■超新星のような、爆発的エネルギーを秘めた第2楽章冒頭■
~Fauré のPiano Trio Op.120 の源泉もイタリア協奏曲~
~ KAWAI 金沢「イタリア協奏曲第2楽章・アナリーゼ講座」~
2016.11.16 中村洋子
★先日、東邦音楽大学で若い人とお話することができ、
Bach平均律第1巻1番の Preludeもただ機械的に
ゼクエンツ(同型反復)の連続として弾くのではなく、
Bachが自筆譜で指し示しているように、どうしたら生きた音楽として
演奏できるかをお話しました。
学生の皆さんからは、「楽譜ってあのように見るのですね」。
「面白かった、楽しかった」、「とても勉強になった」などの
感想をいただきました。
★来年1月東京での≪Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲≫
後期アナリーゼ講座の案内が、「東京六大学ピアノ連盟」 の
「お知らせ」欄に掲載されたそうです。
http://rokuren.com/for-members/
ピアノが、音楽が大好きな
◾慶応義塾ピアノソサィエティー
◾明治大学ピアノの会 KLAVIER
◾立教大学PIANOの会
◾上智大学ピアノの会
◾ 東京大学ピアノの会
◾早稲田大学ピアノの会
の学生さんが集まって作られている組織です。
★現在の日本は、音楽が満ち溢れているように見えますが、
実は、本当の美しい、真の音楽を聴き、学ぶ機会が以外にも、
非常に少ないと言わざるを得ません。
★音楽の専門家を目指すのではなく、毎日の生活の中で、
音楽がある喜び、楽しみをもとうとされている、若い方々にも是非、
≪Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲≫アナリーゼ講座を、
聴いていただきたいものです。
≪Goldberg-Variationen≫により、Bachへの、
さらにはクラシック音楽の豊かな世界がさらに広がるからです。
その結果、ご自分で良い作品、良い演奏家を識別できる力が
養われるのです。
★18日(金)は KAWAI 金沢で、
「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」
第2楽章のアナリーゼ講座を、開催いたします。
★「イタリア協奏曲」講座は既に、東京と名古屋で開きましたが、
「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」前半15曲の、
アナリーゼ講座を開催しました後に、
「イタリア協奏曲」を勉強しますと、これまでとは、
全く違う曲を見ているのではないかと思うほど、
新しい相貌を見せてくれますことに、つくづく驚かされます。
★ Pablo Casals パブロ・カザルス(1876-1973)が、
生涯死ぬまで、毎日Bachを演奏し、勉強し続けたことの意味が、
ようやく、分かってきたような気がします。
★イタリア協奏曲第2楽章は、最初の1段が5小節で記譜されています。
冒頭1~3小節目は、左手のパートだけで右手は休んでいます。
4小節目から、切々とした“violinの歌”が奏されます。
★どこかで思い出しませんか?
前回ブログで書きました
Gabriel Fauré ガブリエル・フォーレ(1845-1924)の
ピアノトリオOp.120の、第1楽章冒頭部分に
大変よく似ています。
★イタリア協奏曲第2楽章は「d-Moll 二短調」。
第1楽章は「F-Dur ヘ長調」、
第2楽章はその平行調である「d-Moll 二短調」。
第3楽章は、1楽章と同じ「F-Dur ヘ長調」です。
★それに対し、Fauré のピアノトリオ1楽章は「d-Moll 二短調」、
第2楽章はその平行調である「F-Dur ヘ長調」、
第3楽章は1楽章と同じ「d-Moll 二短調」です。
調性の配置も大変によく似ていますね。
★イタリア協奏曲の第2楽章とFauré のトリオ第1楽章は
同じ「d-Moll 二短調」です。
両者のこの関係は、Beethoven の「月光ソナタ」と
Chopinの「プレリュード」との関係と、全く同じです。
クラシック音楽の王道を往くということは、こういうことです。
それがすべて傑作であることは、言うまでもないことです。
★「月光ソナタ」につきましては、私の著書で、
その自筆譜の読み方を、詳しく解説しています。
★イタリア協奏曲第2楽章の1~3小節目の左手だけの部分は、
Fauré のトリオ第1楽章の1~2小節目に、相当するでしょう。
★ここで重要なことは、
イタリア協奏曲第2楽章最初の3小節間は、
ごく簡単な伴奏のように見えますが、
実は、その3小節に、この2楽章全部の主要 motif モティーフを、
ほぼ全部含んでいる、と言っても過言ではない重要な部分なのです。
★例えば、1小節目の3拍目から2小節目冒頭にかけての
「g¹ a¹ b¹」の3度の motif モティーフは、
切々としたviolinのメロディーを髣髴とさせる
5小節目2~3拍目の「g² a² b²」と同じ motif モティーフであり、
1オクターブ上の「canon カノン」ということです。
★これも、前回ブログで指摘しました、
Fauréの「d← →d」で、両側から締め付けているフレーズと、
全く同じ構造です。
右端、左端から内部に向かって物凄いエネルギーを発して、
フレーズを作っていることになります。
★さらに、2段目は6~9小節目の4小節を記譜していますが、
6小節目2拍目に「g¹ a¹ b¹」が再び、登場します。
ここを「初版譜」で見ますと、
1小節目の「g¹ a¹ b¹」の、ほぼ真下の位置に、
2段目の「g¹ a¹ b¹」が配置されています。
この絶妙なレイアウトには、感嘆します。
★さらに、次の7小節目では、
今度は、この motif モティーフを逆から読んだ「b¹ a¹ g¹」が、
逆行形として提示されています。
さらに、この「b¹ a¹ g¹」の真ん中の音「a¹」に
