■Bachの「平均律序文」は何故、「ソ ラ シ」について触れなかったのか?■
~Sinfonia Ⅰの「ソ ラ シ」は ドミナントをも暗示している~
~4月20日「新アナリーゼ講座」第1回のご案内~
2019.3.31 中村洋子
★金木犀の枝の上を行ったり来たりしている小鳥。
メジロにしてはやや大柄、体の色も鶯色。
そうです、春の鳥ウグイスでした。
≪鶯の枝ふみはづすはつねかな≫ 与謝蕪村(1716-1784)
どうしてあのように落ち着きなく、せわしないのでしょう。
蕪村先生、少々大袈裟ですが、枝を踏み外さないのが不思議なくらい。
春の喜びを、全身で表現しています。
★4月20日の講座でお話します「 InventioⅠ & Sinfonia Ⅰ
インヴェンション 1番& シンフォニア1番」の勉強を続けています。
Bach 「Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集」の「序文」を
解読してから、この二曲を学び直しますと、今まで何を聴き、
何を考えていたのかと、以前の自分を訝しく思う程、
全く新しい広大な世界が、眼前に広がってきました。
★平均律第1巻「序文」の解釈の2、3ページを是非、お読み下さい。
https://www.academia-music.com/products/detail/159893
★『長3度即ち「ド レ ミ」と短3度「レ ミ ファ」を含む全ての全音と半音』
について、詳しく解説しました。
そして、3ページから8ページで、更に論を進めましたように、
それが、平均律1巻「1番C-Dur から 6番d-Moll の6曲1セット」の、
構成原理でもありました。
★それにつきましては、昨年2018年1、3、5、7、9、11月の
6回シリーズの講座で、1~6番までを詳しくご説明しました。
★さて、Bachが平均律1巻の序文を書いた1722年の翌年に完成された
「 Inventio & Sinfonia インヴェンション & シンフォニア」全30曲が、
この平均律第1巻の序文と、無縁の訳がありません。
全30曲という曲数は、「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の、
変奏曲の数とも一致しています。
即ち、未来をも凝視するBachの鋭い視線が、そこには存在します。
★私は今まで、「Inventio & Sinfonia インヴェンション& シンフォニア」
全30曲は、平均律1巻を蒸留し、要約し、纏め上げたものとばかり
思っていましたが、認識が浅すぎたと、言わざるをえません。
★さて、平均律1巻「序文」に戻りますと、
長3度即ち「ド レ ミ」と、短3度即ち「レ ミ ファ」の、
「ド レ ミ」、「レ ミ ファ」について、別の視点から見ることが
できます。
★長3度即ち「ド レ ミ」は、「トニック」主和音を暗示し、
短3度即ち「レ ミ ファ」は、「サブドミナント」下属和音をも、
暗示しているのです。
★下属和音とは、本来音階の(上)属和音、即ち主音の5度上の
属和音Ⅴに対し、主音から5度下の下属和音Ⅳを、意味します。
通常5度上の上属和音は、「上」を省略して「属和音」と言います。
★サブドミナントは、機能和声(functional harmony)では、
ドミナントに進行する機能を持ちます。
ドミナントは、トニックへと進行する機能を有します。
★下属和音は「Ⅳ」のみですが、下属和音Ⅳの代理の機能をもつ和音を、
下属音和声(subdominant harmony)と呼び、これには「Ⅱ」「Ⅵ」等も
含まれます。
★Bachの「序文」は、トニック「ド レ ミ」とサブドミナント機能の「レ ミ ファ」
に、言及しています。
以前からの疑問は何故、「ソ ラ シ」が暗示する属和音について、
あえて書かなかったか、ということです。
★それに対する見事な答えは、 Sinfonia シンフォニアⅠの自筆譜と、
Edwin Fischer エトヴィーン・フィッシャー(1886-1960)の校訂版
(Wilhelm Hansen Edition ~ Dreistimmige Inventionen)を、
手掛かりにして、見つけ出すことができます。
★エトヴィーン・フィッシャー(1886-1960)の Sinfonia 校訂版は、
「Dreistimmige Inventionen 3声のインヴェンション」という、
古い表記になっていますので、楽譜をお探しの際は、
お気をつけてください。
https://www.academia-music.com/products/detail/158499
https://www.academia-music.com/products/detail/32389
★フィッシャーは、この Sinfonia 1番について「優雅な落ち着いた
ニュートラルな作品である」とも、書いています。
★Allegro - Fliessend(Fluently)流れるようによどみないアレグロで
弾くことも、指示しています。
落ち着いた、ニュートラルな、流れるような性格は、
どこに起因するのでしょうか。
★自然に逆らわないで流れるように進行する、
そうです、これこそが「ドミナント(属和音)」の役割です。
「ソ ラ シ」の長3度です。
★ Sinfonia Ⅰの冒頭1小節目上声は、「g¹ a¹ h¹」が、
堂々と登場します。
★その「g¹ a¹ h¹」の「h¹」は、C-Durの導音ですので、
自然にサラサラと、主音「c²」に流れます。
その4つの音により形成されるmotif モティーフ「g¹-a¹-h¹-c²」は、
1小節目下声3拍目から2小節目下声1拍目にかけて、
拡大形「g- a-h-c¹」のカノンとなります。
★続いて、2小節目内声の2拍目「g¹-a¹-h¹-c²」に、
カノンが受け継がれ、春の小川のようにサラサラ Fluentlyに
流れます。
★ちなみにこの2小節目1、2拍目内声について、
フィッシャーは、Fingeringにより、このように注意喚起しています。
2拍目「g¹-a¹-h¹」は、重要なドミナントmotif。
2小節目1~2拍の内声「c¹-d¹-e¹-f¹」は、 InventioⅠのテーマから
展開されていることも、理解できます。
★ Sinfonia Ⅰの2小節目内声3拍目「h¹-c²-d²」に、フィッシャーが
わざわざ書く必要のない「1-2-3」のFingeringを記したのも、
InventioⅠの1小節目4拍目から2小節目1拍目の
「h¹-c²-d²」を想起せよ、と言っているようです。
★もちろん、 InventioⅠと Sinfonia Ⅰは、平均律1巻C-Durの
Fuga と三位一体です。
★これは、Bachの当初からの計画でしょう。
その中で、この SinfoniaⅠのドミナントを暗示する「ソ ラ シ」が、
どのような役割をもち、どのように Sinfonia Ⅰを構成しているか、
それを、どう解釈し、演奏や鑑賞につなげていくかを、
講座で分かりやすくお話いたします。
https://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/22472ff66e26d100a0530320d5e80299
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