■ギター独奏曲「十三夜」の初演と、ご質問へのお答え■
09.10.30 中村洋子
★きょうは、旧暦の「十三夜」です。
澄んだ夜空に、月が、煌々と輝いています。
昨年、私が作曲し、CDで発表しましたギター独奏曲の題名も、
同じ、「十三夜」です。
★先日、この「十三夜」が、斉藤明子さんにより、初演されました。
CDをお聴きになり、この曲を気に入っていただいた方が多く、
てっきり、もう初演されていたと、錯覚していましたが、
今回が、世界初演でした。
◆斎藤明子 ギターソロリサイタル
◆日時:2009年 10月 18日
◆会場:慶応義塾 協生館 藤原洋記念ホール
★ 「十三夜」が収録されています CD「星の林に月の船」には、
ソプラノとギターの「日本の12ヶ月」や、
ソプラノ独唱の「万葉五題」などの長い曲が、入っています。
それらを作曲した後、ふっと両肩の力を抜いて、書きましたのが、
ギター独奏曲「十三夜」です。
★いま、振りかえってみますと、この曲は、
バッハの「前奏曲」の様式で、書いています。
自分以外の曲について、アナリーゼして構成を見通すことは、
容易になってきたのですが、自分の曲となると、
どうして、そのように書いたのか、作曲中は無我夢中ですので、
よく、分かりません。
★これは、どの作曲家にも、多分いえることではないでしょうか。
この無我夢中という状態を、自然人類学者の江原昭善先生 ※ は、
「至高体験=peak experience 」とおっしゃいます。
★至高体験は、米国の心理学者アブラハム・マズロー博士
Abraham Harold Maslow の説で、
創作中、集中力が異常に高まった時、思いがけず、
素晴らしい創造が、なされることがある、という意味です。
作曲家の、そのような状態も「至高体験」といってよい、と、
江原先生は、おっしゃっています。
★私の「十三夜」は、たくさんの曲を書き終えた後、
高い集中力のまま、作曲されたことは、間違いありません。
斎藤明子さんは、曲の構造も含め、しっかりと理解してくださり、
CDには、いい演奏を録音していただきました。
★彼女は、ゆっくりのテンポと、速いテンポの二種類を、用意されました。
両方とも、大変に説得力があり、一つを選択し難い気持ちになりました。
そこで、「日本の12ヶ月」の前に、速いテンポの「十三夜」を置き、
さらに、「日本の12ヶ月」の後に、遅いテンポの「十三夜」という、
変則的な構成と、いたしました。
★名古屋での「インヴェンション・アナリーゼ講座」の後、
ご質問が、寄せられました。
「生徒さんにインヴェンションを教えていて、どの程度弾けるようになったら、
合格点を与え、次の曲に進んだらいいのか」という内容でした。
★このインヴェンションは、どんな大ピアニストでも、
一生かけて、何度も、真剣に取り組むべき曲ですので、
「合格点=ゴール」は、本来、存在しないというのが大前提です。
では、どこの時点で、一応の“合格”と、するのがいいのでしょうか。
★お子様に教えている場合、その子が、
≪このインヴェンションを、もっと弾きたい、ひたりたい≫という欲求、
心の中の欲求が、高まったときが、“合格”の時である、と、
私は、思います。
それ以上、レッスンで続けますと、ルーティンになる危険性があります。
★生徒さんは、自宅で、楽しみとして、そのインヴェンションを、
弾き続け、さらに、暗譜も完全に、できるようになります。
子供の時に覚えた曲は、一生忘れません。
★私の幼い頃の先生は、レッスンが非常に短く、あっさりし過ぎていました。
すぐに合格点をくれ、次の曲に進んでしまいました。
私としては、もっと詳しく教えて欲しいという、不満がありました。
しかし、いつも、家でインヴェンションを弾き、楽しんでいました。
★合格点をもらったから、もう、インヴェンションを弾かない、
ということでは、決してありません。
講座での「暗譜の方法」その①、その②で、お話しましたように、
自分の求めるピアノの奏法や音、表現、演奏様式などは、
自分で、苦労して身に付けていくしかないのです。
★日本人演奏家の欠陥と、よく指摘されることですが、
