音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■シューマンの“ インヴェンション ”が、「 子供のためのアルバム 」■

2011-03-03 23:59:06 | ■私のアナリーゼ講座■

■シューマンの“ インヴェンション ”が、「 子供のためのアルバム 」■
                          2011.3.3 中村洋子

 

 


★ 前回のブログで、触れましたように、Schumann シューマンの、

「 Album fur die Jugent 子供のためのアルバム 」 Op.68 は、

バッハ「 Inventionen インヴェンション 」 に、

匹敵するような、素晴らしい  「 形式と内容 」 をもっています。


第 1番の 「 Melodie = メロディー 」  をもとに、

次々と、曲が紡ぎだされていくのです。

「 インヴェンション 」  と、同じ構造です。

 1小節目の曲頭「 E 」から始まる、上声のフレーズは、

一般に使われている  「 実用譜 」  では、

2小節目の最後の音  「 G 」 で、閉じています。


★ しかし、自筆譜を見ますと、 「 G 」 を、

軽やかに飛び越え、 2小節目と 3小節目との間の、

小節線に向かって、たなびくように、伸びています。


★ その後、3小節目の 第 1音は、この曲の前半の頂点である、

1オクターブ高い  「 G 」  から、また新しくフレーズを、

始めています。

 

 


★ これは、なにを意味しているのでしょうか?

この上声を、実際に歌ってみますと、

答えは、簡単に得られます。


★ 最初のフレーズが終わった 2小節目と、次のフレーズが始まる

3小節目の間で、 ≪ ブレスをしてはいけない ≫

ということ、なのです。

 

2小節目 最後の「 G 」では、フレーズを閉じずに、

その後、 ほんの一瞬、 声をひそめ、

1オクターブ高い、 3小節目 1拍目の 「  G  」 へ、

≪ 跳躍しなさい ≫ 、 ということになります。


★ 私は、この曲をピアノの弾いていますと、

あの大歌手  Lotte Lehmann ロッテ・レーマンの声が、

本当に、聴こえてくるような気がします。

なぜ、この曲の題が  「 Melodie = メロディー 」  なのか、

実に、よく、分かるのです。

 

 


≪ 歌うように弾きなさい ≫  というのは、

言うは易し、実際は難しいのです。

シューマンの歌曲を、深く勉強しますと、

この 4小節の弾き方が、ようやく、分かってくるのです。

シューマンという天才の曲は、小さく単純そうに見えても、

決して、侮ることのできない、一筋縄ではいかないのです。

それが、天才の曲という、ことでもあるのです。


★このフレーズでの、記譜の仕方について、

「 単なる偶然で、筆が滑っただけではないか 」  と、

思われる方も、いらっしゃるかもしれません。

 

 


★しかし、似たような例として、シューマンの

歌曲集 「 Dichterliebe 詩人の恋 」 Op.48 ,

第 1番 「 美しき五月に 」  が、あります。


★ 曲頭、ピアノの開始音  「 Cis 」 から、

当然、フレーズが始まるはずなのですが、

フレーズの線は、その前、つまり、曲の始まる前から、

たなびくように、描かれており、

「 Cis 」 の上空を、あたかも浮遊するように、流れていきます。

これは、ピアニストにこの曲は 「 Cis 」 から始まるのではなく、

ピアノで、音を出す前から、

「 美しい五月 」 の音楽が始まっている、

その音楽を、心で奏でてから、弾き始めなさい、

という指示です。


★ そうしますと、この  「 Cis 」 を、

どのような音色、タッチで弾くべきか、

自ずと、分かってきます。

 

 


「 子供のためのアルバム 」 の、

第 1番 「 Melodie = メロディー 」 の自筆譜からは、

このほかにも、たくさんの発見があります。

それが、第 10番「 楽しき農夫 」 に、

どのように、つながっていくのか、

「 楽しき農夫 」 下声のフレーズを、

シューマンが、どのようにとらえて、作曲したか・・・、

それについては、3月7日  「 横浜みなとみらい・カワイ 」 での

「 第  4回 インヴェンション・アナリーゼ講座 」  で、

詳しく、お話いたします。

 

 (名古屋・ 亀末広:お干菓子「ひな祭り」、万作、土佐ミズキ花芽、紅梅 )

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