■「平均律1巻」第3番「Cis-Dur」、調号に♯が7つも付いている異様性■
~「Cis-Dur」にした理由は、後世三人の天才作曲家の作品から分かります~
~次回「第4回平均律1巻アナリーゼ講座」のご案内~
2018.5.31 中村洋子
★5月26日は、第3回「平均律1巻アナリーゼ講座」でした。
会場は満員で、遠方からはるばるお出で下さいました方も、
たくさん、いらっしゃいました。
4時間の長丁場でしたが、大変に充実した講座となりました。
★まず「平均律1巻」第3番Prelude & Fuga のご説明を、
各1時間以上当てました。
★その後、何故、この曲が「Cis-Dur」、
つまり≪♯が7つも付いている調号≫
一見、"異様な調性"でなくては、ならなかったのか?
異名同音調の「Des-Dur」にすれば、≪♭が5つの調号≫で、
もっとスッキリと記譜でき、演奏も容易であるのに、
Bachは何故、あえて≪♯7つの調号≫にこだわったのか?
という、どなたでも抱かれる疑問に対し、
絶対に、≪♯が7つの調号≫でなくてはならなかった理由を、
詳しくご説明いたしました。
★また、この3番≪♯が7つの調号≫の謎を徹底的に分析した、
三人の天才作曲家、
Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)と
Frederic Chopin ショパン(1810-1849)
Maurice Ravel モーリス・ラヴェル(1875-1937) が、
その勉強と分析の成果として、音楽史上に残る傑作を産み出したことも
分かりやすくお話いたしました。
★「Cis-Dur」がいかに異様であり、「Des-Dur」ならば、
当時の常識でも通用する調性であったことを、
少し、ご説明いたします。
★3番は、「Cis-Dur」(嬰ハ長調)の Prelude & Fugaです。
≪♯が7つの調号≫ということは、
音階「ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド」の、すべての音に、
「♯」が付いている調、ということになります。
これだけでも、驚きです。
★「Cis-Dur」の主音「嬰ハ音」は、「Des-Dur」の主音「変ニ音」と、
異名同音です。
★「Des-Dur」(変ニ長調)の調性を見てみましょう。
「♭」が5つの調号で、「レ ミ ソ ラ シ」に「♭」が付きますが、
「ファ」と「ド」に「♭」は、ありません。
★異名同音調は、英語では「enharmonic key」、
異名同音の調号は「enharmonic key-signature」です。
★「Cis-Dur 嬰ハ長調」 Prelude & Fugaを、
異名同音調の「Des-Dur」に、書き換えてみます。
★何の問題もないばかりか、むしろ弾きやすく、馴染みやすくなります。
更に言いますと、例えば「C-Dur ハ長調」ならば、
「ファ♯」がたくさん出てきます。
「C-Dur ハ長調」が、属調「G-Dur ト長調」に転調することは、
ごく普通のことですが、その際、属調の導音は「ファ♯」です。
★これが「Cis-Dur 嬰ハ長調」ならば、
どういうことが起きるでしょうか?
属調「Gis-Dur」の導音が、「重嬰へ音」即ち、「fisis X」、
ダブルシャープという、当時ほとんど使われることのなかった、
臨時記号が頻繁に出現することになります。
★Bachの「Manuscript Autograph 自筆譜」でも、
現在のダブルシャープ記号は使われておらず、
「ファ」に、臨時記号「♯」を記しています。
これは、そもそも調号の「ファ♯」に、さらに「♯」を付け加える、
即ち、ダブルシャープということになります。
★Bachの「Manuscript Autograph自筆譜」を、勉強される方は、
このダブルシャープには、気を付けてお読みください。
★なおかつ、Bachの記譜で臨時記号は「1音」のみ有効で、
現在のように、「1小節」有効ではありませんので、
1小節に「ファ♯」が、何度も出てくることになります。
それらは、すべて「ファ・ダブルシャープ」を意味します。
★これほど面倒な調を選ばずとも、「Des-Dur」で記譜すれば、
調号は「♭5つ」で、属調「As-Dur」の導音は「G」ですから、
調号「Ges」を、「♮」で「G」に戻すだけですので、
弾く人は、何のストレスも感じないでしょう。
★何故、バッハが「Cis-Dur 嬰ハ長調」にしたか?