いくつになっても、“大先生” から、手取り足取り、
教えてもらわないと、弾くことができない。
外国にも行き、次々と “大先生詣で” を、することで、
やっと、安心できる。
★でも、本当に大切なもの、必要なものは、自分で見つけ出すべきで、
それは、一番身近なところ、すなわち、
自分の心の中から、探し当てるものです。
生徒さんに、合格点を与える先生も、日々、倦まず弛まず、
練習と勉強を、していただきたい、ものです。
先生からにじみ出る、バッハへの愛情や尊敬、理解が、
子供、生徒さんには、敏感に伝わります。
これが、私の「合格点をどこに置くか」の、ご返答です。
★「十三夜」に戻りますが、私が、バッハを尊敬し、
勉強し続けている過程で、この曲が生まれました。
「インヴェンションのお薦めCD」の記事でも、
お話しましたように、一つの曲について、多様な解釈演奏を、
可能にするのが、バッハの曲なのです。
★「十三夜」を、斎藤明子さんが、二つの解釈を示されたことは、
とても、素晴らしいことである、と思います。
それと、もっと、たくさんの方に、この演奏を聴いていただきたい、
というのが、私の作曲家としての、願望です。
★私の本分は、作曲家としての仕事です。
作曲するための勉強の過程で、学んだこと、発見したことを、
「アナリーゼ講座」で、お話しているのです。
画家が、ルーブル博物館で、名画を模写して学ぶのと同じで、
その成果が、「アナリーゼ講座」といえるでしょう。
◆ CD「星の林に月の船」 価格:二千五百円
取扱:平凡社出版販売株式会社 担当:中崎さま
〒102-0074 東京都千代田区九段南3-1-1
久保寺ビル5階
TEL03-3265-5885
FAX03-3265-5714
E-mail:ZXF10613@nifty.com
※当ブログ 09.6.21の
≪江原昭善先生の「自然人類学者の独り言」と、バッハの「手稿譜」≫を参照
(千両の実)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
09.10.30 中村洋子
★きょうは、旧暦の「十三夜」です。
澄んだ夜空に、月が、煌々と輝いています。
昨年、私が作曲し、CDで発表しましたギター独奏曲の題名も、
同じ、「十三夜」です。
★先日、この「十三夜」が、斉藤明子さんにより、初演されました。
CDをお聴きになり、この曲を気に入っていただいた方が多く、
てっきり、もう初演されていたと、錯覚していましたが、
今回が、世界初演でした。
◆斎藤明子 ギターソロリサイタル
◆日時:2009年 10月 18日
◆会場:慶応義塾 協生館 藤原洋記念ホール
★ 「十三夜」が収録されています CD「星の林に月の船」には、
ソプラノとギターの「日本の12ヶ月」や、
ソプラノ独唱の「万葉五題」などの長い曲が、入っています。
それらを作曲した後、ふっと両肩の力を抜いて、書きましたのが、
ギター独奏曲「十三夜」です。
★いま、振りかえってみますと、この曲は、
バッハの「前奏曲」の様式で、書いています。
自分以外の曲について、アナリーゼして構成を見通すことは、
容易になってきたのですが、自分の曲となると、
どうして、そのように書いたのか、作曲中は無我夢中ですので、
よく、分かりません。
★これは、どの作曲家にも、多分いえることではないでしょうか。
この無我夢中という状態を、自然人類学者の江原昭善先生 ※ は、
「至高体験=peak experience 」とおっしゃいます。
★至高体験は、米国の心理学者アブラハム・マズロー博士
Abraham Harold Maslow の説で、
創作中、集中力が異常に高まった時、思いがけず、
素晴らしい創造が、なされることがある、という意味です。
作曲家の、そのような状態も「至高体験」といってよい、と、
江原先生は、おっしゃっています。
★私の「十三夜」は、たくさんの曲を書き終えた後、
高い集中力のまま、作曲されたことは、間違いありません。
斎藤明子さんは、曲の構造も含め、しっかりと理解してくださり、
CDには、いい演奏を録音していただきました。