「Triller(独)/trill(英)」が、付けられています。
それにより、「この motif モティーフが大変重要ですよ」と、
Bach先生が親切に、注意喚起しています。
★そして、この2段目最後の9小節目は、
1拍目で「b¹ a¹ g¹」の motif モティーフを配置しています。
もう一度、2段目をよく見ますと、冒頭の6小節目「g¹ a¹ b¹」と、
9小節目「b¹ a¹ g¹」の両端からやはり、エネルギーを内側に閉じ込め、
そのエネルギーの沸騰点となる7小節目2拍目には、
「Triller」を伴った「b¹ a¹ g¹」があるという、
超新星のような、爆発的エネルギーを秘めています。
★このように見ていきますと、これだけでも、
このイタリア協奏曲が、物凄い構造で出来ていることが
お分かりであると思います。
★それらを読み解く手掛かりは、Bachが生前に出版した
「初版譜」のFacsimileである、ということが言えます。
★しかし、これでアナリーゼができたという風に、
この三つの motif モティーフのみを、
ことさら際立たせて演奏することは、Bachの意図ではありません。
では、どう演奏したらいいのでしょうか。
★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)の炯眼が、
本当のBachの演奏へと導いてくれるのです。
しかし、その炯眼の読み方を学ぶ必要もあります。
その読み方を知りませんと、
当たり前のところにFingeringが数多く付されていたり、
あえて、弾き難いFingeringを提示しているように見えるため、
敬遠されてしまいます。
それゆえ次第次第に、この歴史的な名校訂版を、
手に取る人が少なくなったのです。
★あえて言いますと、冒頭で書きましたように、
見かけ上のクラシック音楽の繁栄とは裏腹に、
効果だけを狙ったクラシック音楽の本道を外れた演奏が、
大手を振っているのかもしれません。
★講座では、これらのことを踏まえ、
どのように演奏に結びつけるか、
分かりやすくお話しします。
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■中村洋子 Bach《イタリア協奏曲・第2楽章》アナリーゼ講座
~美しい旋律に、非和声音が精緻に装飾されている~
●日 時 : 11月18日(金) 午前10時~12時30分
●会 場 : カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9
(尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 有料駐車場をご利用下さい)
●予 約 : Tel.076-262-8236 金沢ショップ
★初版譜の2楽章冒頭に、Bachが珍しく自ら記したテンポ記号≪Andante≫は、どのような深い意味を持つのでしょうか。
Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960)は、
彼の校訂版で、この第2楽章について「悲しみから滲み出る嘆きが、
希望へと、そして哀願へと移り変わっていく。
最後に再び、自らの中で嘆きが消え去っていくのである。
この嘆きの歌の多彩なニュアンスは、
言葉では言い尽くせないほどである」と、注釈しています。
★蜘蛛の糸のように精妙に織り込まれた第2楽章の右手旋律は、
≪非和声音≫をたくさん含んでいます。
この右手旋律を、装飾音記号で書き換えることも可能です。
★装飾音記号で書き換えますと、旋律の骨組みが、
むき出しに現れてきます。
この、主に≪和声音≫から成る「骨組み」が、どのように≪非和声音≫で装飾されているのか・・・、
それを理解いたしませんと、右手が絶えず、美しい旋律を
細やかに弾いているだけの「退屈な演奏」になってしまいます。
★Bach は、Alessandro Marcello マルチェッロのオーボエ協奏曲を、
独奏鍵盤作品に編曲しています( Concerto d-Moll BWV974, nach dem Concerto d-Moll fur Oboe, Streicher und Basso continuo von Alessandro Marcello)。
マルチェッロの原曲を、どんなに美しく Bachが装飾し編曲したかを
勉強いたしますと、第2楽章が一気に、分かりやすくなります。
★ピアノで Bach を演奏することの楽しみ、満ち溢れる喜びを
きっと実感できることでしょう。
Marcelloマルチェッロを、Bach編曲で弾く楽しみについても、
お話いたします。
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■講師:中村洋子プロフィール
東京芸術大学作曲科卒。
・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。
「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5) チェロ四重奏のための
10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・ドルトムントの
ハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
disk UNION : GDRL 1001/1002)
・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。
・2016年、ベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
「訳者による注釈」を担当。
※copyright © Yoko Nakamura
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