと、その背後から
バッハの前奏曲が姿を現します。
・この2曲の共通点は何でしょうか。
「月光」第1楽章は、cis-Moll(嬰ハ短調)、第2楽章はcis-Mollの同主長調Cis-Dur の
異名同音調のDes-Dur(変ニ長調)。第3楽章は、また元のcis-Mollに戻ります。
「雨だれ」は3部形式ですが、第1部はDes-Durです。中間部の第2部はcis-Moll。
第3楽章はDes-Durに復調します。
・「月光」と「雨だれ」の調性は、「合わせ鏡」のような関係です。
そして、 その構造と和声、対位法は、バッハの前奏曲から生まれ育ちました。
・この2曲の源泉は、次回「第4回」講座の「平均律第1巻」8番(前奏曲es-Moll、
フーガdis-Moll)であることも、紛れもない事実です。
■ Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)のソナタOp.27-2「月光」の
第1楽章は、cis-MOll(嬰ハ短調)です。
1楽章全般にわたり、静かに絶え間なく、 流れるように奏される上声3連符の分散和音に、
バッハの「平均律第1巻」第1番 C-Dur前奏曲の分散和音が、木霊し、呼応しています。
この上声と、下声の和音を形成するバスが、どのように対位法と和声を形成して
いるのか、自筆譜から読み解きます。
・Frederic Chopin ショパン(1810-1849)の前奏曲Op.28-15の1~27及び
76~89小節は、Des-Dur(変ニ長調)です。
そのDes-Dur部分の美しい上声の旋律と、間断なく反復される「変イ音as」の
8分音符に、耳を奪われ勝ちですが、 この曲の真骨頂はそれを支えるバスと
内声の縦横無尽な対位法です。 それを見抜いたのが、ショパンの自筆譜を研究し、
校訂版を出版した大作曲家 Claude Debussy クロード・ドビュッシー(1862-1918)
です。 ドビュッシーの音楽は、ショパンが存在したからこそ成り立ったとも言えます。
そのショパンに沁み込んでいるバッハは、当然のことながらドビュッシーにも
脈々と息づいています。
----------------------------------------------------------------------
■講師: 作曲家 中村 洋子 東京芸術大学作曲科卒。
・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、
「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。
「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・
ドルトムントのハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack Dortmund
から出版。
・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
(disk UNION : GDRL 1001/1002) 「レコード芸術特選盤」
・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。
・2016年、ベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行した
バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
「訳者による注釈」を担当。
CD『 Mars 夏日星』(ギター二重奏&ギター独奏)を発表。
(アカデミアミュージック、銀座・山野楽器2Fで販売中)
・2017年「チェロ四重奏のための10のファンタジー(第2巻、6~10番)」を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
・2017年、ベーレンライター出版(Bärenreiter-Verlag)刊行のバッハ
平均律クラヴィーア曲集第1巻」Urtext原典版の≪「前書き」日本語訳≫
≪「前書き」に対する訳者(中村洋子)注釈≫
≪バッハ自身が書いた「序文」の日本語訳≫
≪バッハ「序文」について訳者(中村洋子)による、詳細な解釈と解説≫を担当。
・2016~18年、「ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座」全10回、
「平均律クラヴィーア曲集第1巻 第1~6番・アナリーゼ講座」全6回を、
東京で開催。
※copyright © Yoko Nakamura
All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