音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ショパンの「 前奏曲 」 雨だれの源泉は、平均律 1巻の 3番& 4番 ■

2010-03-28 22:55:52 | ■私のアナリーゼ講座■
■ショパンの「 前奏曲 」 雨だれの源泉は、平均律 1巻の 3番& 4番 ■
                10.3.28    中村洋子


★30日のカワイ表参道・「 第 3回平均律アナリーゼ講座 」 のため、

ショパンの 「 24の前奏曲 」 Op.28 の

No. 15 Des dur 変ニ長調 「 雨だれ 」 を、

自筆譜を見ながら、詳細に検討しております。


★平均律の第 1回講座で、平均律 1番ハ長調と、

ショパンの「 24前奏曲 」 1番 ハ長調が、実に、似通っており、

“ 双子 ” のような関係にあることを、お話しました。


★今回の講座、バッハ 「 第 3番嬰ハ長調 」 と、

ショパンの「 雨だれ 」も、同様な関係です。

「 雨だれ 」 は、さらに、バッハの「 4番嬰ハ短調 」 をも、

取り込んでいます。


★「 雨だれ 」 は、三部形式で成り、第 1部は変ニ長調、

第 2部は嬰ハ短調、再現部としての第 3部は、

もちろん、変ニ長調です。

変ニ長調の主音「 変ニ音 」は、「 嬰ハ音 」と異名同種音です。

このため、考えようによっては、

「 雨だれ 」 は、嬰ハ長調、嬰ハ短調、嬰ハ長調、の

調性で書かれている、とも言えます。


★どうでしょう。

ここで、平均律 3番と 4番の調が、出てきます。

この調性のみならず、形式、モティーフ、フレーズの作り方など、

ショパンが、バッハから何を学んだか、手に取るように分かります。

講座では、それを詳しくご説明します。


★ショパンは、二つの「 エチュード 」、Op.10 と Op.25 を作曲しています。

この 2 曲集をあわせると、 “ 24 のエチュード集 ”になります。

一見しますと、こちらの方が、よりバッハの 「 前奏曲 」 に、

近い内容を、もっているように、思われます。


★しかし、ショパンは、より自由度を増したようにみえる

Op.28の曲集を、なぜ、「 前奏曲 」 と命名したのでしょうか。


★ショパンの伝記によりますと、1838年、28歳だったショパンは、

ジョルジュ・サンドと 「 マジョルカ島 」 に滞在していましたが、

パリを離れるとき、発送を依頼したプレイエル・ピアノが、

なかなか届かず、2ヶ月近くも、まともなピアノなしの生活でした。

クリスマスの頃に、やっと、プレイエルが部屋に届き、

思う存分、ピアノを弾けるようになりました。

そこで直ぐに弾いたのは、「 バッハ 」、

大好きな 「 バッハ 」 だったそうです。


★また、マジョルカ島から、弟子のフォンタナへの手紙で、

ショパンは、「 机の上には、蜀台と蝋燭、バッハ、

僕の下書きなどがある 」と、書いています。

翌年の1月、出来上がった 「 24の前奏曲 」 を、パリに送っています。


★「 前奏曲 」 の作曲中、不自由な環境のなかで、

焦がれるように、バッハを弾いていた、ことがよく分かります。

そして、初めて、バッハと同じタイトル 「 前奏曲 」 を、付けたのは、

バッハを元としながら、ショパンのオリジナルな 「 創造 」 が、

この曲集により、結実したという自負の表れでしょう。


★私の感想ですが、「 エチュード 」 は、あまりに「 バッハ 的 」 なので、

ショパンがそれを、「 前奏曲 」 と命名しなかったのが、

分かるような気がします。


★伝統を完全に自分のものとし、その上に、独創的なものを、

加えていくのが、伝統の真の継承でしょう。

ショパンが、バッハに何を加え、どう革新していったか、

この二人の天才の自筆譜を、見比べることにより、分かってきました。


★その一例として、バッハの「 アウフタクト 」と、

ショパンの 「 アウフタクト 」の相違についても、お話します。



                          (馬酔木の花)
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