★彼女は、ゆっくりのテンポと、速いテンポの二種類を、用意されました。
両方とも、大変に説得力があり、一つを選択し難い気持ちになりました。
そこで、「日本の12ヶ月」の前に、速いテンポの「十三夜」を置き、
さらに、「日本の12ヶ月」の後に、遅いテンポの「十三夜」という、
変則的な構成と、いたしました。
★名古屋での「インヴェンション・アナリーゼ講座」の後、
ご質問が、寄せられました。
「生徒さんにインヴェンションを教えていて、どの程度弾けるようになったら、
合格点を与え、次の曲に進んだらいいのか」という内容でした。
★このインヴェンションは、どんな大ピアニストでも、
一生かけて、何度も、真剣に取り組むべき曲ですので、
「合格点=ゴール」は、本来、存在しないというのが大前提です。
では、どこの時点で、一応の“合格”と、するのがいいのでしょうか。
★お子様に教えている場合、その子が、
≪このインヴェンションを、もっと弾きたい、ひたりたい≫という欲求、
心の中の欲求が、高まったときが、“合格”の時である、と、
私は、思います。
それ以上、レッスンで続けますと、ルーティンになる危険性があります。
★生徒さんは、自宅で、楽しみとして、そのインヴェンションを、
弾き続け、さらに、暗譜も完全に、できるようになります。
子供の時に覚えた曲は、一生忘れません。
★私の幼い頃の先生は、レッスンが非常に短く、あっさりし過ぎていました。
すぐに合格点をくれ、次の曲に進んでしまいました。
私としては、もっと詳しく教えて欲しいという、不満がありました。
しかし、いつも、家でインヴェンションを弾き、楽しんでいました。
★合格点をもらったから、もう、インヴェンションを弾かない、
ということでは、決してありません。
講座での「暗譜の方法」その①、その②で、お話しましたように、
自分の求めるピアノの奏法や音、表現、演奏様式などは、
自分で、苦労して身に付けていくしかないのです。
★日本人演奏家の欠陥と、よく指摘されることですが、
いくつになっても、“大先生” から、手取り足取り、
教えてもらわないと、弾くことができない。
外国にも行き、次々と “大先生詣で” を、することで、
やっと、安心できる。
★でも、本当に大切なもの、必要なものは、自分で見つけ出すべきで、
それは、一番身近なところ、すなわち、
自分の心の中から、探し当てるものです。
生徒さんに、合格点を与える先生も、日々、倦まず弛まず、
練習と勉強を、していただきたい、ものです。
先生からにじみ出る、バッハへの愛情や尊敬、理解が、
子供、生徒さんには、敏感に伝わります。
これが、私の「合格点をどこに置くか」の、ご返答です。
★「十三夜」に戻りますが、私が、バッハを尊敬し、
勉強し続けている過程で、この曲が生まれました。
「インヴェンションのお薦めCD」の記事でも、
お話しましたように、一つの曲について、多様な解釈演奏を、
可能にするのが、バッハの曲なのです。
★「十三夜」を、斎藤明子さんが、二つの解釈を示されたことは、
とても、素晴らしいことである、と思います。
それと、もっと、たくさんの方に、この演奏を聴いていただきたい、
というのが、私の作曲家としての、願望です。
★私の本分は、作曲家としての仕事です。
作曲するための勉強の過程で、学んだこと、発見したことを、
「アナリーゼ講座」で、お話しているのです。
画家が、ルーブル博物館で、名画を模写して学ぶのと同じで、
その成果が、「アナリーゼ講座」といえるでしょう。
◆ CD「星の林に月の船」 価格:二千五百円
取扱:平凡社出版販売株式会社 担当:中崎さま
〒102-0074 東京都千代田区九段南3-1-1
久保寺ビル5階
TEL03-3265-5885
FAX03-3265-5714
E-mail:ZXF10613@nifty.com
※当ブログ 09.6.21の
≪江原昭善先生の「自然人類学者の独り言」と、バッハの「手稿譜」≫を参照
(千両の実)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