■ 「 Für Elise エリーゼのために 」 の草稿から分かること ■
2011.9.27 中村洋子
★ Beethoven ベートーヴェン(1770~ 1827) の、
「 Für Elise エリーゼのために 」 a-Moll WoO 59 は、
1808年の草稿があり、1810年ごろの完成と、推測されています。
しかし、完成稿は行方不明で、現在では、
この2ページの草稿 Zweiseitiger Entwurf Beethovens
( Beethoven - Archiv , Bonn ) が、残されているだけです。
★モーツァルトの手紙などの研究者であった、
Nohl ノール (1831~1885 ) が、1865年、
この 「 Für Elise エリーゼのために 」 を発見した、とされています。
出版は2年後の1867年、ベートーヴェン没後 40年です。
★ Elise は、ベートーヴェンを診察していた医師の娘、
Therese Malfatti テレーゼ・マルファッティ のことではないかと、
現在では、推測されています。
★エリーゼが誰であったか、という詮索は、
曲を弾くうえで、意味はありません。
最終稿が不明である以上、残された2枚の草稿から、
ベートーヴェンの作曲意図が、どうであったかを知り、
演奏に活かすことが、肝心です。
★幸いなことに、残された 2ページは、
黒と青の二色のペンで、記載されています。
黒で書いた後、青で推敲した跡が、手に取るように分かります。
何気ないこの小品も、天才が練りに練って作曲した作品である、
ということが、実によく分かります。
★特に、私が注目しますのは、
60小節から 75小節にかけての、和音の書き方です。
左手部分の、16分音符 「 repeated notes 」 の上に、
右手の和音が、奏せられます。
★この右手の和音は、 2和音であったり、 3和音であったり、
4和音と、いろいろです。
音の性格が、それぞれ異なっているにもかかわらず、
現在の実用譜では、 1本の符尾で、音を串刺しにして、
無機的に、表記しています。
★しかし、ベートーヴェンの草稿をつぶさに見ますと、
そのようには、書かれていません。
61小節目の、付点 4分音符の和音
( 下から E - G - B - Cis 、 ホ - ト - 変ロ - 嬰ト ) は、
ソプラノの 「 Cis 」 のみ、符尾が上向きで、
その下の、 「 E - G - B 」 は、まとめて、
符尾が、下向きとなっています。
★ベートーヴェンは、ここで、この 4つの音を、はっきり、
「 ソプラノの Cis 」 と、
「 3分割された アルト ( E - G - B ) 声部 」 とに、
分けているのです。
★VERLAG BEETHOVEN-HAUS BONN から出版されています、
この自筆譜の 「 Transkription 」 では、
この 4音を、ひとまとめに下向き符尾で、
串刺しに、表記しています。
これは、明白な誤りです。
★62小節以降は、ベートーヴェンの草稿どおりになっています。
この 「 Transkription 」 を、ご覧になる方は、くれぐれもご注意ください。
いかに、自筆譜を、自分の目でじっくりと見ることが大切か、
思い知らされます。
★ベートーヴェンは、 61 ~ 75小節目の右手部分を、
「 ソプラノと、分割されたアルト 」 というように、
はっきりと、声部を分けています。
つまり、 「 repeated notes 」 のバスと、
分割されたアルト、ソプラノで、
最低でも 「 3声 」 で書いているのです。
★それを知るだけでも、この部分の演奏が、
どんなに、豊かになることでしょう。
★それは、もちろん、バッハを源泉としていることは、
言うまでもないことです。
29日のカワイ表参道 「 第 16回 平均律アナリーゼ講座 」 で、
詳しく、お話します。
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