その答えは、前述の三人の天才作曲家、
Beethoven、Chopin、Ravel が創造した曲を、
詳しく分析することから、明確に一点の曇りもなく
分かってきます。
今後の講座でも、逐次取り上げていく予定です。
★講座の前夜は、国立能楽堂で、
私が尊敬します山本東次郎先生の狂言「禰宜山伏」を、
鑑賞いたしました。
本物の芸術に触れることで、心と身体が活き活きとし、
平均律講座の充実につながったように、思います。
次回ブログで、この狂言について少し書く予定にしております。
★山本東次郎先生については、私の著作
≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫の
251ページ「新春 能狂言 山本東次郎 能 バッハ」を、
ご覧下さい。
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★「平均律第1巻」アナリーゼ講座第4回のご案内です。
https://gigaplus.makeshop.jp/academiamus/pc/news/4_Analyse.pdf
https://www.academia-music.com/news/33
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~ 第4回 平均律第1巻第4番 cis-Moll プレリュードとフーガ ~
●講座内容 4番 cis-Moll は、1巻全24曲の中での最初の頂点
第1巻全24曲は、6曲1セットを土台として構成されていく大宇宙
●日時 平成30年7月21日(土) 14:00~18:00 ※途中休憩あり
●会場 エッサム本社ビル 4階 こだまホール
●定員 70名 ※定員になり次第、締め切らせていただきます。
第4回のお申込みは、6月1日10:10より受付いたします
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★2017年に出版しました《ベーレンライター平均律第1巻楽譜》添付解説
(Bachが自ら書いた『序文』の詳細な分析と解説、前書きの翻訳と注釈)
のP2~8で、詳しく解説しましたように、この最初の6曲セットは、1、2番と
5、6番が両方からあらん限りの力で押し合っているイメージです。
その真ん中の曲が、3番Cis-Dur、4番cia-Mollなのです。
★この4番フーガは、5声部で114小節にわたる大規模なフーガです。
最後は"嘆きの湖"に沈み込むかのように、深く、豊かで荘重な歌で終わります。
その後、弾けるように、5番D-Durの「フランス風序曲」風のプレリュードが
始まります。 この構成をどこかで記憶されていませんか?
そうです!、「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」全30曲の前半最後の
15番から16番への転換です。受難を象徴するような沈痛な15番g-Mollの後、
後半冒頭の16番は、豪華で陽光に満ちたフランス風序曲のG-Durでした。この
「ゴルトベルク変奏曲」の15番と16番との関係を、平均律第1巻の4番と5番に
見ることができるのです。Bachはこの4番にどんな意味を込めたか、詳しく
ご説明いたします。
■プレリュード
33小節目の属音「Gis」から主音「cis¹」に一気に11度音程を駆け上る音階は、
「Matthäus-Passionマタイ受難曲」第1曲目のバスの音階と共通しています。
(私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫のP314参照)
Bachは、このエネルギーを1小節目からどのように蓄え、この音階まで発展
させたのでしょうか?
■フーガ
プレリュードの巨大なエネルギーが、わずか五つの音で形成されている
「主題」へと、滔々と流れ込みます。この「主題」は、3種類の「対主題」を
従え、順々に発展させ、渾然一体、大河の様相を呈します。大地を揺るがす
ようなオルガンの響きも髣髴とさせ、第1番から4番までを登りつめてきたその
頂点であることを実感させます。
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■講師: 作曲家 中村 洋子
東京芸術大学作曲科卒。
・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。
「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・
ドルトムントのハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack Dortmund
から出版。
・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
(disk UNION : GDRL 1001/1002)
「レコード芸術特選盤」
・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。
・2016年、ベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行した
バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
「訳者による注釈」を担当。
CD『 Mars 夏日星』(ギター二重奏&ギター独奏)を発表。
(アカデミアミュージック、銀座・山野楽器2Fで販売中)
・2017年「チェロ四重奏のための10のファンタジー(第2巻、6~10番)」を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack Dortmund
から出版。
・2017年、ベーレンライター出版(Bärenreiter-Verlag)刊行のバッハ
平均律クラヴィーア曲集第1巻」Urtext原典版の
≪「前書き」日本語訳≫
≪「前書き」に対する訳者(中村洋子)注釈≫
≪バッハ自身が書いた「序文」の日本語訳≫
≪バッハ「序文」について訳者(中村洋子)による、
詳細な解釈と解説≫を担当。
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