■平均律1巻14番fis moll が、バルトーク版ではなぜ 15曲目に置かれているか■
2011.7.5 中村洋子
★暑い名古屋から、東京に帰りました後、
2007年から書き続けてきました、
「 無伴奏チェロ組曲 」 の 「 第 6番 」 終楽章を、
書き終えました。
★夏のマスタークラスのため、6月 30日にベルリンを発たれる
Wolfgang Boettcher ベッチャー先生に、
ぎりぎり、お送りすることができました。
先生は既に、「 無伴奏チェロ組曲 第4、5番 」 を、勉強されており、
6番までそろったことで、先生がどのような演奏を考えられるか、
とても、楽しみです。
★ 7月 14日に、カワイ表参道で開催いたします
「 平均律アナリーゼ講座 」 の、勉強をしています。
バッハの平均律を校訂するには、バッハに匹敵するような音楽家でないと、
難しい面が多い、と思われますが、
Bartók Béla バルトーク(1881~1945)による 校訂版は、
強く、お薦めしたい楽譜です。
★Bach 「 Wohltemperirte Clavier
平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 14番 fis moll 」 は、
バルトーク版では、≪ 1巻 第 15番目 ≫ に、配置されています。
その前後を見ますと、≪ 14番目は、バッハの1巻 19番 A dur ≫、
≪ 16番目には、バッハの第 1巻 18番 gis moll ≫ が、置かれています。
★調性の面から見ますと、 A dur と fis moll は、
平行調の関係にあり、調号は、 ♯が 3つ です。
gis moll は、調号が ♯ 5つ 、
この 3曲は、 「 ♯系 」 で、束ねられているのが、分かります。
★バルトークは、脚注で、 ≪ fis moll(14番フーガ)の、
7小節目と 28小節目の、二つの Zwischenspiel (嬉遊部)の部分を、
p あるいは pp で、全く色彩がない(farblos)ように、弾く ≫
ことを、求めています。
★同様の演奏法を、求めている例は、
≪ ※ 3声の Sinfonia シンフォニア f moll ≫ と、もう一つ、
前述 ≪ 19番 A dur fuga フーガ 第2部の開始部 ≫ です。
★また、 fis moll( 14番 fuga フーガ )の 7小節目と、28小節目のみ、
この曲の中で、バスが休止しています。
この 4声の fuga フーガで、バスが休止して、上 2声のみで、
柔らかくデリケートに、演奏されるのは、ここだけです。
★19番 A dur第2部の開始部 はソプラノのみで始まり、
直後にアルトが入り、3小節間、この 2声で続きます。
このアルトも、アルトとしては、大変に高い音域で、
あたかも 第 2ソプラノ のように、聞こえます。
★バルトークは、ここを、 pp non espressivo
( pp で、表情をつけずに) と指示しています。
なるほど、この 3小節間と、 fis moll ( 14番フーガ ) の 、
7、 28小節目 は、極めて似た書き方と、響きをもっています。
ただし、19番 A durのフーガの場合、
第 2部 の ≪ 最も大切な変形テーマの提示 ≫ なのです。
fis moll( 14番フーガ )は、嬉遊部という、緊張を和らげる部分です。
★さきほど指摘しました 「 Zwischenspiel (嬉遊部)」 の
「 Zwischen 」は、英語の 「 between 」、
「 spiel 」 は英語の「 play 」で、
主題と主題の間に奏するもの、と言う意味が原義です。
★バルトークが、何故、この 2曲を並べたのでしょうか?
≪ 同じような書き方、響き ≫ であっても、
大事なテーマの、「 提示部分 」 に表れるときと、
「 間を奏する= 嬉遊部 」 に出てくるときとを、比較し、
そこで、どのように、異なっているか、
★この 2曲を、続けて演奏した時、どのような効果が表れてくるのか、
実感して欲しい。
それが、バッハの魅力を探る一つの方法である・・・、
と、考えたからでしょう。
私は、そのように思います。
★この点を、来週 14日のアナリーゼ講座で、
詳しく、お話いたします。
■※注: バルトークは、 シンフォニア9番 f moll の該当個所を、
指摘していませんが、 私は、 「 5、 6小節 」 である、と思います。
ここは、バスが休止し、 上 2声のみが、奏される
Zwischenspiel (嬉遊部) です。
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