音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ブラームス第 4交響曲冒頭、幻の4小節があった、しかし、あえてそれを削除■

2014-07-28 20:03:40 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■Brahms第 4交響曲に、幻の出だしがあった、しかし、あえてそれを削除した■

               2014.7.28    中村洋子

 

 

                                                                     ( 合歓 )

 


★梅雨が明けると、焼けるような真夏の日差し。

日本の四季は、律儀ですね。


★秋以降の「KAWAI・名古屋アナリーゼ講座」スケジュールです。

 ■第 15回 インヴェンション&シンフォニア 第15番 h-Moll
  ~15番は、Inventionen & Sinfonien 全 30曲の Coda ~
      2014年 10月 29 日(水) 10:00 ~ 12:30
         カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」

 ■「 Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲 」 
  ~ 第1楽章
        2015年 2月25日(水)10:00~12:30
  ~ 第2、3楽章
        2015年 3月25日(水)10:00~12:30
         カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」

 

 


★前回のブログで、 Johannes Brahms ブラームス(1833~1897)の、

「 Symphony No.4 交響曲第 4番 」 について、

Celibidache チェリビダッケ の Brahms観と合わせて、書きました。


★Brahmsの 「 Symphony No.4 Manuscript Autograph 自筆譜 」 は、

1885年10月25日の Meiningen マイニンゲンでの初演に、使われ、

1886年 Simrock ジムロック出版が Berlinで出版する際にも、

それを基に、Engraver 彫り師が版を作ったようです。


★第 1楽章は、 51 pages あり、Brahms 自身が黒いペンで、

page 番号を、記入しています。


★51 page の真ん中で、 第 1楽章は終わっているのですが、

その右を見ますと、とても興味深いことに、

さらに 「 4小節 」 が書かれているのです。

青い鉛筆で、その 「 4小節 」 を、

第 1楽章の冒頭に持ってくるようにと、

指示する記号も、書かれていました。


★しかし、その 「 4小節 」 には、たくさんのバツ印が引かれ、

結果的に、削除してありました。


★この 「 4小節 」 は、「 Symphony No.4 」 の、

「 幻の出だし 」 だったのです。

 

 

 

 


★詳しく、「 4小節 」 を見てみますと・・・、

「 1小節 」 は、ティンパニーを除いた、 「 f 」 の tutti 総奏 による、

重厚な和音です。


★div.分割された violin ヴァイオリンの、一番高い音は、

「 3点 ホ音 e3 」。

聴く人には、この高い 「 ミ 」 の音が、耳に焼き付きます。

この時の和音は、 e-Moll  の Ⅳ 下属和音です。

この和音による衝撃的な “ 一撃 ” の後、

弦楽器は 1小節後半から 2小節まで、沈黙します。


★flute、oboe、clarinet、fagotto、horn が、

dim.ディミヌエンドしながら、 「 c2 - h1 - g1 」 、

「 c1 - h - g 」 の旋律を、聴かせます。

「 h1 - g1 」 は、現行の曲頭の 「 h2 - g2 」 の、先取りでしょう。


★この 4小節では、弦楽器はすべて pizzicato ですので、

管楽器を聴かせるオーケストレーション、といえます。


★和声については、 1、 2小節は 「 下属和音 Ⅳ 」 、

3、 4小節は 「 主和音 Ⅰ 」 です。

そして、この 「 幻 」 の 4小節の最後の拍が、

現行版 arco の Violin 1、2で奏される

Auftakt  「 h2 」 と 「 h1 」 との、ユニゾンになるのです。

 

 

 

 


この 「 幻の 4小節 」 も、見事な音楽です。

Brahmsは、一旦、現行版を完成させ、

そして、この 「 幻の 4小節 」 を加えた版を作ろうとしました。

しかし、推敲に推敲を重ね、

最後に、 「 幻の 4小節 」 を捨てました。


私は、この 「 捨てる 」 という “ 創作の営み ” を、

Brahms が、あえて断行できたことで、

この曲が、さらなる永遠の価値を得たと、

思います。


★ 「 幻の 4小節 」 がない現行の曲頭は、聴く人に対し、

音楽が、「 唐突 」 に始まったような印象を、与えます。

この “ 唐突感 ” は、どこかで経験されたことがございませんか?


★そうです、 Wolfgang Amadeus Mozart 

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)の

Symphony No.40  K.550  「 g-Moll 」 です。

よく似ています。


★ Mozart も、曲頭に和音の tutti 総奏 を置いてから、

おもむろに、現行版の出だしにつなげることも可能でした。

彼の作風から、十分にそうした可能性も考えられます。

 

 

 

 


しかし、 Mozart も Brahmsも、あえてそれを捨てました。

それが、この二つの大傑作に見られる、

≪ 究極の技法 ≫なのです。

大上段に振りかぶる 「 出だし 」 をすべて消し去り、

いきなり、 「 本質 」 を提示したのです。


この両曲を聴く人の耳には、冒頭を聴いた瞬間、

その前から、音楽がすでに鳴り響いている・・・、

ずっと、鳴り響いていた・・・、

その音楽の美しい渦に、出だしを聴いた瞬間から、

呑み込まれ、巻き込まれる、ひたる・・・、

そのような錯覚を、呼び起こすでしょう。


初めて聴いた人でも、その冒頭の

美しさは、決して、忘れえない記憶として、

残ることでしょう。


これこそ、両天才が、晩年に行きついた、

究極の手法です。


★しかし、この ≪ 究極の手法 ≫ が、突然閃いたのでしょうか?

そうではありません。

その根源は、実は、Bach の

「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」

第18番  fis-Moll に、あるのです。

Mozart 、Brahms がいかに、Bach を深く勉強していたか、

ということの証明なのです。

 

 

 

 

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