音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ 「 Fur Elise エリーゼのために 」 がなぜ名曲か&ケンプの名演 ■

2011-09-18 16:18:43 | ■私のアナリーゼ講座■

■ 「 Für Elise エリーゼのために 」  がなぜ名曲か&ケンプの名演 ■
                  2011.9.18       中村洋子

 

  

 

カワイ表参道で、9月28日( 木 )開催の、

「 第 16回 平均律アナリーゼ講座 」  で、お話いたします、

Beethoven  ベートーヴェン (1770~ 1827)

 「 Für Elise エリーゼのために 」  ( 1810年ころ成立 ) を、

詳しく、見ています。


★もし、 Wilhelm Kempff  ヴィルヘルム・ケンプ ( 1895~1991) の、

名演 ( ケンプ 「 ベートーヴェン・アンコール 」 POCG 90112 ) と、

ベートーヴェン の残した 2ページのドラフト Zweiseitiger Entwurf Beethovens

 ( Beethoven - Archiv , Bonn )  が、無かったとしましたら、

私は、この曲を講座で扱うことは、なかったでしょう。

 ( ベートーヴェンの完全な Manuscript Autogragh は、失われています  )

 

 


★クラシック音楽を、全く知らない方でも、

知らない方はいないほど、人口に膾炙した曲です。

日本でも、陳腐に編曲されたり改竄されたものが、満ち溢れています。


★しかし、にもかかわらず、そんなにも人の心を打つのは何故か?

それを、考えてみますと、意外にもといいますか、当然といいますか、

ヨーロッパ・クラシック音楽の ≪ 名曲の条件 ≫ を、すべて備えている、

ということが、分かります。


★  Zweiseitiger Entwurf Beethovens を、詳しく見ますと、

2、 3、 4 小節目と、 9、 10、 11 小節目の 1拍目に、

「 Pedal 記号 」 が付けられ、さらに、 その小節が終わる直前に、

「 O 」 のマークが、付けられています。

「 O 」 はおそらく、 「 Ohne 」 = 「 無しで、without 」 の略ですから、

≪ 次の小節に移る直前で、ペダルを離しなさい ≫ という意味です。   


★8小節目の 「 第 2括弧 」 部分と、

22小節目の 「 第 1括弧 」 部分に、書かれている楽譜は、

同じですが、上声の 16分音符 シ - ド - レ  ( H - C - D ) の、

意味するものは、全く違います。


★ Kempff ケンプはなぜ、22小節目の  ( H - C - D ) を、

テヌート気味に、強調して弾いているのでしょうか?

 

 


★ベートーヴェン時代も、今日も同じですが、

ペダルは、音を曖昧にぼかすために使われているのでは、

決して、ありません。

それを、勘違いいたしますと、 「 エリーゼのために 」 が、

巷で聴こえてくる 「 ムード音楽 」 と、一緒になってしまいます。


★この 「 ペダルの意味 」 と、 「 22小節目の テヌート 」 こそが、

 「 Für Elise エリーゼのために 」 が、名曲たる所以なのです。

この点につきましては、講座で詳しくご説明します。


★Kempff ケンプの名演に接した後、私も真似をして、

ピアノで弾いてみましたが、全く、歯が立ちませんでした。

それは、Beethoven ベートーヴェン の 32の ピアノソナタ を、

あれ程、深く学び読み込み、さらには、その根源の曲である、

Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 ) の、

 「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 を、

生涯、学び続けた人にしか、できない演奏だからです。


★私は、バッハや ベートーヴェン の名曲に対し、

安易に 「 編曲 」 して、勝手に音を加えたり、減らしたり、

あるいは、原曲とは全く違う調に変えてしまう、

 「 移調 」 に、反対です。

そのようにしましても、当然、そこそこの感動は得られます。

それは、名曲であるがゆえに、当然のことです。


★しかし、例えば、バッハの、「 6  Suiten für Violoncello solo

無伴奏チェロ組曲 全 6曲 」 を、

他の楽器で、移調して演奏することは、

バッハが考えた ≪ 調の設計 ≫ を、

ズタズタにすることに、なりかねないのです


★Kempff ケンプ演奏 「 エリーゼのために 」  の、

 59小節以降の  「 A 」  の、

 repeated notes の美しさは、

形容しようが、ありません。

なぜ、ケンプがこのように演奏できたか、

それを、考え続けることが、

「 Bach  バッハ 」 に近づく、第一歩です。

 

 

                                    ※copyright ©Yoko Nakamura

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